高尿酸血症 疫学

高尿酸血症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/08 19:53 UTC 版)

疫学

日本の成人男性における高尿酸血症の頻度は30歳以上では30%に達していると推定されている。高尿酸血症は増加傾向である。特に痛風に関しては、有病率は男性においては30歳以降で1%超えると推定され、増加傾向である。

リスク

高尿酸血症は痛風関節炎・痛風結節、腎障害、尿路結石、メタボリックシンドローム関連、高血圧・心血管系疾患、悪性腫瘍、総死亡との関連が指摘されている。

痛風関節炎・痛風結節

高尿酸血症が持続して尿酸塩結晶が沈着した結果として起こる病態である。血清尿酸値が7.0 mg/dlを超えると、高くなるに従って痛風関節炎の発症リスクがより高まる。高尿酸血症の期間が長く、また高度であるほど痛風結節はできやすいといわれている。アルコール摂取量は痛風発症のリスクを用量依存的に上昇させる。肉類・砂糖入りソフトドリンク・果糖の摂取量が多い集団、BMIの高い集団は痛風になりやすい。逆にコーヒーの摂取量が多い、ランニング距離が長い、適度な運動を日常的に行う集団は痛風になりにくいと言われている。

腎障害

血清尿酸値は一般集団および慢性腎臓病(CKD)の両者において、高尿酸血症と腎障害は密接な関連を有している。血清尿酸値は慢性腎臓病の発症や進展と関係し、一般集団において高尿酸血症は腎不全の危険因子である。またIgA腎症においても高尿酸血症は腎機能予後に関する危険因子となる。また慢性腎臓病と痛風を併せ持つ症例には体内鉛蓄積が関与している可能性がある。

尿路結石

尿路結石を誘発しやすい要因として尿量低下あるいは水分摂取不足、尿中尿酸排泄量の増加、酸性尿の存在があげられる。かつては尿酸結石は痛風や高尿酸血症の程度との関係が有力視されていたが、その後尿中尿酸排泄量がより重要と考えられるようになった。そのため高尿酸血症を有していても必ずしも尿路結石の頻度は増加しない。高尿酸尿症を有すると尿路結石の頻度が増加する傾向がある。高尿酸尿症ではシュウ酸カルシウムの溶解度を低下させシュウ酸カルシウム結石(もっとも頻度の高い尿路結石)を起こす原因になるという意見もある。持続する酸性尿は尿路結石の大きな尿路結石の最も大きな危険因子である。健常者においては尿pHは1日に数回の上昇と下降を繰り返しており、なかでも食事摂取に伴う胃液分泌の影響が大きい。食後は胃酸分泌により反応性に血中重炭酸イオンが増加し尿pHが上昇するが痛風や尿酸結石を有する患者では尿pHの日内変動が欠落している。また尿酸排泄促進薬はプリン体過剰摂取や酸性尿により、尿酸結石の形成を促進させる。

メタボリックシンドローム

血清尿酸値の上昇に伴ってメタボリックシンドロームの頻度は増加する。痛風患者はメタボリックシンドロームの各構成要素を高頻度に有し、メタボリックシンドロームに該当する場合が多い。高尿酸血症はメタボリックシンドロームの診断基準に含まれていないが、メタボリックシンドロームの周辺症状であることが示唆されている。

高血圧・心血管系疾患

血清尿酸値は将来における高血圧症の独立した予測因子ととらえることができる、血清尿酸値は独立した心血管系の危険因子と相関するか否かは相反する報告がされている。

悪性腫瘍

血清尿酸値と悪性腫瘍による死亡との間に関連を認めたという疫学調査もある。しかし血清尿酸値のコントロールによって、悪性腫瘍の相対危険度が低下するかどうかについては不明である。

総死亡

血清尿酸値は総死亡のリスクと関連する可能性がある。しかし血清尿酸値のコントロールによって、総死亡の相対危険度が低下するかどうかは不明である。

診断

高尿酸血症の診断と病型分類

高尿酸血症の定義どおり、血清尿酸値が7.0 mg/dlを超えた場合は高尿酸血症と診断される。2010年現在ほとんどの日本の医療機関では自動分析装置によるウリカーゼ・ペルオキシダーゼ法が用いられている。測定値の変動は血清成分の影響も考慮して9.0%、施設間差は2.7%〜6.8%であり信頼できる測定法といえる。高尿酸血症の判定について、採血時期は空腹時でなくてもよいが、恒常的な高尿酸血症の判定には複数回の測定が必要である。

高尿酸血症には「尿酸産出過剰型」、「尿酸排出低下型」、「混合型」に大別される。病型分類には尿酸クリアランス、クレアチニンクリアランスの測定が必要である。尿中尿酸排泄量と尿酸クリアランスの値によって分類される。治療中に病型が変化することがあり注意が必要である。

痛風の診断

痛風関節炎とは関節内に析出した尿酸塩結晶が起こす関節炎である。急性痛風関節炎は痛風発作ともいい、第一中足趾節(MTP)関節、足関節などに好発する関節炎である。診断は米国リウマチ学会などの診断基準に述べられている特徴的な症状、高尿酸血症の既往、関節液中の尿酸塩結晶の同定が重要である。痛風発作中には必ずしも血清尿酸値は高値を示さないこと、関節液の尿酸塩結晶の同定が重要であること、痛風結節は尿酸塩結晶と肉芽組織からなり診断に有用であるが頻度が低い点などが注意点である。

二次性高尿酸血症・痛風の診断

高尿酸血症の診断では必ず二次性の高尿酸血症・痛風の可能性に検討する。基礎疾患、薬物投与など明らかな原因が見いだされるのは全体の約5%である。診断に際しては詳細な問診、服薬歴、身体所見、検査所見などにより基礎疾患の存在や薬物の服用に気がつくことが重要である。二次性高尿酸血症においても原発性とどうように尿酸産出過剰型、尿酸産出低下型、混合型に大別される。

尿酸産出過剰型二次性高尿酸血症

急性尿酸性腎症および腫瘍崩壊症候群は治癒を目指す緊急疾患として重要である。尿酸産出過剰型二次性高尿酸血症としてはレッシュ・ナイハン症候群ホスホリボシルピロリン酸合成酵素症候群、先天性筋原性高尿酸症候群など遺伝性代謝性疾患のほか悪性腫瘍、甲状腺機能低下症、高プリン食、薬剤性が知られている。薬剤性の内訳は抗がん剤ミゾリビンテオフィリンフルクトースキシリトールなどが知られている。

尿酸排泄低下型二次性高尿酸血症

慢性腎疾患、多発性嚢胞腎鉛中毒、鉛腎症、ダウン症候群、家族性若年性痛風腎症などの腎疾患、高乳酸血症、脱水など代謝障害、薬剤性が知られている。薬剤性の内訳は利尿薬、少量のサリチル酸、抗結核薬(ピラジナミド、エタンブトール)や免疫抑制薬シクロスポリンタクロリムス)が知られている。

混合型二次性高尿酸血症

混合型二次性高尿酸血症の原因には1型糖尿病、肥満、妊娠高血圧症候群、飲酒、運動負荷、広範な外傷や熱傷、ニコチン酸またはニコチン酸アミドがあげられる。


注釈

  1. ^ 下流をせき止められた川の状態である。

出典

  1. ^ a b 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第2版
  2. ^ 高橋隆一 高カロリー輸液施行中に認められるアシドーシス
  3. ^ Friedman TB, Polanco GE, Appold JC, Mayle JE (1985). “On the loss of uricolytic activity during primate evolution--I. Silencing of urate oxidase in a hominoid ancestor”. Comp. Biochem. Physiol., B 81 (3): 653?9. PMID 3928241. 
  4. ^ Ames BN, Cathcart R, Schwiers E, Hochstein P (November 1981). “Uric acid provides an antioxidant defense in humans against oxidant- and radical-caused aging and cancer: a hypothesis”. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 78 (11): 6858–62. PMC 349151. PMID 6947260. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC349151/. 
  5. ^ 桑原政成, 丹羽公一郎, 西裕太郎 ほか、「健康診断受診者の血清尿酸値と尿中pHが腎機能に及ぼす検討」『痛風と核酸代謝』 2012年 36巻 1号 p.73-, doi:10.6032/gnam.36.73, 日本痛風・核酸代謝学会


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