エゾゲンゴロウモドキ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/19 08:36 UTC 版)
「ゲンゴロウモドキ属」の記事における「エゾゲンゴロウモドキ」の解説
オウシュウゲンゴロウモドキ D. marginalis Linnaeus, 1758 は旧北区の寒帯・温帯(アイルランド以西)にかけて広域に分布する。同種には基亜種D. marginalis Linnaeus, 1758と亜種D. marginalis czerskii Zaitzev, 1953の2亜種が知られており、前者は旧北区の西部・中部に、後者は旧北区東部に分布する。 エゾゲンゴロウモドキ(キタゲンゴロウモドキ) D. marginalis czerskii Zaitzev, 1953はD. marginalis のうち極東付近に分布する1亜種で、ゲンゴロウモドキと酷似しているが腹面は黒褐色紋がなく、全体が光沢を帯びた黄褐色であるため容易に判別できる。本種は従来独立種D. czerskii とされていたが、Roughley(Wehncke, 1990)によりD. marginalisの亜種として整理されたほか、東北地方からキタゲンゴロウモドキD. delictus Zaitzev, 1906として知られていた種は本種に該当することが判明した。平地 - 高地に好んで生息するゲンゴロウモドキとは異なり山間部を好み、主として冷涼な山間部にある水質が比較的良好な池沼などに生息する。 日本国内においては北海道(道南 - 道東)・本州の東北地方・栃木県・長野県(未発表)・新潟県に分布する。分布の南限は栃木県日光市の中禅寺湖(1884年)・湖畔の千手ヶ浜(1990年)で、東北地方では青森県・岩手県・秋田県・山形県・宮城県で記録されていた一方で福島県からは長らく記録がなかったが、2008年に新たに福島県内でも記録された。また2010年6月には粕谷伸孝によるライトトラップ採集で新たに新潟県南魚沼市内にて本種が採集・記録され、その後も2017年10月に高野雄一が同県中越地方山間部の池で本種を採集しその記録を公表している。 体型は長卵形で体長31 - 36ミリメートル。背面はわずかに緑色を帯びた黒褐色で頭楯・上唇・触角・口枝および前胸背板・上翅両側側縁部は黄色 - 淡い黄褐色である。前頭中央V字紋・両眼内縁は赤褐色で、前頭両側の黄色部内側には点刻を有する浅い凹みがあり、上唇前縁は多少とも湾入する。 前胸背板は前縁付近・後縁の一部にそれぞれ不規則で粗い点刻列を持ち、オスでは光沢があるが、メスでは細かい点刻列があり光沢がない。オスの上翅は光沢がありそれぞれ点刻列2条・後方の粗い点刻を有する。メスの上翅はオスより強い点刻があり、それぞれ10条の深い縦溝(上翅前約3分の2におよぶ)を持つが個体差があり、縦溝のないメス個体の存在も報告されている。 腹面は黄褐色で光沢が強いが、後胸腹板内方・後基節後縁・後基節突起の周縁、腹部第4・5節の前縁部は黒褐色となる。脚は黄褐色で雌雄ともに中・後脚の脛節および跗節には長い遊泳毛を持つほかオスの前・中跗節は基方3節が広がり吸盤を形成する。北海道産・本州産では外部形態による区別は困難だが、オス交尾器中央片に若干の違いがある。 湧き水のある水たまりなどにも生息するが産地は局所的で個体数も少なく、2018年現在は絶滅危惧II類 (VU)(環境省レッドリスト)に指定されている。アクアマリンいなわしろカワセミ水族館(福島県耶麻郡猪苗代町)では年間通して12℃ - 13℃前後の山水を利用して本種の累代繁殖に取り組んでいる。前種と比較すると飼育しやすい種だが夏季の高水温・水質悪化にやや弱いため低水温を維持する飼育環境・設備が必要となる。本州の屋外で飼育すると2月中旬 - 6月中旬ごろまでメス成虫1頭あたり100個以上産卵し、4月 - 5月に産卵のピークを迎える。 成虫・幼虫とも小魚を捕食するほか、カの幼虫(ボウフラ)など小型の水生無脊椎動物も食べる。成虫は発達した下翅で飛翔して生息地を移動するが、1回の飛翔につき秒速約2.5メートルで3時間以上飛び続けることができる。卵はゲンゴロウと異なり高水温に弱いため、発育途中で腐敗して孵化しないことが多く、飼育時は産卵期に水温を20℃以下の低水温に保つことが重要となる。孵化後の幼虫飼育は容易で、幼虫は多足類のミズムシ・オタマジャクシ・サンショウウオの幼生などを捕食して成長する。『水生昆虫観察図鑑』では「非常に美しい種類。水深のかなり深い場所でも生活しているためか、浅い水深を好むシャープゲンゴロウモドキより泳ぎが上手な印象を受ける」と解説されている。
※この「エゾゲンゴロウモドキ」の解説は、「ゲンゴロウモドキ属」の解説の一部です。
「エゾゲンゴロウモドキ」を含む「ゲンゴロウモドキ属」の記事については、「ゲンゴロウモドキ属」の概要を参照ください。
- エゾゲンゴロウモドキのページへのリンク