海面上昇 海面上昇の影響

海面上昇

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/21 04:51 UTC 版)

海面上昇の影響

台北沿岸の海面上昇シミュレーション
台湾沿岸の海面上昇シミュレーション

陸地の浸水・海没

オランダドイツ北部、デンマークバングラデシュベトナムなど海抜以下の地域を抱えた各国、オセアニア諸国、モルディブなどの海抜が低い島を擁する地域の中には、海面上昇が差し迫った問題となっているところもある[19][20]。既にツバルでは集団移住が計画されており、今後この様な海面上昇による移民(環境難民)の発生が予測されている。 ツバル等で見られる浸水被害は現時点ではローカルな人工的要因の影響が大きいが、これが今後予測される海面上昇の危険性を高めているとされる[21]。詳しくはツバル#気候変動を参照。

モーリタニアの首都・ヌアクショットの大半は海抜ゼロメートル地帯にあり、迫りくる海面上昇にさらされている。この状況はこの数十年で悪化してきており、約100万人が住むヌアクショットで洪水が発生している。また、洪水は悪臭のする池を発生させ、これにより都市では水で媒介する病気が蔓延している[22]

海面上昇により平均海面が上がると、これに準じて高潮波浪による最大波高も上がる。このため、海面上昇によってこれらの災害の危険性が増し、被害はより内陸へと拡大する。また浸水区域の広域化を招くための防潮扉・排水ポンプの設置など、海岸沿いの地域経済及び自治体に多くの負担を強いることとなる。日本における試算例では、15cmの海面上昇で毎年5兆円以上の被害が生じると予測されている[23]。また1mの海面上昇で大阪では北西部から堺市にかけて海岸線はほぼ水没、東京でも江東区墨田区江戸川区葛飾区のほぼ全域が影響を受けると予測されている[24]

砂浜の喪失による被害も懸念されている。日本における試算例では、海面が7 - 24cm上昇しただけで、経済的損失が毎年121 - 430億円に上ると予測されている[23]。また1m海面が上昇すると、日本全国の砂浜の9割以上が失われると予測されている[24]

漁業への影響

日本沿岸でも、1980年代半ば以降では大きな上昇率(3.3mm/年)が観測されている[25]。日本においては、小さな海面上昇でも汽水域の移動などの影響があり、汽水域を必要とするのりかきアサリなどの沿岸養殖を含む各種の漁業に、深刻な影響を与える。

地下水位の上昇

東京などの沿岸部に近い都市部の、海岸に近い地域では、海面上昇に伴い、地下水の水位が上昇する。これにより、地下鉄など地下に埋設された空洞部分の地下水に対する浮力が増し、地下道の破壊を招きかねない。この対策として、地下設備のアンカー固定を行う作業が必要となる。現在のところ温暖化との直接の関連性は見受けられないが、東京駅上野駅などでは近年、地下水の上昇に伴い、地下駅の浮力の上昇が問題となり、アンカー設置工事が行われている。東京の地下水上昇の主因は工業用水くみ上げ規制により、地下水位が回復していることも影響している。

同時に、海面の上昇は地下水における海水の侵入をも意味する(地下水の塩水化[26])。日本の工業地帯は主に海岸部に集中し、多くの地下水をくみ上げ工業用水として使用している。すでに地盤沈下などで工業用水のくみ上げの規制は行われているが、これに海水が混入し始めると、工業用水としての利用はできなくなる。このため、淡水化事業、ダム水利権など多くの問題が発生することとなる。また、海岸に近い水田では、地下深くにあった塩分の層が地表近くに達し、干拓地などにおける水田では、稲作に深刻なダメージを与えることが懸念されている。加えて、河川塩水くさびの影響が中流域にまで達すると考えられ、平野部の農業用水や生活用水の取水に大きな影響を与えるものと考えられる。


  1. ^ 付録ⅰ用語解説”. IPCC AR4. 2021年7月13日閲覧。
  2. ^ 用語集”. 地球温暖化観測推進事務局. 2021年7月13日閲覧。
  3. ^ 海水準変動#最終氷期以降の海水準変動を参照
  4. ^ a b c d A new view on sea level rise,Stefan Rahmstorf,6 April 2010
  5. ^ くみ上げられた地下水がの一因に、東大研究チーム(AFPBB News2012年7月1日閲覧)、Nature Geoscience
  6. ^ 5.5.2.1 20th-Century Sea Level Rise from Tide GaugesIPCC第4次評価報告書
  7. ^ 5.5.2.2 Sea Level Change during the Last Decade from Satellite AltimetryIPCC第4次評価報告書
  8. ^ a b 5.5.6 Total Budget of the Global Mean Sea Level ChangeIPCC第4次評価報告書
  9. ^ a b Table10.7, Figure 10.33
  10. ^ a b c 北極・南極の氷をめぐる危機・長期安定化に向けた対応の緊急性(08/01/28)
  11. ^ Eric Rignotほか、Recent Antarctic ice mass loss from radar interferometry and regional climate modelling、Nature Geoscience 1, 106-110 (2008)
  12. ^ Antarctic glaciers 'flow faster', BBC, 6 June 2007
  13. ^ "Buried Lakes Send Antarctica's Ice Slipping Faster Into the Sea, Study Shows", National Geographic, 2007年2月21日
  14. ^ a b Increasing Amounts Of Ice Mass Have Been Lost From West Antarctica, ScienceDaily, Jan. 14, 2008
  15. ^ 南極大陸で異常事態 大規模な融雪判明 温暖化の影響か(朝日新聞、2007年 5月27日)
  16. ^ Huge sea level rises are coming – unless we act now, New Scientist、2007年7月25日
  17. ^ NASA Satellites Detect Unexpected Ice Loss in East Antarctica, ScienceDaily, Nov. 26, 2009
  18. ^ Active volcano heat source discovered under fastest-moving and melting glacier in Antarctica
  19. ^ Report: Flooded Future: Global vulnerability to sea level rise worse than previously understood” (英語). climatecentral.org (2019年10月29日). 2019年11月3日閲覧。
  20. ^ Kulp, Scott A.; Strauss, Benjamin H. (2019-10-29). “New elevation data triple estimates of global vulnerability to sea-level rise and coastal flooding” (英語). Nature Communications 10 (1): 1–12. doi:10.1038/s41467-019-12808-z. ISSN 2041-1723. https://www.nature.com/articles/s41467-019-12808-z. 
  21. ^ 環礁州島からなる島嶼国の持続可能な国土の維持に関する研究、茅根 創(東京大学)、2009年
  22. ^ 深刻化する環境問題に耐えるモーリタニア |”. GNV. 2020年1月3日閲覧。
  23. ^ a b 地球温暖化「日本への影響」-長期的な気候安定化レベルと影響リスク評価-、温暖化影響総合予測プロジェクト、平成21年5月
  24. ^ a b 1-6 海面上昇の影響について - JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター
  25. ^ 日本沿岸の海面水位の長期変化傾向、気象庁、2007年2月13日
  26. ^ 本邦における地下水の塩水化、村下、地質調査所月報,第33巻第10号,p479-530,1982


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