タイム (植物)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/14 03:15 UTC 版)
イブキジャコウソウ属(タイム) | ||||||||||||||||||
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タチジャコウソウ (Thymus vulgaris)
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分類 | ||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||
Thymus L. | ||||||||||||||||||
種 | ||||||||||||||||||
他(約350種) |
概要
原産はヨーロッパ、北アフリカ、アジアで、ヨーロッパ南部からアジアの北半球に広く分布する[1]。
樹高15 - 40センチメートルほどの常緑小低木で、ハーブの一種として知られる[2]。多くの種がケモタイプを持つ[注釈 1]。日本ではタチジャコウソウ(立麝香草、コモンタイム、T. vulgaris)のことを一般にタイムと呼ぶことが多い。数ある種の中でも、コモンタイム、シトラスタイム(レモンタイム)、ワイルドタイム(ヨウシュイブキジャコウソウ)が代表的な種である[3]。野生種は35種ある[4]。葉に斑が入った種や、レモンやオレンジのような芳香を持つ種など、野生種から選抜した栽培品種もある[5]。
イブキジャコウソウ属(タイム属)は、立性と匍匐性の2タイプに大きく分けることができる[4][5]。幹は一般的に細く、針金状のものもある。ほとんどの種は常緑で、4 – 20ミリメートルほどの卵形の葉は対をなして全体に並ぶ。すべての種で、春先から初夏にかけて、たくさんの愛らしい花を咲かせる[4][6]。花は頂部末端に集中し、萼は不均一で、上端は3つに裂け、下部はくぼんでいる。花冠は管状で長さ4 – 10ミリメートル。種類によって花色は異なり、白、ピンク、または紫を基調に、様々な色がある[6]。花が咲く頃に、葉の芳香が一番強くなる[6]。
斑入り葉の園芸品種は、基本種の突然変異で生まれたもので、夏の暑さで先祖返り現象が起きて、元の緑色葉に戻ることがある[7]。
種
種類は多数あるが大きく分けると、茎が立ち上がる直立性のアップライトタイム(Upright thymes)と、茎が地表を這う匍匐性のクリーピングタイム(Creeping thymes)に2分できる。直立性のタイムが好む場所は、小径の脇や急斜面のようなところで[8]、匍匐性のタイムは土手や野原の地表を這い、グランドカバーにも適している[9]。
- イブキジャコウソウ(学名:T. quinquecostatus、シノニム:T. serpyllum subsp. quinquecostatus)
- 日本原産。日本の低山から高山帯の日当たりの良い草地や岩礫地に自生する種で、日本に分布する唯一のタイムである。匍匐性で、葉は菱形、濃いピンク色の花が咲き、強い芳香を持つ[10]。
- オレンジセンテッドタイム(英:Orange-Scented Thyme、学名:Thymes ‘Fragrantissimus’)
- 立性で高さ30 cm、左右に45 cmに広がる耐寒性の常緑多年草。葉は細く灰色がかった緑色で、スパイシーなオレンジの芳香がある。肉野菜料理やタルトなどの甘味菓子に使われる[8]。
- クリーピングレッドタイム(英:Creeping Red Thyme、学名:Thymes Coccineus Group)
- 匍匐性で高さは7 cm、地表に1 mほど広がる耐寒性の常緑多年草。夏に紫がかったピンク色の小花を茎先に集まって咲かせる。葉は小さく、濃い緑色で芳香がある[9]。
- コルシカンタイム(学名:Thymus richardii ssp. nitidus)
- タチジャコウソウ(英:タイム、コモンタイム、ガーデンタイム、学名:Thymus vulgaris)
- 「タイム」といえば一般にこの種を指し[2]、薬や料理用のハーブとして良く用いられ、温かみある強い芳香を持つ[4]。地中海沿岸に分布し、水はけが良く日光の多い場所が生育に適する。立性で、10 - 40センチメートルほどの低い茂みになる。葉は灰緑色で小さい[4]。晩春から初夏にかけて、淡桃色の小花を群がって咲かせる[5]。
- コンパクトタイム(英:Compact Thyme、学名:T. vulgaris ‘Compactus’)
- 立性で、高さ広がりとも30 cmになる耐寒性の常緑多年草。夏に淡紅色の花が茎先に集まって咲き、葉は濃い緑色の小さな卵形で、コモンタイムの強い香りがある。ふつうの T. vulhgaris とは、株が小さくまとまっている点で異なるが、風味や薬効は同じである[12]。
- シルバーポージー(別名:シルバーポジー、シルバータイム、学名:T. vulgris ‘Silver Posie’)
- キャラウェイタイム(学名:Thymus herba-barona)
- シトラスタイム (citrus thyme, 学名:Thymus x citriodorus (T. pulegioides x T. vulgaris))
- ウーリータイム(woolly thyme, 学名:T. pseudolanuginosus)
- 料理には使われないが、グラウンドカバー(地表植被)用途に人気がある。
- ドーヌバレー(別名:ドーンバレータイム、学名:Thymus 'Doone Valley')
- フォックスリータイム(Foxley Thyme)
- 常緑の葉の縁に白い斑が入るのが特徴で、春から夏にピンク色の花を咲かせる[2]。寒くなると葉の色がピンクになる。観賞用に、鉢植えやガーデニング素材としても使われる。
- ブロードリーブドタイム(英:Broad-Leaved Thyme、別名:マザー・オブ・タイム〈Mother of Thyme〉、学名:Thymes pulegioides)
- 匍匐性で、高さ25cm、地表を45cmほど広がる耐寒性の常緑多年草。茎は若いうちは緑色で、生長すると茶色になる。葉はたくさん生じ、丸みがあり強い香りがある。夏、赤紫色の小花を茎先に集まって咲かせる。葉は料理の風味づけに利用されたり、花壇や壁伝いに植栽される[13]。
- ミノアタイム(英:Minor Thyme、学名:T. serpyllum ‘Minor’)
- ヨウシュイブキジャコウソウ(英:ワイルドタイム〈Wild Thyme〉、別名:クリーピングタイム〈Creeping Thyme〉、学名:T. serpyllum)
- 匍匐性で、高さ7 - 10 cmで、1 mほど地面を這って横に広がる耐寒性の常緑多年草[9]。夏に白色、薄桃色、淡紫色、紫色、赤色の小さな花が茎の先端に集まって咲く[4][11][9]。葉は小さく、丸くてつやのある卵形で毛で覆われ、濃緑色で良い香りがある[4][9]。ヨーロッパ北部の原産[4]。特にヨーロッパや北アフリカ、アメリカ合衆国のマサチューセッツ州バークシャー地方(The Berkshires)やニューヨーク州キャッツキル山地(Catskill Mountains)の乾いた岩石がちの地域に広く分布する。イブキジャコウソウ属は全て花蜜を分泌するが、ヨウシュイブキジャコウソウはミツバチや養蜂家にとって重要な蜜源植物であり、蜂蜜はギリシャをはじめとする地中海地方の名産品として良く知られる。グラウンドカバーにも良く用いられる。本種は強い薬効があり、効力が強い家庭用消毒液を作ることができる[9]。
- ロンギコーリスタイム(学名:Thymus longicoris)
- 匍匐性で地を這って広がり、春に株を埋め尽くすように淡紅色の花を咲かせる。葉は照葉で甘い香りがする。暑さや寒さにも強い[11]。
注釈
- ^ 英:Chemotypes、別名「化学種」ともいう。同じ学名を持つ種でも、地域や気候、土壌、太陽光の加減のほか、収穫時期によっても、芳香分子の構成が異なる。
出典
- ^ a b c 耕作舎 2009, p. 84.
- ^ a b c d e 高浜・石倉監修 NHK出版編 2013, p. 78.
- ^ a b c 北野佐久子『基本ハーブの事典』東京堂出版2005年p86-90
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 横明美 1996, p. 93.
- ^ a b c d 耕作舎 2009, p. 85.
- ^ a b c d e f 高浜・石倉監修 NHK出版編 2013, p. 80.
- ^ a b c d e 横明美 1996, p. 97.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 吉谷監修 マクビカー 2013, p. 206.
- ^ a b c d e f g h 吉谷監修 マクビカー 2013, p. 208.
- ^ a b c d 横明美 1996, p. 94.
- ^ a b c d e 耕作舎 2009, p. 86.
- ^ 吉谷監修 マクビカー 2013, p. 207.
- ^ a b 吉谷監修 マクビカー 2013, p. 209.
- ^ a b 高浜・石倉監修 NHK出版編 2013, p. 79.
- ^ a b 横明美 1996, p. 95.
- ^ 横明美 1996, p. 96.
- ^ a b c d e 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 174.
- ^ 三浦理代、五明紀春、市販香辛料のα-アミラーゼ活性およびα-グルコシダーゼ活性に及ぼす影響」『日本食品科学工学会誌』 1996年 43巻 2号 p.157-163, doi:10.3136/nskkk.43.157
- ^ 大澤俊彦、「がん予防と食品」『日本食生活学会誌』 2009年 20巻 1号 p.11-16, doi:10.2740/jisdh.20.11
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