カジメ
カジメ Ecklonia cava Kjellman
|
からだは長い茎部とその先の葉部からなる“はたき”状である。春季に芽生えた若い個体は,短い茎部と笹の葉状の葉部からなる。半年を過ぎた藻体は直径1cm程度の円柱状の茎(通常長さは30cm以下)を持ち,中央葉と呼ばれる茎に繋がったやや厚い部分から,側葉を羽状に出す。3年目以降の藻体の茎部は,長さが50cmを越え,全長は時に2mに達する。充分生長した藻体では,中央葉の中央部が厚く,両縁に向かい薄くなり,縁辺からは対生に20~30枚の側葉を生じ,さらに側葉の両縁からは第2次側葉を出す。手触りは革質でやや硬い。生体は暗褐色をしているが,乾燥すると黒くなる。茎部の最下部から輪状に発出した仮根枝は,数回叉状に分岐しながら基質に付着する。仮根枝は一年に一度,冬季に付着器の少し上部から発出し,やがて基質に着定してより大きな付着器となる。したがって付着器の仮根枝の段数は,年齢に伴って増加する。葉部には通常シワが入らず表面は滑らかであるが,土佐湾に生育するものは浅いシワを生じることがある。近縁種には深いシワを持つクロメEcklonia kuromeや,深いシワを持つ個体と持たない個体があるオーストラリアに生育するEcklonia radiataがおり,今後更なる分類学的検討が必要な種類であろう。芹澤は土佐湾,伊豆半島,房総半島,そして駿河湾に生育するカジメについて生理生態学的研究を進めている。
カジメは分布域では水深2~10mの岩礁上に密な群落を形成する。この群落はカジメ場あるいは海中林などと呼ばれ,アワビ類,サザエ,ウニ類など水産磯根資源をはじめとする多様な動物類の産卵・発育の場として重要な役割を果たしている。かつては日本でもアルギン酸の原藻としてカジメを利用していた。カジメの側葉が出る前の,笹の葉状の幼体を細かく千切りにするとかなりネバネバが出るが,これを汁物に加えて食用とする地域がある。内房(千葉県房総半島東京湾側)の金谷では,このネバネバをラーメンに入れた特産品,カジメラーメンがある。
しかし,地元の人達の話を聞くと,どうもアラメの幼体を使っているようである(確認はできていない)。
アラメとカジメは共に岩礁域に生育しており,同所的に分布する場合はカジメの方が水深のより深いところに生育する。また,水平的には,カジメの方がより南部の暖かい海域まで,アラメの方がより北部の冷たい海域まで分布している。特に注意を要する点として,アラメとカジメは地方により呼び名が逆転することがあるということがあげられる。大洗から銚子まではカジメの生育が確認されていない(打ち上げは数例が知られる)が,地方名でアラメのことを”かじめ”と呼んでおり,銚子でもアラメを”かじめ”と呼んでいる。
高さ:1~2m
加知女
搗布
皺荒布
荒布
カジメ
(Ecklonia cava から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/23 01:47 UTC 版)
カジメ(搗布[2][3][4][5]、未滑海藻[2]、学名: Ecklonia cava)は、コンブ目コンブ科[注 2]カジメ属に属する大型の褐藻の一種である。根のような付着器で岩に付着し、1本の茎(茎状部)の先端に葉(葉状部)がつき、その両縁から側葉が羽状に伸びている。多年生であり、大きなものは高さ2–3メートルになる。葉の表面はふつう平滑でシワはない。本州中部太平洋岸と瀬戸内海の一部に分布し、低潮線下で大規模な藻場(海中林)を形成する。古くは「かちめ[9](加知女[10])」ともよばれた。食用とされることもある。
注釈
出典
- ^ a b Guiry, M.D. & Guiry, G.M. (2021年). “Ecklonia cava”. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. 2021年12月10日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u 倉島彰 (2012). “アラメ、カジメ類”. In 渡邉信(監). 藻類ハンドブック. エヌ・ティー・エス. pp. 598–601. ISBN 978-4864690027
- ^ a b カジメ. コトバンクより2021年12月6日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 神谷 充伸 (監) (2012). 海藻 ― 日本で見られる388種の生態写真+おしば標本. 誠文堂新光社. pp. 100–103. ISBN 978-4416812006
- ^ a b c d e f g h 田中次郎・中村庸夫 (2004). “カジメ”. 日本の海藻 基本284. 平凡社. pp. 100–101. ISBN 9784582542370
- ^ a b 吉田忠生, 鈴木雅大 & 吉永一男 (2015). “日本産海藻目録 (2015 年改訂版)”. 藻類 63 (3): 129-189. NAID 40020642430.
- ^ a b 四ツ倉典滋 (2010). “日本産コンブ目植物の分類体系”. Algal Resources 3 (2): 193-198. doi:10.20804/jsap.3.2_193.
- ^ a b Starko, S., Gomez, M. S., Darby, H., Demes, K. W., Kawai, H., Yotsukura, N., ... & Martone, P. T. (2019). “A comprehensive kelp phylogeny sheds light on the evolution of an ecosystem”. Molecular Phylogenetics and Evolution 136: 138-150. doi:10.1016/j.ympev.2019.04.012.
- ^ a b 搗布. コトバンクより2021年12月11日閲覧。
- ^ 加知女. コトバンクより2021年12月11日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i 寺脇利信 (1993). “カジメ”. In 堀輝三. 藻類の生活史集成 第2巻 褐藻・紅藻類. 内田老鶴圃. pp. 128-129. ISBN 978-4753640584
- ^ a b c d e f g h i j k l m 吉田忠生 (1998). “カジメ属”. 新日本海藻誌. 内田老鶴圃. pp. 342–344. ISBN 978-4753640492
- ^ a b c 田中俊充, 山内信, 能登谷正浩, 木村創 & 四ツ倉典滋 (2007). “和歌山県沿岸に生育するカジメとクロメの形態的および遺伝的多様性について”. 水産増殖 55 (1): 1-8. doi:10.11233/aquaculturesci1953.55.1.
- ^ a b c d e f g h i Akita, S., Hashimoto, K., Hanyuda, T. & Kawai, H. (2020). “Molecular phylogeny and biogeography of Ecklonia spp.(Laminariales, Phaeophyceae) in Japan revealed taxonomic revision of E. kurome and E. stolonifera”. Phycologia 59 (4): 330-339. doi:10.1080/00318884.2020.1756123.
- ^ 今井利為 (1988). “三浦半島毘沙門におけるカジメの子嚢斑形成時期について”. 神水試研報 9: 21-25. NAID 80004493428.
- ^ a b c d e f 寺田竜太・川井浩史・倉島 彰・村瀬 昇・坂西芳彦・田中次郎・吉田吾郎・阿部剛史・北山太樹 (2013). “日本産コンブ目海藻5種の分布とモニタリング指標種 としての評価”. モニタリングサイト1000沿岸域調査(磯・干潟・アマモ場・藻場)2008-2012年度とりまとめ報告書: 68–73 .
- ^ 鈴木雅大 (2020年7月2日). “カジメ Ecklonia cava”. 写真で見る生物の系統と分類. 生きもの好きの語る自然誌. 2021年12月5日閲覧。
- ^ a b c d 秋元清治, 中西敏之, 小山利郎 & 加藤健太 (2012). “相模湾におけるカジメ・アラメ場の実態について”. 神奈川県水産技術センター研究報告 (5): 1–5.
- ^ 前川行幸 (1995). “三重県沿岸のアラメ, カジメ”. 日本水産学会誌 61 (1): 107-108. doi:10.2331/suisan.61.107.
- ^ a b 海の自然再生ワーキンググループ (2007年). “2.7 海藻類”. 順応的管理による海辺の自然再生. 国土交通省. 2021年12月5日閲覧。
- ^ a b 木下淳司 (2009). “人工リーフへのカジメ藻場移植と群落の拡大に関する研究”. 日本水産工学会誌 45 (3): 169-178. doi:10.18903/fisheng.45.3_169.
- ^ 神谷 充伸 (監) (2012). “藻場の種類”. 海藻 ― 日本で見られる388種の生態写真+おしば標本. 誠文堂新光社. p. 6. ISBN 978-4416812006
- ^ “カジメ”. 海藻海草標本図鑑. 千葉大学海洋バイオシステム研究センター 銚子実験場. 2021年12月5日閲覧。
- ^ “カジメのレシピ”. Cookpad. 2021年12月10日閲覧。
- ^ “「カジメ」 検索結果一覧”. ふるさとチョイス. TRUST BANK. 2021年12月18日閲覧。
- ^ “「カジメ」の検索結果”. 楽天. 2021年12月18日閲覧。
- ^ “【ソーシャル人】水産・畜産・福祉の連携で生まれた鎌倉発ブランド豚。料理家・矢野ふき子さんが仕掛ける元気な地域づくり”. 日本財団ジャーナル. 日本財団 (2020年12月25日). 2021年12月10日閲覧。
- ^ “はぎ屋旅館(日立市)”. 観光いばらき. 漫遊いばらき観光キャンペーン推進協議会. 2021年12月6日閲覧。
- ^ 浅倉聡 (2020). “日本の地下に眠る天然資源ヨウ素”. 日本海水学会誌 74 (1): 20-26. doi:10.11457/swsj.74.1_20.
- ^ 西出英一 (1961). “アルギン酸とその工業”. 農産加工技術研究會誌 8 (3): 149-157. doi:10.3136/nskkk1953.8.149.
- ^ “「厄介者」が食用に? 南伊豆の海藻「カジメ」”. 東京新聞 (2019年10月25日). 2021年12月18日閲覧。
- ^ 長谷川雅俊 (2005). “カジメ藻場の磯焼けからの回復”. 日本水産工学会誌 42 (2): 165-169. doi:10.18903/fisheng.42.2_165.
- ^ 池添博彦 (1992). “奈良朝木簡にみる食文化考”. 帯広大谷短期大学紀要 29: 27-41. doi:10.20682/oojc.29.0_27.
- ^ 宮下章 (1974). “海藻文字の先覚者”. 海藻. 法政大学出版局. pp. 49–50. ISBN 978-4-588-20111-0
- ^ 宮下章 (1974). “養老令”. 海藻. 法政大学出版局. pp. 72–74. ISBN 978-4-588-20111-0
- ^ 宮下章 (1974). “『毛吹草』”. 海藻. 法政大学出版局. pp. 100–102. ISBN 978-4-588-20111-0
- ^ a b 宮下章 (1974). “国(府県)別特産”. 海藻. 法政大学出版局. pp. 243–251. ISBN 978-4-588-20111-0
- ^ 宮下章 (1974). “『寛永料理物語』”. 海藻. 法政大学出版局. pp. 115–118. ISBN 978-4-588-20111-0
- ^ 鈴木雅大 (2020年6月6日). “ツルアラメ Ecklonia cava subsp. stolonifera”. 写真で見る生物の系統と分類. 生きもの好きの語る自然誌. 2021年12月8日閲覧。
- ^ a b 右田清治 (1984). “アラメ・カジメ類の属間・種間交雑”. 長崎大学水産学部研究報告 (56): 15-20. NAID 120006970909.
- ^ 鈴木雅大 (2021年9月5日). “コンブ目”. 日本産海藻リスト. 生きもの好きの語る自然誌. 2021年12月11日閲覧。
- ^ Rothman, M. D., Mattio, L., Wernberg, T., Anderson, R. J., Uwai, S., Mohring, M. B. & Bolton, J. J. (2015). “A molecular investigation of the genus Ecklonia (Phaeophyceae, Laminariales) with special focus on the Southern Hemisphere”. Journal of Phycology 51 (2): 236-246. doi:10.1111/jpy.12264.
- ^ Kawai, H., Akita, S., Hashimoto, K. & Hanyuda, T. (2020). “A multigene molecular phylogeny of Eisenia reveals evidence for a new species, Eisenia nipponica (Laminariales), from Japan”. European Journal of Phycology 55 (2): 234-241. doi:10.1080/09670262.2019.1692911.
- Ecklonia cavaのページへのリンク