エジプトへの逃避_(ムリーリョ)とは？わかりやすく解説

『エジプトへの逃避』
	スペイン語: Huida a Egipto; 英語: The Flight into Egypt
作者	バルトロメ・エステバン・ムリーリョ
製作年	1647-1650年
種類	キャンバス上に油彩
寸法	209.6 cm × 166.4 cm (82.5 in × 65.5 in)
所蔵	デトロイト美術館、デトロイト

『エジプトへの逃避』（エジプトへのとうひ、西: Huida a Egipto、英: The Flight into Egypt）は、17世紀スペイン・バロック期の巨匠バルトロメ・エステバン・ムリーリョが1647–1650年にキャンバス上に油彩で制作した絵画である。最初にロンドンのウィリアム・チャップマン (William Chapman) 卿のコレクションに記載され、その後、様々なイギリスの所有者を経て1945年にロンドンのクリスティーズの競売で売却された。その際、モーリス・ハリス（英語版）に購入された作品はニューヨークに移され、1940年代末に寄贈されて以来^[1]、デトロイト美術館に所蔵されている^[2]。

作品

本作は、14世紀以来のキリスト教美術において人気のある主題である聖家族のエジプトへの逃避を表している^[3]。『新約聖書』中の「マタイによる福音書」(2章13-14) にによれば、イエス・キリストの養父聖ヨセフは、天使からお告げを受けた。それは、ヘロデ大王が「ユダヤ人の王」となる新生児の脅威から自身を守るためにすべての初子 (ういご) を殺そうとしているというものであった。ヨセフは、家族とともにローマ帝国領となっていたエジプトへ逃げよという天使の指示に従った^[4]。

本作の聖家族は「海の道」と知られる海岸沿いの道を通ってエジプトへ逃げている途中である^[2]。聖ヨセフと聖母マリアを等身大のリアルな姿に表わし、この場面を人間的で緊迫感あるものとしている。彼らは普通の親のように見える。マリアは腕の中で眠る幼子イエスを注意深く見つめる一方、ヨセフは自身の家族を守ろうとする自然な願望を示す心配そうな表情をしている^[2]。このような親しみやすい様式により、ムリーリョは17世紀後半のセビーリャを代表する画家となったのである^[2]。

研究者ディエゴ・アングーロ (Diego Angulo) の『Catálogo crítico (批評目録)』には、ほかにも少なくとも2点の同主題作が記されている^[5]。それらはブダペスト国立西洋美術館にある1660年ごろの作品と、ジェノヴァのパラッツォ・ビアンコ（英語版）にある本作よりやや大きな1645-1650年制作の作品である^[6]。ブダペストのヴァージョンは場面に飛翔する2人の天使を加え、ヨセフ、マリア、幼子イエスはデトロイトにある本作とは逆方向に移動している。ジェノヴァのヴァージョンはセビーリャのラ・メルセ・カルサーダ教会 (La Merced Calzada) のために描かれたようで、ナポレオン戦争中の1810年にニコラ＝ジャン・ド・デュ・スールト将軍に掠奪されるまではその教会にあった^[7]。

脚注

^ (スペイン語) Cámara, Alicia (2005). «Una mirada cotidiana a al divinidad». Murillo Madrid: Arlanza. pp. 28 y 56. ISBN 8495503484.
^ ^a ^b ^c ^d “The Flight into Egypt”. デトロイト美術館公式サイト (英語). 2025年8月5日閲覧。
^ (フランス語) Paris, Jean (1998). La Fuite en Égypte. Éditions du Regard. p. 30 y ss. ISBN 2-84105-001-7
^ 大島力　2013年、110頁。
^ (スペイン語) Angulo, Diego (1981). Murillo, su vida, su arte, su obra. Catálogo crítico. Madrid: Espasa Calpe. pp. 208-9 (vol. I) and 246 (vol. II).
^ (イタリア語) “Fuga in Egitto”. museidigenova.it. 2018年11月29日閲覧。
^ (スペイン語) VV. AA. (2010). Museo de Bellas Artes de Sevilla y Museo de Bellas Artes de Bilbao, ed. El joven Murillo. pp. 278-281. «Catálogo de la exposición».

参考文献

大島力『名画で読み解く「聖書」』、世界文化社、2013年刊行　ISBN 978-4-418-13223-2

外部リンク

デトロイト美術館公式サイト、バルトロメ・エステバン・ムリーリョ『エジプトへの逃避」 (英語)

[1] (スペイン語) Cámara, Alicia (2005). «Una mirada cotidiana a al divinidad». Murillo Madrid: Arlanza. pp. 28 y 56. ISBN 8495503484.

[:0-2] “The Flight into Egypt”. デトロイト美術館公式サイト (英語). 2025年8月5日閲覧。

[3] (フランス語) Paris, Jean (1998). La Fuite en Égypte. Éditions du Regard. p. 30 y ss. ISBN 2-84105-001-7

[4] 大島力　2013年、110頁。

[5] (スペイン語) Angulo, Diego (1981). Murillo, su vida, su arte, su obra. Catálogo crítico. Madrid: Espasa Calpe. pp. 208-9 (vol. I) and 246 (vol. II).

[6] (イタリア語) “Fuga in Egitto”. museidigenova.it. 2018年11月29日閲覧。

[7] (スペイン語) VV. AA. (2010). Museo de Bellas Artes de Sevilla y Museo de Bellas Artes de Bilbao, ed. El joven Murillo. pp. 278-281. «Catálogo de la exposición».

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表話編歴バルトロメ・エステバン・ムリーリョ
宗教画	『ヨセフとポティファルの妻』 (1640-1645年) 『天使たちの厨房』（1646年）『エジプトへの逃避』（1647-1650年頃）『小鳥のいる聖家族』（1650年頃）『ロザリオの聖母』（1650-1655年頃）『聖母の聖ベルナルドゥスへの顕現』（1655年頃）『善き羊飼い』（1660年頃）『受胎告知』（1660年頃）『リベカとエリエゼル』（1660年頃）『聖母の誕生』（1661年）『エル・エスコリアルの無原罪の御宿り』（1660-1665年）『幼い洗礼者聖ヨハネと子羊』（1660-1665年）『6人の人物の前に現れる無原罪の聖母』（1662-1665年）『古代ローマ貴族の夢』（1662-1665年頃）『エジプトへの逃避途上の休息』（1665年頃）『聖ペテロの解放』（1665-1667年）『ヤコブを祝福するイサク』（1665-1670年）『聖家族』（1665-1670年）『放蕩息子の帰還』（1667-1670年頃）『ベトザタの池で足萎えを治すキリスト』（1667-1670年頃）『貝殻の子供たち』（1670年頃）『聖母子』（1670-1672年頃）『病人を治療するハンガリーの聖エリザベト』（1672年）『パンと魚の奇蹟』（1669-1674年頃）『アブラハムと三人の天使』（1670-1674年頃）『アランフエスの無原罪の御宿り』（1675年頃）『ベネラブレスの無原罪の御宿り』（1678年頃）『聖パウロの改宗』（1675-1680年頃）『天上と地上の三位一体』（1675-1682年）『聖アンデレの殉教』（1675-1682年）
風俗画	『乞食の少年』（1645-1650年頃）『ブドウとメロンを食べる子供たち』（1645-1650年）『犬を連れた少年』（1655-1660年）『窓辺の二人の女性』（1655-1660年頃）『小さな果物売り』（1670-1675年）『窓枠に身を乗り出した農民の少年』（1675-1680年）『パイを食べる子供たち』（1675-1682年）
肖像画	『自画像』（1670年頃）『ニコラス・オマスールの肖像』（1672年）

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