ULTRA BLUE 音楽性

ULTRA BLUE

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/01 23:16 UTC 版)

音楽性

『ULRA BLUE』は、前作『DEEP RIVER』に比べて宇多田自身の打ち込みによるシンセサウンドを強調したアレンジが特徴的な楽曲が多くなっており[1]、その音色も様々で、Real Soundは「バックで長く伸ばすものと、裏でうごめくものの2パターンを使い分け、曲のテイストを変えている。」と指摘している[15]。またその中で、「誰かの願いが叶うころ」や「Be My Last」等で、生楽器を主体とした比較的にシンプルなアレンジも目立っている[16]。メロディは全体的に強い主旋律が特徴的で、高音を用いる歌も多くなっており、「This Is Love」や「BLUE」はサビでガツンと頭に響くメロディを歌うことで、切迫感を出している。Real Soundは、宇多田は2年前に海外進出をしていたのでこのように本作にJ-POPにはない要素が顕著に出たのは当然だとしている[15]。また、転調も多く挟むようになり、コードも複雑化していると指摘されている[15]。宇多田は、今までは「自分を隠そう、他人に自分を見せないようにしよう」という気持ちが強く、それが作品にも表れていたというが、本作の制作では「初めて自分を見せよう、自分の良い部分も悪い部分も全て認め、表現することが出来た」という[7]。そして、以前までなら使われなかったような言葉や表現も、本作では様々なところで用いられている[17]。また、宮沢賢治の詩の擬音の使い方に感銘を受け、今作ではそれを一部取り入れたという[注 1]

楽曲

This Is Love
テクノ/エレクトロのテイストをたっぷりと取り込んだトラック・メイクとなっており[18]、宇多田によれば「自分が持つ世界観や価値観を取り入れてみたり歌詞的にわざと外したような形にしてみたりと、これまでの自分では表現できなかったやり方が出来てきて、自分自身の表現力がかなり身に付いてきたと感じ取る事ができた曲」だという[8]
Keep Tryin'
遊び心のある歌詞が特徴的な宇多田なりの応援ソングとして仕上がっており[1][5]、多方面で宇多田のポップセンスが光る曲としての評価を得ており[19][20][21]菊地成孔は同曲に関して「我が国の歌謡曲史上おそらく初であろう〈フラット13度(テンション名→音楽用語)からナチュラル13度への移動[注 2]〉という衝撃の音程をゲテモノと聴かせず、トップチューンのポップ感にしてしまうその奇形的/健康的な力技は、ある時期のビートルズに匹敵する。」とコメントしている[21]
BLUE
アルバムのタイトルチューンで本作の軸となる曲であり、サビで一気にほぼオクターブくらいのキーに上げるメロディが印象的[15]。メロディが歌詞に合わせにくく、完成した歌詞の内容も音楽的に成立するか不安だったが、「これが"宇多田ヒカル"です」と言える作品になったといい、宇多田は「明日死んで、たとえこれが最後の曲になったとしても満足できるように」という曲作りへの意気込みを語っている[7]
日曜の朝
いくつかのループを有機的に組み合わせたバック・トラックに[18]、宇多田自身の持っている「皆が社会から逸脱する素の時間」という日曜の朝に対するイメージを元にした歌詞が乗せられている[6]。また宇多田曰く最も自身の人生観が出た曲で、現在も度々お気に入りの楽曲として挙げている[22][23][注 3]
Making Love
アップテンポのエレクトロ・ポップとして仕上がっており[1]、急に大阪に引っ越すことになった宇多田の親友への友情の曲で、自分の歪んだところが露呈した曲だという[8]
誰かの願いが叶うころ
全米デビュー前にリリースされたシングルで、アコースティックなピアノをメインにごくわずかなストリングスを盛り込む静かな構成で、歌詞がより一層際立つようになっている[15]
COLORS
アルバムの中で最も古い曲であり、2ステップ・ビートも含んだトラックの上に[25]、全体に歌謡曲的なセンチメンタリズムが漂っており、憂いを帯びた前半からサビで一気に高まっていく展開も特徴的である[26]。2003年発表の楽曲だが本作に収録した理由について宇多田は、「半世紀後とかに私の歌を聞きたいという人がいて、アルバムに全部のシングルが入っていないと嫌だから、最初から収録すると決めていた」と述べている[6]
One Night Magic feat.Yamada Masashi
THE BACK HORN山田将司をフィーチャーした楽曲で、上品な憂いをたたえた宇多田のヴォーカルとプリミティヴな狂気を感じさせる山田の声がサンバのリズムの上に乗っている[18][9]。宇多田はこの曲に関しては、「実際にレコーディングしてみて、声を合わせていくまでは分からなかったけど、自分の声質と凄く似てる所があるなって思ってて、それらが凄く不思議な位に2つ重なって1つの声として成立して、本当に不思議に感じた印象が残った。曲の中の暗い部分の中にも甘いと感じる所が上手く合致していったんだろうなと思ってる。主な歌詞の所にセカンドコーラスとしての別の歌詞があったんだけど、雰囲気や詩的な所は全く違ってた筈なのに、共通の所にしっかりとはまったような感じで、最終的には言いたいところは全く同じになってる、って所にすごい満足感を感じたかな」と語っている。
海路
ヒリヒリと切ないイメージをもたらすストリングスと抽象的なリズム・アレンジが融合したバラード・ナンバー[18]。「ぼくはくま」やカバー曲、アルバムにたびたび収録されるInterludeを除くと、宇多田史上最も演奏時間の短い曲。その上かなりの時間伴奏のみの部分があるため、歌詞は11行、文字でいうと100文字前後しかない。本人は意識しなかったようだが、5音音階(ペンタトニック)でメロディが構成されており、英語歌詞も全く入っていない。
WINGS
洗練を極めたリズム、クラシカルな空気を持つピアノ、シックなイメージを与えるフルートがひとつになった斬新なアレンジが目立つ楽曲で、宇多田曰く「22歳の『time will tell』」で、当時の夫・紀里谷和明とのケンカがきっかけになって生まれた曲だという[5]
Be My Last
アコースティック・ギターの憂いを帯びた響きと、宇多田のエモーショナルなヴォーカルが際立っている曲であり[18]ベースを廃し、ケルトを想起させるミクソリディアン・モードを用いることで、主題歌となった映画「春の雪」の情緒を演出している[27]。宇多田によると同曲では「再生とか繰り返しとか、何かが始まって、それが育った時点でまた壊してとか、人生はその繰り返し」という思いと、その辛さが歌われている[5]
Eclipse (Interlude)
インスト曲となっており、「2000年代における最新鋭のエレクトロ・ミュージック」との評価も得ている[18]。「畳み掛けるような怒り」や「ドアを次々に開けていく感じ」を表現しているという[8]
Passion
ラストナンバーであり、オルタナティヴ・ロックアンビエントなどのジャンルの要素を含んでおり[2][28][29]タム・ドラムホイッスルがループするバック・トラックが印象的な楽曲[30]。「時間の流れの真ん中にいる人が、その球体の中でどっちの方向にも向いていて、過去や現在や未来を全部つないでいるのは、自分の中にある情熱や生きる力なんだ」という思いが歌詞の焦点になっている[5]

注釈

  1. ^ 宮沢賢治については、次作アルバム『HEART STATION』でも、収録曲「テイク5」で銀河鉄道の夜を意識した歌詞を書いている
  2. ^ サビの"ずーっと"の部分
  3. ^ とりわけ気に入っている部分を、Twitterで以下のように書き込んでいる[24]

    「Aメロ2(「早起き〜」で始まる部分)だけ、だゆ〜んだゆ〜んシンセが半拍ズラしてあるの。1、2、3、4(表拍)に乗ってる。こっちがむしろ「正義」なんだけど、他の部分ではシンコペーション(裏拍乗り)してるせいで、ちょっとした違和感を感じる。これが「日曜の朝」で一番気に入ってるとこ!」

  4. ^ 2006年から開始
  5. ^ 2006年度の年間チャート

出典

  1. ^ a b c d ALBUM REVIEW: HIKARU UTADA - ULTRA BLUE”. RANDOM J POP (2009年7月29日). 2020年12月26日閲覧。
  2. ^ a b Utada Hikaru: Passion”. MuuMuse (2008年11月8日). 2020年12月26日閲覧。
  3. ^ 突然ですが・・・・・”. MESSAGE from HIKKI (2002年2月21日). 2020年12月10日閲覧。
  4. ^ ありがとうございました”. MESSAGE from STAFF (2003年3月13日). 2020年12月26日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i j k l 「シングル『COLORS』-『Keep Tryin'』」、点 -ten-、146-169 項、u3music、2009年
  6. ^ a b c d e f g h 「アルバム『ULTRA BLUE』」、点 -ten-、170-185 項、u3music、2009年
  7. ^ a b c 次なるステージへ・・・新たな世界観を築いた大作『ULTRA BLUE』を語る page.1”. 2020年2月23日閲覧。
  8. ^ a b c d 次なるステージへ・・・新たな世界観を築いた大作『ULTRA BLUE』を語る page.2”. 2020年2月24日閲覧。
  9. ^ a b 次なるステージへ・・・新たな世界観を築いた大作『ULTRA BLUE』を語る page.3”. 2020年2月24日閲覧。
  10. ^ 「COLORS」ミュージックビデオ Making Video、『UTADA HIKARU SINGLE CLIP COLLECTION VOL.4 UH4』(2006年)収録
  11. ^ FMFUJI「山本シュウのサタデー・ストーム」2006年12月17日放送
  12. ^ お久しぶりです。ご無沙汰していました。”. MESSAGE from STAFF (2006年5月31日). 2020年12月26日閲覧。
  13. ^ カンヅメとサンポ”. MESSAGE from HIKKI (2006年3月7日). 2020年12月26日閲覧。
  14. ^ ちょーーーっ ギリ!!!”. MESSAGE from HIKKI (2020年12月28日). 2020年12月26日閲覧。
  15. ^ a b c d e 宇多田ヒカル楽曲の変遷 3つの音楽的ポイントから探る 2/3”. Real Sound (2018年11月24日). 2020年12月26日閲覧。
  16. ^ 月間優秀録音ハイレゾ配信レビュー 『ULTRA BLUE』[2018 Remastered]”. PHILEWEB. 2020年12月26日閲覧。
  17. ^ 「『ULTRA BLUE』インタビュー」、CDでーた、2006年
  18. ^ a b c d e f 宇多田ヒカル / ULTRA BLUE”. CDJournal (2006年). 2020年12月26日閲覧。
  19. ^ 宇多田ヒカルのうた』全貌明らかに。12. KIRINJI/「Keep Tryin’」(16thシングル/2006年2月22日リリース)”. BARKS (2014年12月3日). 2020年12月26日閲覧。
  20. ^ 【宇多田ヒカル】水曜日のカンパネラのケンモチヒデフミさん、ライターの九龍ジョーさん登場”. J-WAVE (2018年2月24日). 2020年12月26日閲覧。
  21. ^ a b 第10回 ─ 最終回! 宇多田ヒカルの“ぼくはくま”をチアー&ジャッジ”. tower records online (2006年12月28日). 2020年12月26日閲覧。
  22. ^ #ヒカルパイセンに聞け”. Hikaru Utada Official Website (2016年). 2020年12月26日閲覧。
  23. ^ 22 by Hikaru Utada”. Apple Music (2020年). 2020年12月26日閲覧。
  24. ^ utadahikaruのツイート(435812490241650688)
  25. ^ ROCKIN'ON JAPAN 編集部 鹿野編集長と宇野氏による"Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1"収録楽曲全曲レビュー”. ROCKIN'ON.COM (2004年). 2020年12月10日閲覧。
  26. ^ 宇多田ヒカル / COLORS”. CDJournal (2003年). 2020年12月26日閲覧。
  27. ^ 第1回 ─ 宇多田ヒカル“Be My Last”をチアー&ジャッジ!(2)”. TOWER RECORDS ONLINE (2005年10月5日). 2020年12月26日閲覧。
  28. ^ "Passion" - AllMusic Review by David Jeffries”. Allmusic. 2020年12月26日閲覧。
  29. ^ Kingdom Hearts II: Passion - Utada Hikaru :: Review by Simon”. SQUARE ENIX MUSIC ONLINE. 2020年12月26日閲覧。
  30. ^ 宇多田ヒカル / Passion [CD+DVD]”. CDJournal (2005年). 2020年12月26日閲覧。
  31. ^ ULTRA BLUE - 宇多田ヒカル”. hotexpress (2006年). 2020年12月10日閲覧。
  32. ^ 宇多田ヒカル『ULTRA BLUE』”. VIBE (2006年). 2020年12月10日閲覧。
  33. ^ Utada Hikaru "Ultra Blue"”. The Japan Times (2006年7月23日). 2020年12月10日閲覧。
  34. ^ 宇多田ヒカル、名盤との声高し!”. HMV ONLINE (2008年3月28日). 2020年12月10日閲覧。
  35. ^ 宇多田ヒカル、2年1ヶ月ぶりのアルバム首位獲得で史上初の快挙!”. ORICON NEWS (2006年6月20日). 2020年12月26日閲覧。
  36. ^ ALBUMS week 26 / 2006 - July 1”. Media Traffic (2006年7月1日). 2020年12月26日閲覧。
  37. ^ 宇多田ヒカル、2週連続首位!”. ORICON NEWS (2006年6月27日). 2020年12月26日閲覧。
  38. ^ 2006年間アルバムランキング TOP100”. ORICON (2007年). 2020年12月26日閲覧。
  39. ^ Chairman Nicoli Addresses WMG Merger And EMI's Future”. hypebot (2006年7月13日). 2020年12月26日閲覧。
  40. ^ iTunes年間ランキング、トップは宇多田とモーツァルト”. ITmedia NEWS (2016年12月20日). 2020年12月26日閲覧。






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