十一面観音立像
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 06:06 UTC 版)
国宝。向源寺に属する観音堂(渡岸寺観音堂)に安置されていた像で、1974年に収蔵庫の慈雲閣が完成してからはそちらへ移されている。寺伝では泰澄作とされるが、像容に密教思想の影響がみられることから、実際の制作年代は平安初期、西暦では9世紀とされている。 像高は194cm(頭上面を含む)、檜材の一木彫である。像は蓮華座上に左脚を支脚、右脚を遊脚として立ち、腰をこころもち左にひねる。右腕は掌を正面に向け、五指を伸ばして体側に垂下し、左腕は肘を曲げ、胸の高さで持物(水瓶)をとる。頭上面、天冠台上正面の化仏(けぶつ)、両手首から先、持物、胸飾をそれぞれ別材とするほかは台座蓮肉部と天衣遊離部まで含め一材から彫出される。別材矧ぎ付け部分のうち化仏、両手首から先、持物は後補である。頭髪部の造形には木屎漆(こくそうるし)を併用している。像表面は彩色、金箔等を施さない素地仕上げとし、体部は背面から内刳(うちぐり)を行っており、背部に上下2段に蓋板を当てる。 図像的には、頭上面を大ぶりに表すこと、本面の左右に大きく2面を表すこと、頂上面を仏面でなく菩薩形とすることなどに特色がある。十一面観音像は、菩薩面3、瞋怒面(しんぬめん)3、狗牙上出面(くげじょうしゅつめん)3、大笑面(だいしょうめん)1、頂上仏面1の計11面を頭上に表すのが一般的であるが、本像の場合は、本面の左右に瞋怒面と狗牙上出面を大きく表し、天冠台上には菩薩面、瞋怒面、狗牙上出面を各2面、背面に大笑面を表す。 頂上面は他の十一面観音像では螺髪をもつ如来形とするのが一般的であるが、本像の頂上面は髻を結い、五智宝冠(五智如来を表した冠)を戴く菩薩形とする。頂上面以外の頭上面は、髻正面に仏坐像を表す。鼓胴式耳璫(じとう)という太鼓の胴のような形の耳飾りを付け、天冠台から垂れる飾り紐が前腕部まで達するほど長いのも特色である。 均整のとれた体躯、胸部や大腿部の豊かな肉取り、腰を捻り片脚を遊ばせた体勢などにインドや西域の風が伺われる。文学作品や映画などにも取り上げられた、日本における観音像の代表作として著名な作品である。 東宝映画「幻の湖」で、主人公が観音像を拝観する場面がある。
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