もやもや病 合併症

もやもや病

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 01:18 UTC 版)

合併症

小児例では知能障害、成人例では脳出血

病理組織学

病理組織学的にはウィリス動脈輪を構成する血管の低形成を示し、著名な内弾性板の蛇行、内膜の線維性肥厚による内腔狭窄を認める。動脈瘤血栓形成を伴うこともある。

原因

社会保障制度上は「原因不明の疾患」ということになっている[1]。 原因となる感受性遺伝子はRNF213遺伝子の多型p.R4810Kである(感受性遺伝子とは疾患への感受性を高める遺伝子をいい、遺伝子異常だけで起こる原因遺伝子とは区別される)[4]。RNF213をクローニングしたゲノムは591-kDaの細胞質に存在するタンパクをコードしており、ゼブラフィッシュによって発達期にこの遺伝子の発現を抑制すると、頭蓋内の眼動脈や脊椎動脈の分岐の異常が出ることから、血管形成に重要な新たな遺伝子であることも分かった。また、この遺伝子を持っている人が全て発症するわけでなく、環境要因の関与も疑われている。さらにp.R4810Kは推定1万5千年の中国韓国、日本共通の祖先にまでにさかのぼることも分かり、東アジアの歴史の中で広がっていった遺伝子であることも分かった。

2019年2月1日、京都産業大学の研究グループが、発症のメカニズムの一部を特定し、2019年1月31日付けで、細胞生物学の専門誌「The Journal of Cell Biology」(ロックフェラー大学出版)のオンライン速報版に公開したことを発表した。「もやもや病」の遺伝的なリスク要因として新規遺伝子ミステリン(別名RNF213)の変異が同定され、この変異により「もやもや病」の罹患率は100倍以上、上昇する。この遺伝子の生理機能および変異によって生じる病態機能を突き止めるため、ミステリン遺伝子の分子クローニングを初めて行い、その後も継続して機能解析を続けてきた。ミステリンの酵素活性や分子構造などを明らかにしてきたが、今回、ミステリンが細胞内の脂肪貯蔵部位である「脂肪滴」に局在して、脂肪分解酵素から脂肪滴を保護し、細胞内の脂肪蓄積を増やすはたらきを持つ「脂肪代謝の制御因子」であることを突き止めた。脂肪が過剰に蓄積した肥満状態が、動脈硬化や糖尿病を含む種々の生活習慣病を引き起こすことが知られているが、これまで「もやもや病患者」において顕著な脂質代謝異常は見いだされておらず、もやもや病と脂質代謝の関係について着目されていなかった。今回の発見は「もやもや病」が代謝バランスの異常によって引き起こされる疾患である可能性を示唆しており、今後、「もやもや病」と「代謝異常」の関連について研究が進むことが期待される[5]

統計

年間発症率は10万人あたり0.35-0.5人と推定されている。日本では年間約400-500人程度の新患の登録があり、2012年時点で15,177人の医療受給者証保持者がおり[1]、実際の発症者人数はそれよりも多いと推定される。男女比は1:1.7、好発年齢は5歳と30-40歳の2峰性を示す。小児では脳虚血症状が多いのに対して成人では出血発症が多い。約15%に家族歴があるとされている。

無症候で発見されるのは全体の3-16%[1]で、無症候型においても脳卒中リスクが年間2-3%あると考えられる[1]


注釈

  1. ^ 英語発音: [(ˈ)mɔɪəˈmɔɪə dɪˌziːz] モヤヤ(モィヤィヤ)・ディズィーズ
  2. ^ 1966年(昭和41年)第25回日本脳神経外科学会会長。生年:1911年(明治44年)、没年:1991年(平成3年)。
  3. ^ 1974年(昭和49年)第33回日本脳神経外科学会会長。生年:1924年(大正13年)、没年:1990年(平成2年)。
  4. ^ この年、シンガーソングライター徳永英明が当疾患に罹患したことが報じられた。

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n 厚生労働省 (2015-05-15) (PDF). 特定疾患概要、診断基準等 22 もやもや病 (Report). https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000089977.pdf 2016年12月6日閲覧。. 
  2. ^ Moyamoya disease (Cambridge Dictionaries Online)
  3. ^ 参議院事務局 (2014-05-20). “第186回国会参議院厚生労働委員会会議録第15号” (PDF). 参議院厚生労働委員会. 東京都: 参議院. p. 13. https://kokkai.ndl.go.jp/#/detailPDF?minId=118614260X01520140520&page=1&spkNum=0&current=-1 2016年12月5日閲覧。 
  4. ^ もやもや病感受性遺伝子の特定とその機能についての発見(京都大学 2011年7月21日)
  5. ^ もやもや病の責任遺伝子が脂肪代謝の制御因子であったことを発見”. 京都産業大学. 京都産業大学 (2019年2月1日). 2019年2月1日閲覧。
  6. ^ 黒田敏, 杉山拓, 川堀真人 ほか、「もやもや病の病態,診断と治療 -最近の知見と今後の課題-」 『脳卒中の外科』 2012年 40巻 2号 p.77-82,doi:10.2335/scs.40.77
  7. ^ 横浜市立大学学術院医学群の松本教授ら研究グループが、重症型もやもや病の遺伝マーカーを発見!(横浜市立大学 2012年3月2日)
  8. ^ 対象疾患案内(もやもや病)九州大学大学院医学研究院脳神経外科)
  9. ^ a b 脳底部に異常血管網を示す疾患群をめぐって(大阪市立総合医療センター脳神経外科 小宮山雅樹『もやもや病に関する医療情報サイト』)
  10. ^ a b 日本脳神経外科学会 学術総会歴代会長ならびに開催地 (PDF) (日本脳神経外科学会)
  11. ^ 頭蓋内に異常血管網を示す疾患 - Willis動 脈輪閉塞症 -(医学書院
  12. ^ 「少女救おう」レバノンから招き手術へ--仙台のNPOが募金活動 (毎日新聞 2005年6月24日)
  13. ^ Cerebrovascular "Moyamoya" Disease: Disease Showing Abnormal Net-Like Vessels in Base of Brain (Jiro Suzuki, Akira Takaku; Arch Neurol. 1969; 20(3): 288-299.)
  14. ^ 野川茂, 福内靖男、1.ウィリス動脈輪閉塞症(もやもや病) 『日本内科学会雑誌』 2002年 91巻 8号 p.2289-2295, doi:10.2169/naika.91.2289
  15. ^ 特定疾患治療研究事業対象疾患一覧表(56疾患) 難病情報センター
  16. ^ 平成14年度 社会保障部便り No.1(鳥取県医師会 2002年6月20日)
  17. ^ Ⅲ 地域ケアシステムの充実 (PDF) (東京都福祉保健局)
  18. ^ 各疾患の解説 50音順索引 ア行 Archived 2014年11月12日, at the Wayback Machine.(難病情報センター)


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