アパテイアとは? わかりやすく解説

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アパテイア【(ギリシャ)apatheia】

読み方:あぱていあ

パトスのない、の意》人間情念欲情支配されないで超然として生きる状態。ストア学派は、この境地を生活の理想とし、哲学的訓練目標とした。アパシー。→パトス


アパテイア

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/23 06:57 UTC 版)

ストア派の哲学者、マルクス・アウレリウス

アパテイア[1]またはアパテイアー[2]古希: ἀπάθεια apatheia)は、ギリシア哲学の概念。「感情パトス)がない状態」を指す[3]無情念[4][5]不動心[6][7][5]などとも翻訳される。特にストア派において理想的な境地とされた。

ストア派

不動心 アパテイアに近づくほど人は力に近づく。悲しみと同様に怒りもまた弱さである。どちらも傷つくこと、降参することなのである。 — マルクス・アウレリウス自省録』11.18. 荻野弘之[7]

ストア派によれば、不幸の源は、怒り悲しみといった感情パトス)である[1][8]。ストア派の賢者は、こうした感情にまどわされず、理性ロゴス)に従って生きるとされる[5][1][8]。アパテイアは「精神の城塞」をもつこととも表現される[7]

ストア派の賢者でも、喜びのような「良い感情」はもつとされる(エウパテイア)[3][8][9]。アパテイアの類義語に「メトリオパテイア」(適度に感情をもつ状態)があり、中庸を重視するペリパトス派との論争点になった[3][10][11]。ストア派が怒りを否定したのに対し、ペリパトス派やエピクロス派は怒りが必要なときもあるとした[12]

ストア派の外部からは、感情を否定するストア派は非人間的として批判・揶揄の対象になった(ゲッリウス『アッティカの夜』)[13]。現代語の「ストイック」が「禁欲的」という意味をもつのもアパテイアが一因となっている[1]

ストア派以外

ストア派より前に、キュニコス派もアパテイアを説いた[3]。ストア派の後では、新プラトン主義[14][9]古代末期のキリスト教ギリシア教父・初期修道院)でも説かれた[1][10][11]

精神医学社会学の用語「アパシー」はアパテイアに由来するが、意味合いは異なる[2]

関連項目

脚注

  1. ^ a b c d e 宮本久雄 著「アパテイア」、廣松渉ほか 編『岩波哲学・思想事典』岩波書店、1998年、28頁。ISBN 9784000800891 
  2. ^ a b 清水真木『感情とは何か プラトンからアーレントまで』筑摩書房〈ちくま新書〉、2014年。 ISBN 9784480067814 38頁。
  3. ^ a b c d 田中龍山「ヘレニズム時代における「感情のない状態(アパテイア)」をめぐる論争」『龍谷哲学論集』第38号、2024年https://doi.org/10.50873/10882  CRID 1390863727628007424。1-36頁。
  4. ^ 水地宗明 訳『マルクス・アウレリウス 自省録』京都大学学術出版会〈西洋古典叢書〉、1998年。ISBN 9784876981090。254頁。
  5. ^ a b c 國方栄二『ギリシア・ローマ ストア派の哲人たち セネカ、エピクテトス、マルクス・アウレリウス』中央公論新社、2019年。 ISBN 9784120051579 74頁。
  6. ^ 神谷美恵子 訳『マルクス・アウレーリウス 自省録』岩波書店〈岩波文庫〉、2007年。ISBN 9784003361016。222頁。
  7. ^ a b c 荻野弘之 著「帝国ローマの哲人たち 2 2 マルクス・アウレリウス」、内山勝利 編『哲学の歴史 第2巻 帝国と賢者 古代2』中央公論新社、2007年。 ISBN 9784124035193 461f頁。
  8. ^ a b c 荻原理 著「ヘレニズムの哲学」、伊藤邦武山内志朗中島隆博納富信留 編『世界哲学史 1』筑摩書房〈ちくま新書〉、2020年。 ISBN 9784480072917 254頁。
  9. ^ a b 山口義久「ストア派とプロティノスにおけるアパテイア : 内面の自由をめぐって」『新プラトン主義研究』第9号、2009年https://jsns.jp/wp/repo/09/03.pdf  CRID 1520290884676047744。27-29頁。
  10. ^ a b 鈴木順「「魂のアパテイア(apatheia tes psyches)」から「不動の知性(nous akinetos)」へ--エヴァグリオス・ポンティコスのパトス論の一側面」『中世思想研究』第49号、中世哲学会、2007年https://jsmp.jpn.org/jsmp_wp/wp-content/uploads/smt/vol49/71-86_suzuki.pdf  CRID 1520853833052889984。72f頁。
  11. ^ a b 土橋茂樹アパテイアの多義性と「慰めの手紙」--東方教父におけるストア派の両義的影響」『中世思想研究』第52号、中世哲学会、2010年https://jsmp.jpn.org/jsmp_wp/wp-content/uploads/smt/vol52/116-125_Sym-tsuchihashi.pdf  CRID 1520290882297622656。116-118頁。(再録: 土橋茂樹『善く生きることの地平』知泉書館、2016年。ISBN 9784862852403
  12. ^ 國方栄二『哲人たちの人生談義 ストア哲学をよむ』岩波書店〈岩波新書〉、2022年。 ISBN 9784004319351 154f頁。
  13. ^ 神崎繁 著「ゼノンと初期ストア学派」、内山勝利 編『哲学の歴史 第2巻 帝国と賢者 古代2』中央公論新社、2007年。 ISBN 9784124035193 160頁。
  14. ^ 山口義久 著「プロティノスと新プラトン主義」、内山勝利 編『哲学の歴史 第2巻 帝国と賢者 古代2』中央公論新社、2007年。 ISBN 9784124035193 515頁。



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