RAW画像
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/13 06:53 UTC 版)
概要
デジタル一眼レフカメラやミラーレス一眼カメラ、コンパクトデジタルカメラ、一部のスマートフォンなどのデジタルカメラで記録可能な画像形式。デジタルカメラでは一般的に「写真」としてJPEG画像を生成するが、RAW画像はJPEG画像を生成する元となる「生」の画像データである。ある程度の写真知識がある(プロフェッショナル、ハイアマチュアなど)ユーザーが、露出、コントラスト、ホワイトバランス、カラーバランス、明度、彩度などの補正や加工、ノイズや歪曲など除去をパソコン上で思い通りに行ないたいという要望に応え、カメラメーカーが用意している機能のひとつ。加工と鑑賞にはRAW対応のソフトウェアが必要になる。近年はRAWに対応するソフトウェアが増えている。カメラメーカーによって記録データの内部形式がまちまちである事、およびデータ量が多くなることから、そのままでは印刷データや、不特定多数に向けた配布、鑑賞には適さない。
デジタルカメラ登場時には、本体の処理能力が劣っていたためカメラ独自のRAW画像で記録され、パソコン側でカメラ付属ソフトウェアを使いJPEGやTIFFなどのオープンな形式に変換していた。
解説
![](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/redirect?dictCode=WKPJA&url=https%3A%2F%2Fupload.wikimedia.org%2Fwikipedia%2Fcommons%2Fthumb%2Fc%2Fcb%2FCCD_Bayer_layout.png%2F220px-CCD_Bayer_layout.png)
RAW画像は原則的にカメラの撮像素子から得られた無加工のセンサデータを保持する。撮像素子のピクセルは一般的な画像フォーマットのピクセルとは異なる配列になっている。例えば、下記のベイヤ配列が典型的である。多くのデジタルカメラで採用されている単板式カラーCCD・CMOSイメージセンサでは各画素が単色の色情報しか持たない。したがって、デジタルカメラは撮影時に各画素に対してその周辺画素から足りない色情報を集め与えることで色情報を補完し、フルカラー画像を作り出す「デモザイク」 (de-mosaic) 処理を行っている。多くのデジタルカメラではデモザイクに並行して色や明るさのトーン等を自動レタッチする画像加工を行い、完成した画像をJPEGやTIFFなどの汎用画像フォーマットで保存する。
しかし、デモザイクや自動レタッチ処理の精度は完成画像の画質に大きな影響を及ぼすほか、現像後(後述)はホワイトバランス(色温度)などが固定されてしまうため容易に修正ができない。また、最終保存に使われるJPEGフォーマットは通常非可逆圧縮であり、水平方向の色情報の間引きも行っているため元データと比較すると原理的に画質劣化が避けられない。さらに、これらフォーマットの色深度は通常各色8ビット(合計24ビット)しかないため、通常12ビット~14ビットの精度があるイメージセンサから受け取った情報を大幅に切り捨てるほかなく、撮影後の露出(画像の明暗や輝度)調整が困難になる。
このような事情から、通常の画像フォーマットで保存されたデータでは大胆なレタッチをしようとすればするほど画質低下が際立ち、作品作りの自由度がそがれているとしてプロ写真家などからは大きな不満の声が上がっていた。このため、デジタル一眼レフカメラなど高機能カメラを中心に、デモザイク前の生データ、すなわちRAWデータをそのままファイル保存する機能を持つものが増え始め、2015年現在ではほぼ全てのレンズ交換式カメラやコンパクトデジタルカメラ、一部のスマートフォンにも搭載されている。RAWデータは一部のメーカーを除き、無圧縮か可逆圧縮であるためJPEGと比較すると非常に大きなファイルサイズになるが、各画素に1つの色情報しか持たない特性上、TIFF(各色8ビット)と比較するとその半分以下で済む。
RAW画像は専用に設計された現像ソフト(RAW現像ソフトウェア、英: RAW converter)によって自由に調整・出力が可能で、この処理をフィルムになぞらえて「現像」と呼ぶが、実質的にはデジタルデータの加工であり、本来の現像とは異なる。RAW画像のデータフォーマットは各メーカー・各機種によって違うため、現像にはそれぞれの対応ソフトウェアを用意する必要がある。通常はカメラメーカーが自社製の現像ソフトウェアを添付したり、カメラ本体で再処理する機能(カメラ内現像)を用意しているほか、いくつかのソフトウェア・メーカーからも数多くの機種に対応した現像ソフトウェアが発売・頒布されている。またオープンソースソフトウェアの中にもRAW画像に対応するものがある。現像ソフトウェアの採用するアルゴリズムによって現像された画像の画質傾向が大きく変化する。
上記の通り、A/D変換直後の信号情報を保存するのがRAW画像の原則であるから、撮影時のカメラの画質パラメータ(スタンダード、ビビッドといったスタイル、及びホワイトバランス)は数値上の影響をいっさい及ぼさない。
2005年にはRAWフォーマットの互換性向上を目的としてアドビシステムズ(現アドビ)がDigital Negative (DNG) フォーマットを提唱したが、カメラメーカー側の採用は進んでいない。 一方、マイクロソフトは「Windows Vista」以上のバージョン用に主要カメラメーカーのRAW現像アルゴリズムを組み込むための、カメラコーデックパックを別途インストールすることによりOS標準で利用できるようになる。[1] また、マイクロソフトは2006年にJPEGの代替を目的としたHD Photoフォーマットを発表(後にJPEG XRとして規格化)しており、このフォーマットが普及すればJPEG保存における問題点の数多くが解決されるため、RAWとJPEGの間に横たわる隙間を埋めるフォーマットとしても注目されている。
また、OpenRAWプロジェクトは、互換性のないRAWフォーマット画像の標準化のため、カメラメーカーに自社フォーマットの仕様を完全公開するように働きかけている。
利点
ほぼ全てのデジタルカメラは、写真を撮影する前に設定したホワイトバランス、彩度、コントラスト、シャープネスなどを用いてJPEGファイルに変換される。RAW画像を撮影できるカメラは、それらの設定をRAW画像に出力するが、実際の計算はパソコンで行われる。このため、RAW画像はカメラで行われる処理に追加して、さらに処理を行うために使われることを意図されている。しかしながら、RAW画像はJPEGに対して以下のような多くの利点がある。
- JPEGよりもより多くの階調を持つ - RAW画像は12または14ビット(4096–16384階調)の光の強度情報を各チャンネルごとに持つ。対してJPEGはガンマ補正 (非線型化) された8ビットである(256階調)。256階調だけではカラーバンディングが起こるため、それを誤魔化すためにディザリング処理が行われているものの、ディザリング処理されている画像は編集や解析がしにくくなる。
- 任意の色空間で出力ができる - 多くのカメラでは古いディスプレイ向けのsRGBと印刷向けのAdobe RGBしか選択できないが、映画ではDCI-P3が、UHDTVではRec.2020が使われている。
- 通常のJPEGよりも広いダイナミックレンジを持つ - カメラではダイナミックレンジが約15段のものも登場している[2]が、RAW画像では広いダイナミックレンジを保持することができる。一方JPEGは色空間によって制限が存在する。例えばsRGBの基準ではホワイトポイント輝度が80 nit (cd/m2)、ブラックポイント輝度が0.2 nit (cd/m2)となっており[3]、表示のダイナミックレンジは約8.6段となっている[note 1]。Adobe RGBの基準では前者が160 nit、後者が0.5557 nitとなっており[4]、表示のダイナミックレンジは約8.2段となっている[note 2]。トーンマッピング等により広いダイナミックレンジをJPEGへと詰め込むことも行われているが、元の明るさが再現できるとは限らず編集などで問題となる。JPEGを拡張してHDRに対応させた新規格のJPEG XT Part 2 (JPEG-HDR) やJPEG XT Part 7も登場しているが、普及しているとは言い難い。
- より高画質に出力できる - 現像時の全ての計算(ガンマ補正、デモザイク、ホワイトバランス、階調補正、コントラストなど)を元のデータから一度に行うため、色調補正(カラーコレクション)しても出力の画素値が正確になり、粗階調化を引き起こしづらくなる。
- カメラ内の不要な処理を迂回できる - シャープ化やノイズ除去などの画像処理を避けることができ、意図通りの出力を得ることができる。
- 高画質で保存できる - JPEGは多くの場合、色度情報が間引き (クロマサブサンプリング) され、非可逆圧縮で保存される。含まれる圧縮ノイズは画像編集や画像解析などで問題を引き起こす。RAW画像はほとんどの場合、データを損なわず保存される。
- 緻密な画像制御ができる - RAW現像ソフトウェアでは、カメラよりも多くのパラメーターを変更することができる。例えば、ホワイトバランスでは、カメラ内にプリセットされた「太陽光」や「曇天」だけではなく、どんな値にでも設定できる。また、カメラでは設定できないデモザイクアルゴリズムなどを選ぶことができる現像ソフトもある。
- 一枚の写真から複数の画像を出力できる - 現像時のパラメーターを変更して現像しても、元のRAW画像のデータは変化しないため、様々な変化をつけた画像を出力することができる。
欠点
- ファイルサイズが大きい - RAW画像のファイルサイズはJPEGの2ないし6倍程度である。このため、メモリーカードに保存できる枚数が減る。また、連写が遅くなったり、短くなったりするカメラもある。
- メーカーにより品質が低いものがある - ほとんどのRAW画像は画質を損なわないために非圧縮か可逆圧縮で保存されている。しかし、一部のものは、量子化の際に非可逆圧縮が行われていたり[5]、フィルタがかかっている[6]。例えば、ソニーのRAW画像は、14ビット出力と明記されているものであっても、実際には11ビット(2048階調)の階調数であり、ほとんどの画素は7ビット(128階調)の差分で保存されているため、現像時の設定によって大きな粗階調化を引き起こす[5]。
- 多くのファイルは標準化されていない形式である - 標準化されたRAW画像フォーマット(ISO 12234-2, TIFF/EPやDNG)はあまり使われておらず、ベンダー独自のRAW画像形式が使われている。ベンダー独自の形式でも処理可能な画像編集ソフトウェアは増えており、またLibRawなどのオープンソースのRAW画像処理ライブラリやOpenImageIOなどのLibRawをバックエンドとしてRAW画像読み込みに対応するライブラリも登場しているものの、新機種への対応に時間がかかったり、RAW画像を表示できないソフトが残っていたりなどがある。
![](https://weblio.hs.llnwd.net/e7/redirect?dictCode=WKPJA&url=https%3A%2F%2Fupload.wikimedia.org%2Fwikipedia%2Fcommons%2Fthumb%2Fe%2Fe4%2FRaw_vs_jpg.jpg%2F1000px-Raw_vs_jpg.jpg)
カラープロファイル
RAW画像は撮像素子の出力をそのまま記録しているため、RAW画像の色空間は、カメラの撮像素子の分光感度曲線やレンズ特性[7]、撮影時の光源のスペクトルによって異なるものとなっている。色空間を表したものとしてカラープロファイルが存在し、RAW画像用のカラープロファイルとして、以下の形式が使われている。
- DNGカラープロファイル (*.dcp) - アドビ製ソフトウェアで使われている形式[8]。複数の標準光源 (A光源(2850Kタングステン電球)、D50常用光源、D65常用光源など) で調べた色空間データを含むことができる。多くの機種のDCPプロファイルがAdobe DNG Converterと共に無料頒布されている。アドビ以外のソフトウェアでは、オープンソースのRawTherapeeがDCPプロファイルに対応している[9]。
- ICCプロファイル (*.icc, *.icm) - カラープロファイルの標準形式。v2とv4が存在する。様々な機種のICCプロファイルがAdobe DNG Converterと共に無料頒布されている。
dcpからiccへの変換には、コマンドラインツールのdcp2iccが存在する。dcp2iccは、./dcp2icc <ファイル>.dcp <標準光源の色温度> と指定することで、DCPの中の一つのカラープロファイルからICCプロファイルを生成する。
カラープロファイルの作成には、実世界のスペクトル反射特性を反映したカラーチャート (X-RiteのColorChecker[10][11]など)とプロファイル作成ソフトウェア(アドビのDNG Profile Editor、X-RiteのColorChecker Camera Calibration、DatacolorのSpyderCheckr、オープンソースのCoCaなど)が使われている。これらのソフトウェアを使うことでカラーチャートを撮影した画像からカラープロファイルを作成することができる。
またカラーチャートよりも正確なカメラのスペクトラル感度曲線を使ったシステムも登場している:
- ^ http://www.microsoft.com/ja-jp/download/details.aspx?id=26829
- ^ ソニー、α9・α7R IIIの最新仕様を取り入れたベーシックモデル「α7 III」 Impress 2018年2月27日
- ^ sRGB インターナショナル・カラー・コンソーシアム
- ^ Adobe RGB (1998) インターナショナル・カラー・コンソーシアム
- ^ a b RawDigger: detecting posterization in SONY cRAW/ARW2 files | RawDigger
- ^ Is the Nikon D70 NEF (RAW) format truly lossless?
- ^ カメラのキャリブレーションおよび DNG プロファイル X-Rite 2009年12月1日
- ^ Adobe Camera Raw Colour Management Graphic Quality Consultancy
- ^ RawTherapee 4.0.11 Photo Review 2013年6月
- ^ Ian Lyons. “Review of Pictographics InCamera Page 1”. Computer Darkroom. 2015年11月21日閲覧。
- ^ ColorChecker クラシックに関する情報 X-Rite 2009年11月16日
- ^ PhysLight innovation at Weta Digital fxguide 2018年2月18日
- ^ a b c RawTherapee 4.0.10 User Manual P.8 「Raw Pre-Demosaicing Features」 Emil Martinec et al.
- ^ Photo Ninja Showcase: Chromatic aberration correction PictureCode LLC
- ^ a b 『Digital-Forensics and Watermarking: 14th International Workshop, IWDW 2015, Tokyo, Japan, October 7-10, 2015, Revised Selected Papers』内「Image Noise and Digital Image Forensics」 Thibaut Julliand et al. 2016年 ISBN 978-3319319599
- ^ FBDD NOISE REDUCTION Jacek Góźdź
- ^ Unprocessing Images for Learned Raw Denoising Tim Brooks et al. 2018年
- ^ HDRMerge Javier Celaya
- ^ Bayer moire LibRaw LLC 2010年12月1日
- ^ Adobe adds AI-powered ‘zoom and enhance’ feature to Lightroom CC The Verge 2019年2月12日
- ^ Deep Residual Network for Joint Demosaicing and Super-Resolution 2018年
- ^ 小林理弘「画像・映像理解のためのノイズ特性推定とその応用」東京大学 博士論文 (情報理工学)、 甲第26451号、2010年、NAID 500000550352。
- ^ 3.4.4.3. Denoise – profiled darktable
- ^ Highlight Recovery in Camera RAW Adobe Systems
- ^ RawTherapee 4.0.10 User Manual P.34 「Highlight Reconstruction」 Emil Martinec et al.
- ^ a b 『Color Gamut Mapping』 P.85-86 Ján Morovič 2008年7月28日 ISBN 978-0470030325
- ^ a b 『Colour Engineering: Achieving Device Independent Colour』 P.249-250 Phil Green、Lindsay MacDonald 2002年11月1日 ISBN 978-0471486886
- ^ High Dynamic Range Working Group meeting - Online meeting - June 20 2020 p.28 International Color Consortium 2020年6月20日
- ^ a b Chromatic Adaptation Transform by Spectral Reconstruction Scott A. Burns 2019年2月28日
- ^ Exposure Fusion: What is it? How does it Compare to HDR? How Do I Do It? Digital Photography School 2009年3月
- ^ compressing dynamic range with exposure fusion darktable team 2016年8月
- ^ a b Comparison Chart HDRsoft
- ^ HDR 写真の結合 Adobe Systems
- ^ a b 「Lightroom Mobile」がRAW HDR撮影機能に対応 iOS/Android版ともに提供開始 ITmedia 2017年3月7日
- ^ Ghost-free High Dynamic Range Imaging with Context-aware Transformer Zhen Liu et al. 2022年8月10日
- ^ Apple and iOS 11 could revolutionize smartphone photography with a next-generation image file format PhoneArena 2017年9月19日
- ^ a b 『The HDRI Handbook 2.0: High Dynamic Range Imaging for Photographers and CG Artists』 P.73 Christian Bloch 2013年1月14日 ISBN 978-1937538163
- ^ a b Windows 10でデジカメのRAW画像を閲覧・編集する方法 ASCII 2016年2月8日
- ^ Phase One Japan株式会社が発足。マミヤ光学事業を継承 Impress Corporation 2015年12月3日
- ^ デジタル一眼レフカメラ/K200D RICOH IMAGING COMPANY
- ^ Skylum Acquires Photolemur, Opens Up AI Lab Emerald Expositions 2018年5月23日
- ^ RAW撮影と編集が可能に、アドビのAndroid向け「Lightroom」最新版 Impress 2016年2月23日
- ^ a b AppleがiPhotoとApertureの開発を中止!その超前向きな理由とは ASCII 2014年6月28日
- ^ Google will shut down Picasa this spring The Verge 2016年2月12日
- ^ camera support darktable Team
- ^ iOS 11 および macOS High Sierra でサポートされているデジタルカメラの RAW 形式 Apple
- ^ 無制限でRAWも保存できるオンラインストレージ デジカメWatch 2016年1月26日
- ^ 株式会社インプレス (2022年8月1日). “クラウドストレージ「Amazon Drive」が2023年12月31日にシャットダウン/「Amazon Photos」に注力”. 窓の杜. 2024年3月13日閲覧。
- ^ “Amazon Photos”. www.amazon.co.jp. 2024年3月13日閲覧。
- ^ (log2(80)+3)-(log2(0.2)+3)=8.643856… (en:Exposure value#EV as a measure of luminance and illuminanceの式を使用)
- ^ (log2(160)+3)-(log2(0.5557)+3)=8.1695… (en:Exposure value#EV as a measure of luminance and illuminanceの式を使用)
- ^ フェーズワン社のデジタルバックはJPEG撮影・現像機能を持っていないため、JPEG画像にするには必ず当ソフトで現像しなければならない。
- ^ Windows 7及びVistaではMicrosoftカメラコーデックパックが、Windows XPではMicrosoft RAW Image Thumbnailer and Viewer for Windows XPが必要となっていた。
固有名詞の分類
- RAW画像のページへのリンク