反応熱
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/23 04:43 UTC 版)
概要
物質を構成する化学結合は固有のエネルギーを持っており、その物質内の結合が切断される場合は分子(あるいは原子)の内部エネルギーが増大し、結合する場合は減少する。
熱力学が示すように、原子あるいは分子の結びつきの構成が変化する時の内部エネルギー変化は、反応系外との熱の授受で現れる。それゆえ、反応熱とは化学反応の内部エネルギー変化を観測する指標となる。内部エネルギー変化が大きいほど結合力は強く安定であり、結びつきが切断される場合は系内に熱が流入し、結びつきが形成されると系外に熱が放出される。通常の化学反応では反応系内では結合の切断と生成と両方が進行するので、両者の熱的収支の結果が系外から観測されることになる。
相転移にともなう転移熱(ΔtrsH (transition); 蒸発熱 ΔvapH (vaporization)、凝縮熱(−ΔvapH)、昇華熱 ΔsubH (sublimation)、融解熱 ΔfusH (fusion)、凝固熱(−ΔfusH))は化学反応に伴って発生しても反応熱とは別の要因であるが、反応熱の測定方法によっては測定値の中に転移熱が寄与する分も含まれている場合もある。
測定される反応熱には反応の種類あるいは過程により分類され、生成熱(ΔfH, formation)、燃焼熱(ΔcH, combustion)、中和[要曖昧さ回避]熱、溶解熱(ΔsolH, solvation)、希釈熱、混合熱(ΔmixH, mixing)、吸着熱などとも呼ばれる。
反応熱は熱力学的な状態量を考慮すると、定圧反応の場合と定積反応の場合では厳密には異なり、前者を定圧反応熱、後者を定容反応熱と呼ぶ。特に断らない限りは反応熱は前者の定圧反応熱が利用される(燃焼反応等では定容反応熱が測定しやすい)。熱力学では定積過程では内部エネルギーが定圧過程ではエンタルピーが使用される為、定圧反応熱はエンタルピーで、定容反応熱は内部エネルギーで表示される。
定圧反応の場合、反応物から生成物へ変化する過程のエンタルピー変化が負の場合、反応系外に熱が放出され、発熱反応(はつねつはんのう、exothermic reaction)となる。反対にエンタルピー変化が正の場合、熱を系外から吸収し、吸熱反応(きゅうねつはんのう、endothermic reaction)となる。
最も一般的な発熱反応は燃焼であり、水素ガス (H2) の燃焼による水 (H2O) の生成は激しい反応過程である。ほかにもおだやかな反応を行うものは、鉄粉 (Fe) の酸化などがあり、これは使い捨てカイロに使われている。
熱力学第一法則の示す通り、過程の違い(激しい酸化・穏やかな酸化)と熱量とは関係がなく反応に固有である。
化学反応はギブズエネルギーが減少する方向に自発的に進行する。ギブズエネルギー G とエンタルピー H は、温度を T、エントロピーを S とすると
- ΔG = ΔH − TΔS
の関係にあるので、定温定圧の場合は
ほど反応は進行することを意味する。発熱反応の場合エンタルピー変化が負の為、反応は自発的に進行する。一方、吸熱反応の場合はエントロピーの増加がエンタルピー減少を上回らないと自発的に進行しない。もちろん、自発的に進行しない反応も、生成物を除去したりル・シャトリエの原理など圧力等の状態量を変えて化学平衡を偏らせることによって進行させることは可能である。
反応熱と同じ種類の言葉
- 反応熱のページへのリンク