Ballade F-Dur Op.38 CT3とは? わかりやすく解説

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ショパン:バラード第2番 ヘ長調

英語表記/番号出版情報
ショパンバラード第2番 ヘ長調Ballade F-Dur Op.38 CT3作曲年: 1836-39年  出版年1840年  初版出版地/出版社: Breitkopf & Härtel  献呈先: Robert Shumann

作品解説

2008年7月 執筆者: 朝山 奈津子

 ショパンピアノ曲用いたスタイル観察する方法は幾通りもあるが、抒情的なものと物語的なもの、という分類がひとつ可能だろう前者の代表は《ノクターン》、《マズルカ》であり、後者典型が《バラード》と《スケルツォ》である。
 抒情的な構成において各フレーズや音型は羅列的で、その連結きわめて緩やかであるのに対し物語的な構成では、1曲の中にいわば起承転結感じることができる。なぜ明確なドラマ性が生じるかといえば、まず、和声進行明解で、とりわけドミナントトニック(転から結へ進む部分)の定型がよく守られるからである。また、動機変奏転回反復拡張などの手法を用いて発展することもあり、ヴィーン古典派ソナタのような労作はなされなくとも、複数主題複雑に組み合わされて曲が作られている。
 つまり、《バラード》、《スケルツォ》、《ボレロ》など物語構成を持つ作品では、ダイナミックドラマティックな、始まりから終わり必然をもって突き進むような音楽的時間生み出されるのであり、こうした要素鑑賞上のポイントとなっている。(蛇足ながら抒情的な作品では、わずかずつ変容しながら留まり続け戻り進みそれほど明確でない、いわば音楽的空間中に鑑賞者の耳を遊ばせることになる。)
 さて、では、各4曲が残されている《バラード》および《スケルツォ》の違いはどこにあるのか。
 これらがジャンルとしてショパン創作の中で隣接していることは、音楽見れば何より明らかである。しかも、両ジャンル形式から明確に区別することはほとんどできないように思われる。ひとつには、これがショパン固有のジャンルであるからで、それぞれ由来する思われるジャンル伝統調べて手がかり出てこない。しかし、音楽外形からは区別できなくとも、それぞれの音楽内容、いわば物語の内容はやや異なっている。
スケルツォ》はイタリア語で「冗談」を意味し従来簡明な形式で明るく軽く小規模な曲を指したベートーヴェンメヌエット代えてソナタ第3楽章取り入れた時も、やはり極めて急速でユーモア富んだ性格与えられた。ショパンの《スケルツォ》は、一見するとこうした伝統にまったく反し暗く深刻なうえに大規模である。だが、《バラード》と比べてみると、《スケルツォ》がいかにユーモア内包しているかがよく判る4つの《スケルツォにはいずれも、きわめて急速でレッジェーロ動機がひとつならず登場し随所で「合いの手」を入れている。また、各部で短いサイクル交代する音量コントラスト指定されている。
 こうした手法が《バラード》にはほとんどない。各動機、各音は前後しがらみ囚われており、逸脱許されない沈鬱主題次々と現われ、それらは鬱積し怒濤をなし、ついには破滅的な終末迎える。《スケルツォ》が軽妙な音型や滑稽なまでのコントラストでこの種のストレス解消するのとは、対照的である。
 なお、《バラード》4曲はすべて複合2拍子、《スケルツォ》は3拍子書かれており、これが唯一の外形的な特徴といえなくもない。が、《スケルツォ》は全篇通じてほとんどが2小節で1楽句作るため、やはり2拍子強烈な推進力内包している。


バラード》はショパンピアノ作品初め用いた名称で、直接的には、ポーランド詩人アダム・ミツキェヴィチバラッドインスピレーション得た、といわれている。具体的にどの詩がどの曲に当てはまるのかは諸説あるが、どれも確証得られず、俗説に留まっている。しかし、ショパンがたとえ実際にいずれかの詩をもとに作曲進めたにせよ、これほど豊かな音楽性秘めて結実した作品何かひとつ筋書き当てはめ、聴き手想像力制限することは、作曲家本意ではあるまい
 より広く視野をとるなら、1820年代ワルシャワ界隈ではバラッドなる歌曲流行しており、こうした文学上のジャンルショパン精神生活にはなじみ深いのだった考えられる加えてシューベルトバラードや、パリグランド・オペラ用いられバラード風のアリアなどもショパン大きな感銘与えた。従って、あらゆる体験集約して独自の新ジャンルバラード》が誕生したみるべきだろう。

バラード第2番は、シチリアーノリズムによるAndantinoと、激し16分音符分散和音伴われPresto con fuoco交代構成される各部登場のたびに変奏される。ばかりか徐々に各部が短いサイクル交代するうになる。ここに「静」と「動」、「正気」と「狂気」の闘争容易に見て取れる。しかしそれは、侵される静寂蝕まれる正気である。2回目Agitato主題は、間に中断逸脱挟みつつ再現され真の狂気が実はPresto主題ではなくAndantino主題潜んでいることが徐々に明かされるとりわけ115小節Tempo Iの指定の下で現われるAndantino主題重要な意味を持つ。この主題には非和声音いびつに絡みついて、ひどく不気味である。いっぽうPresto主題と、最終的にこれを引き継ぐAgitatoコーダは、加速しつつもほぼ正確な8分の6拍子刻み変奏といって和声リズム速く単純で、大きな逸脱起こさない。ただひたすらに音量激しさを増すのみである。最後に4小節だけ回帰するAndantino主題言い差しのまま力なく、激し闘争はたった3音の短く弱々しいカデンツで終わる。ここで取り戻されひととき静寂は、実はすでに狂気冒され見せかけの正気なのだ。
 このようにみると、《バラード第2番にはほとんど一片救済もない。しかしシューマン証言によれば1836年ショパン弾いて見せたときにはヘ長調終わったその後出版される1840年までショパン推敲続け様々なバージョンを人に聴かせもしたらしい。この作品ショパン秘蔵自信作であり、いっけん単純に見え構造入念な検討の末に選ばれたものであることが判る




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