抗告 種類

抗告

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/15 14:22 UTC 版)

種類

抗告には通常の抗告、即時抗告、再抗告、許可抗告、特別抗告などといった種別がある。

通常抗告

通常抗告(つうじょうこうこく)とは、即時抗告と異なり不服申立期間の定めがなく、執行停止の効力もない抗告である(民事訴訟法328条、刑事訴訟法419条)。抗告裁判所等は、裁量で執行停止をすることができる(民事訴訟法334条2項、刑事訴訟法424条2項)。通常抗告の対象は、民事訴訟では、口頭弁論を経ないで訴訟手続に関する申立てを却下した決定又は命令(民事訴訟法328条1項)、または、違式の決定・命令(民事訴訟法328条2項)である。刑事訴訟では、原則として裁判所のした決定が通常抗告の対象になる(刑事訴訟法419条)。

即時抗告

即時抗告(そくじこうこく)とは、裁判の告知を受けた日から民事訴訟においては1週間(家事審判法・民事保全法・破産法等においては2週間)、刑事訴訟においては3日の不変期間内(いかなる理由があろうとも、3日間以内に。延長は許されない)にしなければならないとされる抗告である(民事訴訟法332条、刑事訴訟法422条)。一般に、即時抗告は、原決定・命令を迅速に確定させる必要がある場合に定められ、執行停止の効力(334条1項)がある。

ただし、文書提出命令の申立て却下決定に関しては例外があり、証拠調べの必要性が無いと判断された文書を、その必要性をもとに抗告することはできない。2000年3月10日、最高裁判所は証拠調べの必要性がないことを理由とした文書提出命令の申立て却下の決定に対し、証拠調べの必要性のみを理由とする抗告を認めないことを、判例の傍論として示した[1]。同決定にて最高裁は、『証拠調べの必要性を欠くことを理由として文書提出命令の申立てを却下する決定に対しては、右必要性があることを理由として独立に不服の申立てをすることはできないと解するのが相当である。』[1]と述べ、証拠調べの必要性を求めた抗告の論旨は採用しなかった[3]。ただ文書提出命令の対象文書の内容や文書の意味付けが十分に吟味されぬまま必要性なしと判断されることが、裁判を受ける権利を害し違憲であるとして特別抗告される例は存在する。

再抗告

再抗告(さいこうこく)とは、抗告裁判所の決定に対する再度の抗告である。刑事訴訟では再抗告は認められていない(刑事訴訟法427条)。民事訴訟では、抗告裁判所の決定に対して、その決定に憲法解釈の誤りその他憲法違反があること又は決定に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある場合に限り再抗告ができる旨が定められている(憲法81条。民事訴訟法330条、331条。)が、337条1項括弧書き及び裁判所法7条2号を根拠として、最高裁判所への抗告は特別抗告あるいは許可抗告に限られると解されている。少年事件では高等裁判所の決定に対して再抗告が可能であるが、憲法違反と判例違反に限られており、最高裁判所で自判はせずに差し戻す(少年法35条1項、2項)。検察官は再抗告できない。

許可抗告

許可抗告(きょかこうこく)とは、民事訴訟における高等裁判所の決定及び命令に対する抗告のうち、法令の解釈に関する重要な事項を含むとして高等裁判所に対して抗告の許可を求めて行うものをいう(民事訴訟法337条)。許可基準は上告受理申立てと同一であるが、受理に相当する判断は最高裁判所ではなく、原審である高等裁判所が行い、高等裁判所が抗告を許可した事件に対しては最高裁判所は判断を示さなければならない。

民事手続法の分野では決定・命令手続で行われるものでも重要なものが数多く存在する。民事訴訟で決定・命令手続で行われるものとしては訴状却下、移送、文書提出命令が挙げられる。民事執行、民事保全、破産民事再生などでは判決手続によるものは稀でほとんどが決定により裁判所の判断が示される。それにもかかわらず旧民事訴訟法下では許可抗告に相当する制度がなかったため、裁判所によって法令の解釈が分かれたままになってしまうことがあった。現行民事訴訟法はこのような弊害を解消し、最高裁判所による法令の解釈の統一を図ることを可能とするため、許可抗告制度を創設した。

なお、少年法においては、抗告受理の申立の制度があり、検察官が関与する少年審判において、事件の非行事実の認定に際し、決定に影響を及ぼす法令の違反または重大な事実誤認があることを理由として検察官が高等裁判所に抗告受理の申立をすることができ、この場合は高等裁判所が受理するかどうかを決定する。現在までのところ、検察官より抗告受理申立てがされた事件については全て高等裁判所において受理決定がなされている。

特別抗告

特別抗告(とくべつこうこく)とは、各訴訟法で不服を申し立てることができない決定・命令に対して、その裁判に憲法解釈の誤りその他憲法違反を理由とするときに、特に、最高裁判所に判断を求める抗告をいう(民事訴訟法336条、刑事訴訟法433条)。最高裁判所が憲法適合性を決定する権限を有する終審裁判所(憲法第81条)であることから定められている。なお、刑事においては判例違反も特別抗告理由となりうる。また、刑事訴訟法上の特別抗告については、適法な抗告理由が認められない場合であっても、法令違反・重大な事実誤認など刑事訴訟法411条所定の事由が認められる場合には最高裁判所が職権で原決定を取り消すことが判例上認められている。

上記以外の抗告

このほか、民事執行法上の執行抗告(しっこうこうこく)、民事保全法上の保全抗告(ほぜんこうこく)、破産法非訟事件手続法などによる抗告もある。

準抗告

準抗告(じゅんこうこく)とは、勾留保釈押収など、裁判官の裁判に不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所に、その裁判の取消又は変更を請求(刑事訴訟法429条1項)する不服申立てや検察官や司法警察職員の接見指定に関する処分や押収に対する処分に対する不服申立て(刑事訴訟法430条)(刑事確定記録の閲覧に関する保管検察官の処分に対しても準用されている)をいう。

過料又は費用の賠償を命ずる裁判に対する準抗告の申立ては、原裁判(準抗告によりその当否が争われている裁判)のあった日から3日以内に(同条4項)、申立書を管轄裁判所に差し出して(同法431条)しなければならない。


  1. ^ a b c d 平成11年(許)第20号 文書提出命令申立て却下決定に対する許可抗告事件決定。 最高裁判所第一小法廷 平成12年3月10日。
  2. ^ 平成11(許)第25号 不動産引渡命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件決定。最高裁判所第三小法廷 平成11年10月26日。
  3. ^ なお同決定において同時に最高裁は、民事訴訟法第197条第1項3号に定める「技術又は職業の秘密に関する事項」について、『その事項が公開されると、当該技術の有する社会的価値が下落しこれによる活動が困難になるもの又は当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいうと解するのが相当』[1]とし、内容の開示が所持者側に看過し難い不利益が生じるおそれの有無および、その文書が持つ特段の事情について、それぞれ具体的な判断を同時に求めている[1][2]
  4. ^ a b 民事訴訟法講義 上訴3 関西大学法学部教授 栗田隆 2021年10月29日閲覧。
  5. ^ [4] の 「4.5 一般抗告」の「抗告の提起と抗告審の手続」
  6. ^ 渡部美由紀・鶴田滋・岡庭幹司『民事訴訟法』日本評論社、2016年、頁214
  7. ^ [4] の 「4.6 特別抗告」の「手続」
  8. ^ 東京弁護士会 LIBRA「特集 2013年1月1日施行 家事審判法から「家事事件手続法」へ」 2012年12月号 大坪和敏「Ⅰ 家事事件手続法の要点と同法施行に伴う実務の動向」( p.14 「【表4】家事事件手続の流れ」参照)
  9. ^ 最高裁判所第一小法廷平成12年3月10日判決(平成11(許)第20号、PDF)。裁判長裁判官井嶋一友、裁判官小野幹雄遠藤光男藤井正雄大出峻郎


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