精油 薬理効果・臨床研究

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精油

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/10 04:53 UTC 版)

薬理効果・臨床研究

精油が医療に使われるようになったのは、精油には、材料の植物が持つのと同じ生物活性(薬効)が凝縮されているのではないか、という推論による。そのためアロマセラピーでは、現在でも昔の植物療法の薬効が引用されることが多いが、この推論は間違っていることがわかっている[2]。例えばオレンジ油は外皮から抽出される脂溶性成分からなり、果皮や果肉に含まれる水溶性のビタミンB類やビタミンCカルシウムタンパク質などは含まれない。つまり、材料植物に見られる薬効のすべてが精油にあるわけではない。近年の研究で、植物の各成分には異なる薬理作用があることがわかってきた[2]

近年の研究と比べると、過去の臨床研究には、デザインや結果に欠陥が見受けられる。科学者による信頼に足る臨床研究も徐々に増え、精油の効果に肯定的な研究結果も報告されている。

イギリス薬局方には、シナモン(下痢止め、駆風薬(胃腸内のガス止め))、クローブバッド、クローブリーフ(歯痛用局部麻酔薬、関節炎、副鼻腔炎)、カモミール・ジャーマン(抗炎症剤)、ペパーミント(消化不良、気管支炎、過敏性腸症候群)などが掲載されている。また慣習的・伝統的に、抗炎症剤や消毒薬、去痰薬や駆風薬として利用されるものもある。

安全性

精油は食品、化粧品、香水などで希釈物質と共に広く利用され、数多くの問題が起こっているが、特に感作作用(ある抗原に対し生体をアレルギー反応をおこしうる状態にする作用)が問題視されている。精油のマイクロカプセル化、パウダー化など科学技術の発達で、顧客の要望に合わせてデザインされた精油が数多く作られ、様々なものに添加されるようになった。吸収しやすい状態に加工された多様な精油に頻繁に接触することで、毒性のリスクが上昇したのである。精油の安全性は、現在全体的に見直し・再調査がされており、精油を使った製品や売買、使用の規制が強化されつつある。現在ヨーロッパでは、2002年欧州指令により、精油は使用条件と警告をラベルに記載するよう義務付けられている。欧州連合(EU)では、欧州における新しい化学品規制REACH(REACH規則:Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals)が、2008年から運用されており、精油を含む香料も対象となっている[49][50][51]。ラベンダーなどの一部の精油が、アレルギーを引き起こす可能性があるなどの理由で規制対象となっており、将来的に「内服または吸入した場合、死亡する可能性がある。」という警告ラベルが義務付けられる可能性がある[52]

全ての精油は高濃度で使用すると毒性があり、特に内服は危険である。(現在内服は、フランスのごく一部の病院、または科学的研究に興味のない一部のセラピストが行なっている。)強い毒性のある精油は低濃度でも危険であるが、アロマテラピーでは使用されない。無毒とされる精油を用いても、人によっては毒性が発現するが、これは免疫感作の影響であると思われる。極めて微量の精油でも、継続的に使用することで毒性が発現する可能性がある。ある調査では、アロマセラピストの23%が手に皮膚炎を起こしていた。また、通常の療法と代替療法を併用すると逆の効果が現れるという報告が増加しており、医師とアロマセラピストが連携していない場合、深刻な問題が起こりかねない[2]

アロマテラピーの書籍には、科学的に有効性が証明されていない、矛盾だらけの薬効が数多く記載されている。植物の学名が述べられていないものも多く、どのように作用するかの説明もない場合がほとんどである。素人目に科学的に見えても、実際には不十分極まりない情報も多く、それがエビデンスとして利用される例もある。アメリカでは1997年に精油の無根拠な効能を謳ったLafabre and Aromaが訴えられており[2]、2014年にはヤングリヴィングドテラが、医薬品として認可されていない自社精油の無根拠な薬効を喧伝したとして、アメリカ食品医薬品局(FDA)から警告を受けている[53][54][55]。アロマテラピーの書籍には、乳幼児にカモミール油を1日3回、5~10滴内服させるような危険な療法を勧めるものすら存在するが、実際にこれが行われた場合、死亡事故が起こる可能性がある。多くの書籍があるにもかかわらず、有害作用が記載されているものは少ない。

多くのアロマセラピストは科学的研究に興味がなく、学術的研究を完全否定するセラピストも存在する[2]。アロマテラピーはニューエイジと関係が深いためか、むしろ独自の宇宙論や占星術、宝石、色彩、音楽療法などを重視し、リフレクソロジー指圧レイキ(手かざし)、ヨガなどの民間資格を持ち治療に併用する場合も多い[2]。何らかの疾患治療中のクライアントを施術する際に担当医と連携をとらなかったり、科学知識の不足からアレルギー反応による炎症を「好転反応」と間違って説明するなどの問題もある。アメリカ食品医薬品局(FDA)などから承認を受けていることを根拠に、精油の内服や原液塗布を推奨するセラピストも存在するが、無論これらの承認は、どんな濃度であっても内服・塗布に害がないということを意味するわけではない。また、新種や野生種からとられた精油、未知のケモタイプの精油など、安全性が確認されていないものも治療に使われる例があるが、これはクライアントを実験動物として扱うに等しく、問題となっている。

また、ペットの治療に精油が使われることがあるが、などの肉食動物は精油を代謝することができないため、中毒の危険が非常に高い。雑食の犬でも中毒事故の報告が見られる[56]


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