禁煙 歴史

禁煙

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/05 05:16 UTC 版)

歴史

タバコ(煙草)はヨーロッパ諸国によるアメリカ大陸の植民地化の始まりとともに旧世界に知られた(「コロンブス交換」参照)。早くも1575年にスペイン帝国メキシコで禁煙条例が出され、メキシコのキリスト教会またスペインのカリブ植民地で禁煙が命じられた。

またオスマン帝国でも1633年、喫煙を禁止した。同時期に欧州でも喫煙者を教会から破門すべきかどうか議論された。16世紀後半にはオーストリアドイツバヴァリアで、ドイツではこのほか1723年にベルリンで、1742年にケーニヒスベルクで禁煙条例が出された。こうした禁煙条例は、1848年革命で廃止された。

国民規模で行われた禁煙運動はナチスによって行われた。ナチスは大学、郵便局、軍用医院などが禁煙にした(ナチス・ドイツの反タバコ運動)。第二次世界大戦後から始まる禁煙運動は主にアメリカ合衆国から始まった。

日本

日本では、煙草の伝来した1605年(慶長10年)頃より喫煙習慣が広まった。当初は薬として喫煙されていた。『当代記慶長十三年十月の条に

此二三ヶ年以前より、たばこと云もの、南蛮船に来朝して、日本の上下専レ之、諸病為レ此平愈と云々

とある。

林羅山は煙癖があったと見えて、「佗波古(たばこ)」「希施婁(きせる)」に関する文章を執筆している。「莨※文」では

拙者、性癖有レ時吸レ之、若而人欲レ停レ之未レ能、聊因循至レ今、唯暫代レ酒当レ茶而已歟

と記し、酒の代わりとしている。

江戸幕府は、火災の原因となり、煙草の植附けは田畑を荒すなど弊害あるものとして、慶長十四年七月、たばこを禁止した。

タバコ法度之事、弥(いよいよ)被レ禁ト云々、火事其外ツイエアル故也

穂積陳重はこれを日本における禁煙法令の初めとしている[1]

慶長十七年八月、幕府は、耶蘇教、屠牛に関する禁令とともに、煙草に関する禁令を出した。

一、たばこ吸事被二禁断一訖、然上は、商賣之者迄も、於レ有二見付輩一者(は)、双方之家財を可レ被レ下、若(もし)又於二路次一就二見付一者、たばこ並売主を其在所に押置可二言上一、則付たる馬荷物以下、改出すものに可レ被レ下事。

附、於二何地一も、たばこ不レ可レ作事。 右之趣御領内江 急度可レ被二相触一候、此旨被二仰出一者也、仍如レ件。

慶長十七年八月六日

こののちも幕府はしばしば喫煙および煙草耕作の禁令を出した(穂積陳重『五人組制度』)、その頃の落首に、

きかぬもの、たばこ法度に銭法度、玉のみこゑにけんたくのいしや

というものがあり、完全に統制されていたわけではなかった。

慶長の幕府の喫煙禁止令に応じて薩摩島津藩でも禁煙が命令された。薩摩は早くより南蛮との貿易を始めており、喫煙風習も広がっていた。

南浦文之は『南浦文集』で次のような喫煙と頽廃に関する詩を残している。

風俗常憂頽敗※ 人人左衽拍二其肩一 逸居飽食坐終日 飲二此無名野草煙一

島津藩の禁煙令については、『崎陽古今物語』に記事がある。

竜伯様(島津義久)惟新様(島津義弘)至二御代に一、日本国中、天下よりたばこ御禁制に被二仰渡一、御国許(くにもと)之儀は、弥(いよいよ)稠敷(きびしく)被二仰渡一候由候処に、令(せしめ)二違背一密々呑申者共有レ之、後には相知、皆死罪に為レ被二仰渡一由候云々

これによれば、島津藩では喫煙者を死刑に処していた。しかし、抑止力はなかったとはみえ、同書、前掲文の続きに、

執着深き者共は、やにをほそき竹きせるに詰(つめ)、紙帳を釣り、其内にて密々呑為申者共も、方々為有レ之由候

とあり、さらに後年、薩摩煙草は名産物になった[2]

明治時代以降、鉄道の列車車内では喫煙が可能であったが、昭和に入り電車が普及すると鉄道関係者の中から車内での喫煙を問題視する動きが見られた。当初は「ご遠慮ください」との表現で道徳心に訴えていたが、遠慮しない乗客があとをたたなかったことから、1930年(昭和5年)11月25日から省線電車車内は禁煙となった[3]


  1. ^ これら22州にはアメリカ合衆国西海岸ニューイングランド地方の全ての州が含まれる。
  2. ^ 散歩、体操、映画鑑賞、図書館へ行くこと、ゲームをすること、何かを食べること、歯を磨くこと、水を飲むことなどがその例。
  3. ^ 例として腹八分目にして、野菜の量や種類を増やし果物を摂取し、魚介類以外の動物性脂肪を減らす。
  4. ^ 2007年4月1日付から一部の車両を除いて車内は全面禁煙になっている。同様に喫煙ルームは設置されていない。
  5. ^ 2007年3月31日付までは禁煙車と喫煙車に分かれて移動することが多かったが同年4月1日付から現役喫煙者は車内喫煙が高確率で不可能となったため、途中下車して喫煙エリアまたは喫煙ルームを探しその場で喫煙するケースが多い。また特急券などを必要とする料金をすべてたばこ代に回すこともあり、移動手段はLOCAL系(RAPID系、EXPRESS系以外)の可能性が高い。
  6. ^ 欧米諸国の先進国の場合は、男女の喫煙率の差が少ない要因の一つとして、同居している場合は夫婦揃って現役喫煙者または非喫煙者の割合が極めて高いからである。
  7. ^ 例として卒煙旅行、女性の場合は洋服、タイツ、スパッツ、レギンス、トレンカなどの種類や枚数を増やしたり、美容関連の諸費用。
  1. ^ 『法窓夜話』十七青空文庫
  2. ^ 『法窓夜話』十八 禁煙令違反者の処分(青空文庫)
  3. ^ 省線電車車内は「禁煙」になる『東京日日新聞』昭和5年11月26日(『昭和ニュース事典第2巻 昭和4年-昭和5年』本編p447 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年)
  4. ^ “全面禁煙は厳し過ぎ? ブルガリアで一転、緩和策”. 産経新聞. (2010年5月21日). https://web.archive.org/web/20100524151721/http://sankei.jp.msn.com/world/europe/100521/erp1005211123008-n1.htm 2010年5月21日閲覧。 
  5. ^ 09年誕生の子「生涯喫煙禁止」NZ たばこのない国へ/改正法 成立の公算東京新聞』朝刊2022年8月21日3面(2022年8月28日閲覧)
  6. ^ /2010/05/27/3000000000AJP20100527002500882.HTML “公共の場で喫煙すれば過料、ソウル市が政策”. 聯合ニュース. (2010年5月27日). http://japanese.yonhapnews.co.kr/Locality /2010/05/27/3000000000AJP20100527002500882.HTML 2010年5月27日閲覧。 
  7. ^ 북한의 금연문화” (朝鮮語). world.kbs.co.kr. 2024年1月24日閲覧。
  8. ^ [1]厚生労働省健康局長通知「受動喫煙防止対策について 」…「受動喫煙防止の措置には、当該施設内を全面禁煙とする方法と施設内の喫煙場所と非喫煙場所を喫煙場所から非喫煙場所にたばこの煙が流れ出ないように分割(分煙)する方法がある。」としている
  9. ^ [2]建築物衛生管理検討会報告書…「3 建築物衛生の観点からの対策が必要な問題 (2)タバコの受動喫煙」において「受動喫煙を防止するためには、建築物において禁煙や適切な分煙の措置を講じることが重要である。現在、第154回国会で審議中の健康増進法案においても、多数の者が利用する施設における受動喫煙防止措置の努力義務規定が盛り込まれており、建築物衛生の観点からも、環境タバコ煙対策を推進する必要がある。」としている。
  10. ^ Tar Wars American Academy of Family Physicians
  11. ^ HOW SCHOOLS CAN HELP STUDENTS STAY TOBACCO-FREE (pdf)
  12. ^ 公衆衛生ネットワーク[リンク切れ]
  13. ^ 文部科学省[リンク切れ]
  14. ^ The Health Consequences of Smoking: Nicotine Addiction. A Report of the Surgeon General. (pdf) Rockville. Md: US Dept of Health and Human Services; 1988.
  15. ^ Stolerman IP, Jarvis MJ. The scientific case that nicotine is addictive. Psychopharmacology (Berl).1995;117:2–10.
  16. ^ RJレイノルズ内部文書. Tobacco. 19830000;19870205. Bates: 504231648–504231658.
  17. ^ Stolerman IP, Jarvis MJ. The scientific case that nicotine is addictive. Psychopharmacology (Berl).1995;117:2–10.
  18. ^ Henningfield JE, Cohen C, Slade JD(1991). "Is nicotine more addictive than cocaine?" PMID 1859920
  19. ^ Britt JP, McGehee DS. Presynaptic opioid and nicotinic receptor modulation of dopamine overflow in the nucleus accumbens. J Neurosci. 2008 Feb 13;28(7):1672-81.
  20. ^ a b Taylor, G.; McNeill, A.; Girling, A.; et al. (2014). “Change in mental health after smoking cessation: systematic review and meta-analysis”. BMJ 348 (feb13 1): g1151–g1151. doi:10.1136/bmj.g1151. PMC 3923980. PMID 24524926. http://www.bmj.com/content/348/bmj.g1151?view=long&pmid=24524926.. 
  21. ^ 禁煙継続の秘けつ4/肥満の予防 (2) 肥満予防のヒント”. 禁煙. healthクリック. 2012年5月17日閲覧。
  22. ^ 500名の“禁煙成功者”に徹底調査! 3割が「禁煙成功には1ヶ月以上」、半数以上が感じる「ストレス」 精神科医・香山リカ氏に聞く! 「禁煙成功の秘訣」とは?”. トレンダーズ株式会社のプレスリリース. プレスリリース配信・掲載サービス PR TIMES (2010年9月29日). 2012年5月21日閲覧。
  23. ^ Clearing the Air National Cancer Institute(アメリカ国立がん研究所
  24. ^ National Cancer Institute[リンク切れ]
  25. ^ 穂積陳重『法窓夜話』十八 禁煙令違反者の処分(青空文庫)






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