メビウスの帯
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/27 03:40 UTC 版)
数学的には向き付けが不可能という特徴を持ち、その形状が化学や工学などに応用されているほか、芸術や文学において題材として取り上げられることもある。
発見
メビウスの帯の名前は1790年生まれのドイツの数学者アウグスト・フェルディナント・メビウスの名に由来する。彼は多面体の幾何学に関するパリのアカデミーの懸賞問題に取り組む過程でメビウスの帯の概念に到達し、1865年に「多面体の体積の決定について」という論文の中で発表した。実際にメビウスの帯を発見したのは1858年のこととされ、未発表のノートにメビウスの帯のことが書かれている。同じ1858年には同じくドイツのフランクフルトの数学者ヨハン・ベネディクト・リスティングも別個にメビウスの帯を発見してノートに記しており、論文としての発表はメビウスより4年早い。2人の数学者が同時期に別個に同様の概念に到達したことは、カール・フリードリヒ・ガウスの影響による可能性もある。メビウスの研究は、メビウスの帯という曲面を発見しただけでなく、それが持つ向き付け不可能性という性質(後述)を、「(帯を)いくつかの三角形に分割して各三角形に向きをつけたとき、全体が同調するようにはできない」という形で厳密に定義したという点に意義がある。[1]
数学的な性質
数学的には、メビウスの帯は連結・コンパクトで向き付け不可能な種数1・境界成分数1の2次元多様体(曲面)であるといえる。向き付け不可能とは表と裏の区別をつけることができないということである(単側性ともいう)。例えばメビウスの帯のある部分に(裏側にもインクがにじむように、あるいは帯が透明な素材でできていると考えて)「あ」という文字を書き、それを帯に沿って1周させて元の位置に戻すと、文字が反転して鏡像になってしまう。一般に曲面が向き付け不可能であることは、その曲面にメビウスの帯が含まれていることと同値となる。メビウスの帯は境界(近傍がユークリッド半平面[注 1]と同相な点の集合のことで、帯の端の部分)を持っているが、その個数は1つであり、2つの境界成分を持つひねりの無い通常の帯(アニュラス)とは異なる。
メビウスの帯は3次元ユークリッド空間 R3 に埋め込むことができ、媒介変数 r , t (-1≦r≦1 ,0≦t≦π)を使えば
長方形からメビウスの帯をつくる 実際にメビウスの帯をつくるときは長方形の短い端同士を180°ひねって貼りあわせればよいが、これは数学的には2つの辺を同一視して得られる商空間を考えていることになる[6][7]。
長方形に対して(三角形分割して)全体が同調するように向きを与えると、向かい合う辺同士には逆の向きが導かれる(長方形ABCDの辺ABについてAからBへの向きが導かれれば、辺CDに対してはCからDへの向きが導かれる)。そこで、片方の辺からもう片方の辺への、向きを保存する同相写像を考え、それによって移りあう点を同一視して得られる商空間を考えると、これがメビウスの帯になる(貼り合わせに使わなかった辺は帯の境界となる)。向きを逆にする同相写像を使って同一視を行った場合は、向かい合う辺がそのまま貼り合わされたことになるので、商空間はメビウスの帯ではない通常の帯になる。
また、3次元ユークリッド空間内の円筒
工業への応用
帯の表面を普通の帯の2倍利用できるため、カセットテープ(エンドレステープ)、プリンターのインクリボンなどに使用された。また、研磨や高温の物体の運搬に用いるコンベアのベルトをメビウスの帯状にしておくと接触面が2倍になるので消耗しにくくなり長持ちするという利点があり、1950年前後に米国で特許が取得されている[注 2][13]。
1964年には絶縁体をメビウスの帯状にして金属箔で覆ったメビウス抵抗器が発明され、1986年にはさらにそれを利用したメビウスコンデンサも特許がとられている[14][13]。どちらも、自己インダクタンスの無い抵抗、コンデンサとなる。
注釈
- ^ ユークリッド半平面とは、ユークリッド平面の半分、つまりのこと。
- ^ 研磨用のものは米国特許番号2479929、運搬用のものは米国特許番号2784834。
出典
- ^ 『メビウスの遺産―数学と天文学』13頁・134-136頁・138-140頁。
- ^ 『トポロジー―ループと折れ線の幾何学』82頁
- ^ 『トポロジー―ループと折れ線の幾何学』82頁・109-110頁。
- ^ 『曲面と結び目のトポロジー―基本群とホモロジー群』43頁。
- ^ 『トポロジー入門』87頁。
- ^ 『トポロジー入門』32頁。
- ^ 『3次元多様体入門』22-24頁。
- ^ 『トポロジー入門』29-30頁。
- ^ 『メビウスの帯』22-23頁。
- ^ a b マーティン・ガードナー著・金沢養訳『数学マジック』白揚社、1999年、107頁。ISBN 978-4826951036。
- ^ 『メビウスの帯』32頁。
- ^ C・C・アダムス著、金信泰造訳 『結び目の数学』 培風館、1998年、276頁。ISBN 978-4563002541。
- ^ a b 『メビウスの帯』74-80頁。
- ^ メビウス抵抗器は米国特許番号3267406、メビウスコンデンサは米国特許番号4599586。
- ^ ワルバらの論文 Archived 2006年9月9日, at the Wayback Machine. - Walba, D. M.; Armstrong, J. D., III; Perry, A. E.; Richards, R. M.; Homan, T. C.; Haltiwanger, R. C. Tetrahedron 1986, 42, 1883-1894. DOI: 10.1016/S0040-4020(01)87608-0
- ^ Tanda, S.; Tsuneta, T.; Okajima, Y.; Inagaki, K.; Yamaya, K.; Hatakenaka, N. Nature 2002, 417, 397-398. DOI: 10.1038/417397a
- ^ 北海道大学大学院工学研究科・工学部広報平成15年7月号
- ^ 『トポロジー―ループと折れ線の幾何学』22頁。
- ^ 『メビウスの帯』216-217頁。
- ^ 『メビウスの帯』13頁。
- ^ 『メビウスの帯』215-216頁。
- ^ 『メビウスの遺産―数学と天文学』19頁。
- ^ 『メビウスの帯』15-16頁・245頁など。
- 1 メビウスの帯とは
- 2 メビウスの帯の概要
- 3 化学の分野
- 4 関連項目
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