競走車 特徴

競走車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/27 07:12 UTC 版)

特徴

フレームはダイヤモンドフレームの一種であるが、一般向けのオートバイのフレームと異なり、ボルト接合の部分が多く、分解整備が行いやすい。なお競走車のフレームは専門メーカーにより製作されている。用途が特殊過ぎて転用できないため市販車はない。

オーバルコースを反時計周りに周回し、車体を左へ40度から50度[2]傾けた状態で走行する時間が長いことから、ハンドルは左側が高い左右非対称になっているが、これは競走車を傾けた時点でハンドルが水平になるようにするためである。フロントサスペンションは選手がスプリングフォークまたはオイルフォークのどちらかを選択して装備する。スプリングフォークはダンパーの併用も可能な規則になっている。リアサスペンションはリジットである。走行中に車体へ右膝を押し当てて安定を保つため、ガソリンタンクの下に膝当てが装着されている。

タイヤは2004年4月以降は、住友ゴム工業ダンロップブランドのバイアスタイヤKR-73S を統一使用する[3]。これはかつてのレース向けタイヤであり、オートレースでも1973年9月より統一タイヤとして使われていた KR73[3] をベースに、完全なオートレース専用仕様にしたもの[4]で、市販のタイヤと異なり外周部のゴムを増やしたためトレッド中央部が厚く、断面が三角形で2つの頂点がリムに嵌り辺が接地する極端な形状となっていて、車体を傾斜させたときに接地面積が広くなるように作られており、オーバルコースをより効率よく走行することができる。タイヤは左右対称かつ前後輪共用で、ある程度の使い回しにも対応している。かつては寒冷期用として、トレッドパターンは同じであるがコンパウンドが低い気温に対応した KR-73W を前輪に使用していたが、2015年2月に新型のタイヤが導入されたことに伴い使用を終了している[5]。実際に選手が走行する際には、特に晴天時用のタイヤについて接地面をサンダーで削ることで、溝を浅くした上で走路を走らせ調整を行う[6]

ブレーキは装備していない。これは最高速度150キロメートル毎時(以降km/h)で車体同士が接近するオートレースにおいて、過度の減速は大事故に繋がりかねないためである[7]。代わりに、スロットルグリップを一杯に戻すとキャブレタースロットルバルブが全閉となり、通常のオートバイに比べずっと強力なエンジンブレーキが掛かることで減速を行う。また左足に鉄製の「スリッパ」を装着し、これを走路に擦り付けることでの減速も行う。

ギアは細かいギアチェンジをレース中に行う余裕がない[注釈 1]ことと軽量化のため、スタートから直線数十メートルまでのローと、最初のコーナーからゴールまで用いるワイドレンジのトップによる2速のみしか存在しない。セルモーターも軽量化のため搭載されず、エンジン始動時には他の選手等の助けを借りて押しがけを行う[8]

一台の価格は、エンジンアッセンブリー部分が約120万円[9]、その他フレーム・タイヤ等も含めた完成車になると約200万円程度。一般への販売がそもそも行われていない上に、選手であっても新品の機材を購入できる時期が限られており(例えばエンジンは概ね2年に一度しか販売されない)、選手以外が車両を入手することは難しい[注釈 2]が、競技で使われなくなった中古車が市場に出回ることは時折ある。

エンジン

エンジン内部の整備は、整備違反(無許可の整備および不正改造)を防ぐために検査員とともに行う[10]

現在オートレースで使用されているエンジンは、「セア」(“Super Engine for Auto-Race”の略)と呼ばれるスズキ製のAR600またはAR500に限定されている。1993年10月1日のセア一斉乗り替え以前には、英国製のトライアンフエッチ・ケー・エス製のフジ目黒製作所メグロ、極東内燃機のキョクトー、村越製作所のトーヨーなどが使用されていた。マフラーについては、以前は消音器なしのものが使われていたが、近隣への騒音問題への配慮等から2009年より消音器内蔵のものに切り替えられたほか、2015年からはナイター・ミッドナイト開催にて巨大な消音器を持つ専用マフラーが使われている(詳細はセア#消音機導入を参照)。

原則として選手はオートレース選手養成所での訓練過程、並びにデビュー後約1年半の間はAR500(2級車)を使用し、その後AR600(1級車)に乗り替わる[11]。通常1級車を使用できるようになった選手が2級車で競走に挑むことはないが、たまに普通開催で「2級車チャレンジ」などと題し、トップ選手があえて2級車を使って競走に参加する企画レースが組まれることがある[12]

2021年に発生したレース中の選手の死亡事故を受け、エンジン出力制限とコーナリングスピード低下の目的で吸気リストリクターの導入が検討されており、2022年よりテストが行われている。また環境保護の観点から、排出ガス低減のための開発なども進められている[13]

部品

競走車の整備の際は、多くの場合壊れたり劣化したりした部品の交換作業が発生するが、競走車の不正改造防止の観点から、交換用の部品は各オートレース場にある部品庫にあるもののみ使用可能で、外部からの部品持ち込みは認められていない。部品庫の運営は原則としてオートレース選手会が行う。

交換用部品については、最低生産ロット数等との兼ね合いからオートレース振興協会が特定のメーカーに一括発注し備蓄しており、協会は選手会からの発注に応じて各オートレース場の部品庫に納品する仕組みとなっている。また選手による整備が困難な一部の部品(オイルフォーク等)については、協会を通じて専門業者に整備を委託している[14]


  1. ^ 小型自動車競走法第9条
  2. ^ JKA・競走車(2輪車)構造基準 - 1 車体関係
  3. ^ a b オートレースニュータイヤデビュー - オートレース公式サイト
  4. ^ バイクブロス・月刊ROAD RIDER2009年7月号 JKA AUTO RACER
  5. ^ タイヤ性能の向上と均一化を図った新しいタイヤを導入します - オートレース公式サイト
  6. ^ タイヤ - オートレースモバイル
  7. ^ 川口オート・競走車の特徴と性能
  8. ^ エンジン始動・停止 - オートレースモバイル・2018年7月20日
  9. ^ エンジン - オートレースモバイル
  10. ^ JKA・競走車の検査の要領 (PDF) - 第5章 競走車の整備及び修理
  11. ^ エンジン - オートレースモバイル
  12. ^ 浜松オート 3/11~13 鈴木圭一郎2級車チャレンジ開催 - オートレース公式サイト・2019年2月15日
  13. ^ 2021年度事業報告書 - オートレース振興協会
  14. ^ 平成20年度事業計画書 - オートレース振興協会
  15. ^ 『オートレース二十年史』p.357。
  16. ^ 『オートレース二十年史』pp.357-360。
  17. ^ a b オートレースがEV化、日本初のワンメイクレース開催へ - レスポンス・2014年6月20日配信
  18. ^ オートレース振興協会平成25年事業計画書 (PDF) [リンク切れ]
  19. ^ オートレース用電動競走車設計仕様書 (PDF) − JKA・オートレース振興協会
  20. ^ オートレース振興協会平成26年度事業報告書 (PDF)
  21. ^ オートレース田中選抜 (飯塚) 特別番組告知!! - Auto Race(オートレースネットスタジアムで視聴可能)





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