意識に相関した脳活動 覚醒レベルと意識の内容

意識に相関した脳活動

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/07/08 04:07 UTC 版)

覚醒レベルと意識の内容

意識の状態と意識状態

意識という単語には2つのありふれた、しかし非常に異なる用法がある。それは、覚醒 (Arousal) や意識の状態 (States of Consciousness) に関するものと、意識の内容 (content of consciousness) や意識状態 (Conscious States) に関するものである。

何かに対して意識的であるためには、脳は比較的高いレベルの覚醒 (警戒 (vigilance) と呼ばれることもある) 状態でなくてはならない。忘れられがちではあるが、このことは夢の中で、鮮烈で意識的な体験をしているレム睡眠の際に関しても同様である。脳の電気的、代謝的活動によって計測される脳の覚醒レベルは、概日リズムに従い、睡眠不足や薬物アルコール、身体的な運動などによる予測可能な影響を受ける。高い覚醒状態は通常、特定の内容を持ったある種の意識状態 (知覚や思考、記憶など) に関連付けられる。私たちは顔を見、音楽を聴き、出来事を覚え、実験を計画し、セックスを夢に描く。もちろん、何かに意識的になることなく覚醒することはありえないことである。しかし、このような意識状態について言及することと、異なる覚醒レベルで変動する意識の状態について言及することは概念的に大きく異なる。覚醒は (例えば、眼球運動や音源に向けて顔を向けたりするのに必要な音の音量などの) 基準となる応答を引き起こす信号の強度によって、行動に基づき計測可能である。グラスゴー・コーマ・スケールのような患者の覚醒レベルを評価する診断システムが医療に用いられている。

異なる覚醒レベルや意識の状態が異なる種類の意識的経験と関連付けられている。健常者の覚醒状態は夢を見ている状態 (例えばこの状態では内省 (self-reflection) がほとんど無い) や、深い睡眠状態とは大きく異なる。これらの3状態で脳の基本的な生理状態は変化し、可能な意識的経験の範囲に影響を及ぼしている。また、生理的状態は (日常では考えられないような強い情動の連続を生み出すサイケデリックな薬物の使用後などの) 様々な意識変容状態 (altered states of consciousness) 間でも異なっている。意識的知覚や洞察が通常の覚醒時よりも強化される、ある種の瞑想中にも他の意識の状態が起きる。

深い睡眠状態からまどろんだ状態を経て覚醒状態へと移行するにつれ、明らかではあるものの厳密に定義し難いようなやり方で意識的体験の豊富さは増加していく。この可能な意識的体験の豊富さは意識的体験の次元粒度の両方を用いた複雑系理論からくる考えによって定量化出来る (例えば、意識の統合情報理論 (the integrated-information-theory) による説明に関しては Tononi 2004 を参照)。健常者の視覚野の全領域の不活化は色、形、運動、テクスチャー、奥行きが知覚されなくなるため、意識的体験の次元が減少する。行動から分かる覚醒レベルが増加するにつれ、可能になる行動の範囲や複雑さが増していく。このことに関する1つの例外がレム睡眠で、この睡眠段階特有の、ほとんどの運動活動がシャットダウンする弛緩 (atonia) が起き、起きることが難しくなる。この状態では行動から分かる覚醒レベルは低いが代謝的、電気的脳活動が高く、意識は生き生きとした状態にある。

意識の大局的な障害

臨床家は意識の障害された状態を“昏睡”状態や“遷延性意識障害” (PVS : persistent vegetative state)、“最小意識状態” (MCS : minimally conscious state)と称する。ここでは、意識のまったく無い昏睡状態や遷延性意識障害や全身麻酔状態から、意識的感覚が変動し限定された状態である最小意識状態や夢遊病てんかんの複雑部分発作 (Schiff 2004) などまでの異なる意識のレベルについて述べる。

最小意識状態の患者がアクセス可能な意識状態や意識的体験の種類は (主に痛みや不快、突発性の感覚性知覚などの) 最小限のものであると推定され、健康な人の脳が経験可能な意識状態に比べて非常に少ない。また、脳死状態ではいかなる覚醒も体験も無いとされている。心理的なトラウマを避けるため、全身麻酔状態の患者はいかなる体験もしないようになっているが、緊急事態のために手術中の覚醒レベルは調節されている。

意識に必要な最小限の神経活動の基準に関する認められた理論が存在しなければ、(フロリダのテリー・シャイボの事例のように正常な睡眠脳波の移り変わりが見られ、反射的に眼や四肢を動かしたり微笑んだりする) 遷延性意識障害の患者と、(例えば、異なる眼球運動などの) 有意味な方法で (たまに) コミュニケーションが可能で、意識の兆候を示す最小意識状態の患者とを区別することは大抵の場合、臨床環境では難しい。脳機能イメージングはこの時非常に有用である。

BOLD fMRIにより、重篤な脳損傷により植物状態となった患者が、テニスをしたりその人の家の全ての部屋を回ることを想像してもらった際に健常者と同じような脳活動を示すことが証明されている (Owen et al. 2006)。(無動性無言を含む) このような大域的な意識障害の患者の様々な脳機能イメージング研究により、前頭前皮質の内側部や外側部、頭頂連合野などの様々な領域に広がる皮質ネットワークの機能障害が意識の大局的な消失に関係していることが示された (Laureys 2005)。同様に、側頭葉でのてんかん発作における意識の障害は、前頭連合野と頭頂連合野の脳血流量の減少と視床の内背側部などの正中部の脳構造の血流の増加に伴って観察される (Blumfeld et al. 2004)。

意識に作用する局所的な脳損傷

広範囲に渡る脳損傷とは対照的に、正中部 (または傍正中部) の皮質下の脳構造の比較的に個別的な両側の損傷でも意識の完全な消失が起きる。従って、このような脳構造は (代謝的、電気的活動によって決定される) 脳の覚醒レベルを調節し、あらゆる形での意識の形成に必要な可能要因の一部であると考えられる。このような脳構造の例として、(間脳視床下部後部などの) 脳幹上部にある (片側につき) 2ダース以上の神経核から構成される網様体賦活系 (RAS : reticular activating system) がある。これらの神経核 (独自の細胞構築学的、神経化学的な特性を持った神経細胞の3次元的集合) はアセチルコリンノルアドレナリンセロトニンヒスタミンオレキシンなどの異なる神経伝達調節因子 (neuromodulator) を放出する。それぞれの軸索は脳の様々な領域に広がっていて、これらの神経伝達調節因子は視床前頭の活動性を調節し、覚醒と睡眠の状態変化や行動的、脳活動的な覚醒レベルの変化を仲介している。網様体賦活系の神経核の急性の切除は意識の消失と昏睡を引き起こす。しかし結果的に、視床と前頭の活動は復活し、意識が戻ることもある (Villablanca 2004)。他の意識の可能要因として、5つかそれ以上存在する視床の髄板内核 (ILN : intralaminar nuclei) がある。これらは多くの脳幹の神経核からの入力を受け大脳基底核への強い出力と大部分の新皮質のI層への広がった出力を持つ。(1 cm3かそれ以下の) 比較的小さい両側の視床髄板内核の切除により、気づき (awareness) が完全にノックアウトされる (Bogen 1995)。

脳の覚醒レベルの調節に必要な脳幹と視床の正中の構造。これらの神経核の多くの小さな両側切除が意識の大局的な消失を引き起こす。Koch (2004)から

要約すると、視床や間脳、橋にある、異なる化学的特性を持つ神経核の多くは、脳の覚醒を十分な状態にし、あらゆる体験を可能にする機能を持つ。これらの神経核は意識の可能要因に属する。反対に、意識的知覚の特定の内容は大脳皮質や関連する二次的な構造である扁桃体視床前障大脳基底核などの神経細胞によって仲介されると考えられる。







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