常染色体劣性脊髄小脳変性症
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/07 16:45 UTC 版)
「脊髄小脳変性症」の記事における「常染色体劣性脊髄小脳変性症」の解説
常染色体劣性遺伝性脊髄小脳変性症(ARCA)は常染色体劣性の遺伝形式をとり、進行性の運動失調を中核とする神経変性疾患を包括する概念である。日本における脊髄小脳変性症の1.8%を占める。欧米ではフリードライヒ運動失調症が大多数を占めるが、日本では眼球運動と低アルブミン血症を伴う早発型失調症(EAOH/AOA1)が最多である。常染色体劣性遺伝」を疑う時は以下の時である。両親がいとこ婚または同胞に同症の発症がある、かつ累代発症(別の世代の発症)がないときに劣性遺伝を疑う。また30歳未満の発症も劣性遺伝を疑う。症候学的には、後根神経節、脊髄後索の変性を伴う脊髄型、小脳失調以外に多彩な神経症候(多くは軸索型感覚運動ニューロパチー)をともなう小脳型、小脳失調以外の神経症候を伴わない純粋小脳型に大別される。脊髄型にはフリードライヒ運動失調症、ビタミンE単独欠乏を伴う失調症に代表され下肢に限局しない感覚性運動失調を呈する。小脳型は毛細血管拡張運動失調症や眼球運動と低アルブミン血症を伴う早発型失調症が含まれる。純粋小脳型は極めて稀である。DNA修復の破綻が複数の常染色体劣性脊髄小脳変性症の病態に関与していると考えられている。またいくつかの疾患では早期治療が可能である。代表例がビタミンE単独欠乏を伴う失調症(AVED)でありα-トコフェロールの内服で治療可能である。 フリードライヒ運動失調症(FRDA) 1863年にフリードライヒが脊髄癆や多発性硬化症とは異なる同胞間にみられる遺伝性の脊髄性失調を呈する疾患を報告した。日本での報告例は2009年現在ない。欧米白色人種に強い創始者効果があり、5万人に1人と高頻度に認められる。10歳前後が発症のピークであり罹患期間5~50年と幅があるが30~40歳で死亡することが多い。 眼球運動と低アルブミン血症を伴う早発型失調症(EAOH/AOA1) 日本においてFRDA亜型と考えられていたもののほとんどはEAOH/AOA1である。 ビタミンE単独欠乏を伴う失調症(AVED) ビタミンE欠乏症は原因に関わらず臨床症状は比較的一定である。神経症状ではフリードライヒ運動失調症とほとんど区別がつかないが一部の例で網膜色素変性症を伴う点が異なっている。基本的な神経症状は下肢に高度で顕著な深部感覚障害、後索性運動失調、構音障害と四肢腱反射消失である。深部感覚障害は重度で、振動覚は消失し、四肢関節位置覚障害も高度である。一部の患者では網膜色素変性症や側彎症、凹足、バビンスキー徴候、振戦を認める。知能障害、眼振、線維束性攣縮、自律神経症状は認めない。頭部MRIでは小脳や脳幹の萎縮や異常信号域は認められない。脊髄MRIでは脊髄に異常が認められることがある。電気生理学的所見では正中神経のSEPではN13と皮質電位の消失を認めるが末梢神経の電位は認められる。治療法は吸収不良を伴う場合はビタミンEの筋肉注射であり、吸収不良でない場合は経口大量投与で神経症状の軽度の改善や進行の停止が期待できる。 1980年代から脂肪吸収不全を伴わず、一部は家族性の特発性ビタミンE欠乏による脊髄小脳変性症例が、familial isolated vitamin E deficiencyまたはataxia with isolated vitamin E deficiency(AVED)の疾患名で報告されていた。1995年にその原因がα-TTP遺伝子(αトコフェノール転移蛋白遺伝子)の変異によるα-TPPの機能異常であることが明らかになった。α-TTPは肝細胞の細胞質蛋白である。食事から吸収されたビタミンEはカイロミクロンに取り込まれて肝臓に運ばれる。肝細胞でα-TTPによりα-Tocが選択的に肝臓で合成されるVLDLに取り込まれて再び血中に出る。血中でVLDLはLDLに変化し、LDL受容体を介して各組織の細胞内に取り込まれる。したがってα-TPPの機能異常が生じるとα-Tocの吸収は正常だが、これを血中で保持できなくなる。
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