一杯のかけそば 一杯のかけそばの概要

一杯のかけそば

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/12 01:09 UTC 版)

経緯

もともとは作者の栗良平が語り部となって、全国を行脚して口演で披露していた話である。それが1988年に『栗良平作品集2』の一編として書籍となる。出版後、口コミでじわじわと人気が広がり[1]、それを共同通信が地方紙に記事を配信し[3]、同年の大晦日FM東京の『ゆく年くる年』の中で朗読された[4]

1989年1月22日産経新聞が取り上げ[4]2月17日には衆議院予算委員会審議において公明党大久保直彦竹下登首相に対する質疑で当時話題となっていた本作のほぼ全文を朗読・紹介して[5]リクルート問題に関する質問をし、同じ自民党の金丸信も泣いたということで話題になった[3]

その後、「読む人誰もが涙するという幻の童話」という触れ込みで、知る人ぞ知る話としてワイドショーなどを賑わせ、マスコミで話題となり5月に大きなブームとなる。『週刊文春』1989年5月18日号では全文が掲載された。掲載にあたって作者の栗は掲載料を求めなかったといい、掲載号は返本率3%でほぼ完売という売れ行きを示した[6]。テレビではフジテレビタイム3』が中尾彬武田鉄矢森田健作などの有名人を迎え、一週間の間を連日「一杯のかけそば」を朗読するまでに至った[4]

ブームの反動として、実話という触れ込みで発表されたこの話が「実は創作ではないか」との指摘や「つじつまが合わない」との批判もなされるようになった[1]上岡龍太郎は「閉店間際なら売れ残った麺がある。店主は事情を察したなら、3人分出すべきだった」と指摘した[7]

ブーム終焉のきっかけとなるのは5月19日放送のフジテレビ『笑っていいとも』で、司会のタモリが「その当時、150円あったらインスタントのそばが3個買えたはず」「涙のファシズム」と作品を批判したことにあるとの説を『日刊ゲンダイ』が唱えている[4]

その発言と前後して美談の語り部と讃えられていた作者についても美談とは相反するスキャンダルが報じられた[1]滋賀県のローカル紙・滋賀夕刊5月22日付で「謎? 童話作家の言動」と題して作者が車の借り逃げで捜査対象となったことが報じられ[8]、小児科医を詐称して治療費を受け取った疑惑など[1]新潮社の『週刊新潮』と『FOCUS』も作者の過去の行状を報じた[9]

次第に作者の実生活など作品外の事情にスポットがあたるようになったことから[10][11]、翌6月頃にはブームが終焉していった[4]

10年後の1999年にコラムニストの堀井憲一郎が調査したところ、話の細かい内容を誰も覚えておらず、1999年当時の若い世代はこの話を誰一人として「いい話」と思わなかったという[12]

2010年韓国で「うどん一杯」というタイトルで映画化がされている。また、舞台演劇としても韓国では上演されており、続編も公開されている。

後援会

作者が『一杯のかけそば』を口演して日本各地を行脚したため、物語に感動した有志たちによる「一杯のかけそばを読む会」、「栗っ子の会」が結成され、これが日本中へ作品を広めるきっかけとなった。栗っ子の会が『一杯のかけそば』が収録された『栗良平作品集』の出版元となった。


  1. ^ a b c d e 宝泉薫「騙り部の泣ける人生 『一杯のかけそば』栗良平」『芸能界一発屋外伝』彩流社1999年、pp.154-157
  2. ^ 小林信彦『現代“死語”ノート〈2〉1977‐1999』岩波新書2000年、p.110
  3. ^ a b 「週刊誌記者匿名座談会」『噂の真相』1989年7月号、p.104
  4. ^ a b c d e “【プレイバック芸能スキャンダル史】(20) タモリの一言でブーム終焉となった「一杯のかけそば」”. 日刊ゲンダイ. (2011年10月18日). オリジナルの2011年12月30日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20111230094442/http://gendai.net/articles/view/geino/133616 2015年6月15日閲覧。 (Internet Archive)
  5. ^ 第114回国会 衆議院 予算委員会 第3号 平成元年2月17日”. 国会会議録検索システム. 国立国会図書館 (1989年2月17日). 2023年4月7日閲覧。
  6. ^ 柳澤健「2016年の週刊文春 第13回 編集長はどこだ」『小説宝石』2019年2月号、pp.136-137
  7. ^ 『わたしが上岡竜太郎です 辛口芸人』ブックマン社、『鶴瓶上岡パペポTV読売テレビ
  8. ^ 「日本中を泣かせた一杯のかけそばドンデン返し 栗良平の詐欺師まがいの過去を暴いたのは地元紙」『噂の真相』1989年7月号、p.7[信頼性要検証]
  9. ^ 「週刊誌記者匿名座談会」『週刊新潮』1989年8月号、p.104
  10. ^ 「『一杯のかけそば』作者の「詐欺飾的」と非難 昏れる過歩」『サンデー毎日』1989年6月18日号、pp.32-34
  11. ^ 「一杯のかけそばはウソの大盛り」『週刊現代』1989年6月24日号、pp.208-210
  12. ^ 堀井憲一郎「95 『一杯のかけそば』の細かい内容は誰も覚えていない」『かつて誰も調べなかった100の謎 ホリイのずんずん調査』文藝春秋、2013年、pp.474-477。初出は『週刊文春』1999年6月10日号。
  13. ^ 「1992年度日本映画・外国映画業界総決算 日本映画」『キネマ旬報1993年平成5年)2月下旬号、キネマ旬報社、1993年、148頁。 
  14. ^ 山根貞男『映画はどこへ行くか 日本映画時評'89-'92』筑摩書房1993年、p.197
  15. ^ 大高宏雄『興行価値』鹿砦社1996年、p.133
  16. ^ “台湾:「1杯のかけそば」に似た実話、感動広がり寄付殺到”. MSN毎日インタラクティブ. (2006年3月10日). オリジナルの2006年4月22日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20060422195947/http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/taiwan/news/20060310dde041040084000c.html 2006年4月21日閲覧。 
  17. ^ “<一杯のかけそば>台湾版の母親が死亡 陳総統も哀悼の意”. Yahoo!ニュース. 毎日新聞. (2006年4月21日). オリジナルの2006年4月22日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20060422220328/http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060421-00000110-mai-int 2014年2月12日閲覧。 


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