発泡プラスチック 課題

発泡プラスチック

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/23 21:50 UTC 版)

課題

フロンガス問題

ビーズ発泡PSフォームを除き、気泡形成を行なうには、かつてフロンガスが大量に使われ、特に特定フロンと呼ばれるオゾン層破壊に強い影響を与えるCFC-11CFC-12、CFC-113が利用されていた。1989年の推計では発泡用に使われる特定フロンの22%、CFC-11に限れば72%が発泡用で消費された[35]。これらはフロン使用禁止法令の施行に伴い代替フロンや発泡剤ガスおよび炭化水素類に切り替わっている。最終的には一部実用化しているイナートガス(不活性ガス)への変更が望まれている。

その一方で、かつて建築用断熱材の現場施工で用いられた材料には気泡内にフロンガスが残留し、時を経て大気中に放散されている問題もある。日本政府は解体工事において、現場吹き付けの硬質PURフォームはフロンを含むものという前提を置き、またブロック発泡PSフォームについても製造会社や製品名を事前調査し、適切な回収処理に当たるよう指針を出している[36][37]。回収後、フロンごと、または分離処理されてから破壊処理が行われる[36]

再利用問題

合成樹脂はごみではなく石油化学資源として再利用しなければならない[38]。1992年11月には日本・アメリカ・ドイツ・オーストラリアの4カ国がPSフォームのリサイクルについて情報交換を密にして積極推進することで合意するなど、国際的な枠組みでも取り組みが行われている。一般に見られる白いPSフォーム(発泡スチロール)は着色料や加工助剤などが使われていないため、再利用には適した材料である。

PSフォームは、家電用は販売店を、魚箱用は公共卸売市場を通したリサイクルシステムが構築され、PSPではスーパーマーケットや消費者団体または自治体が主体となった回収が浸透している。運送効率を向上させるスクラップの減容も、加熱し半溶融状態にするなどの方法が取られ、1/20 - 1/50への体積圧縮が施される。PSフォームのマテリアルリサイクルとサーマルリサイクル合計の再生利用率は80 %を超える[39]

その一方で水に浮くという性質から目立つ漂流・漂着ごみとなり[40]、さらに自然分解されず生態系への影響が懸念されるとして、海洋汚染問題の原因ともなっている[41]

火災問題

1995年栃木県で起こった多目的ホール建設工事の火災[42]、2003年のロードアイランド州ナイトクラブ火災[43]、2009年の中央電視台電視文化センター火災[44]と、当断熱材料の燃焼による火災となった例が多く報告されている。労働省は工事計画や施工において火災発生を防止する対策を関係団体に要請するなど対応を取っている[42]が、難燃加工が施されていないものを使用したり、ファイヤーストップ機能を備えない設計がなされた既存建築物なども多く、潜在的な問題が残されている[45]。また、日本工業規格SA1321難燃性3級準拠のものでも特定の条件下では燃焼する可能性があり、火気管理の徹底が求められている[42]


注釈

  1. ^ この他にも、引き伸ばされた壁面では界面活性剤の濃度低下が起き、これを戻そうとする作用も影響すると章を執筆した岩崎和男は考察している。Marangoni効果(表面弾性効果)と呼ばれるこの作用の実証されていないが、岩崎は現実的に矛盾しないとして当てはめることは妥当としている[5]
  2. ^ 厳密には「ウレタン変性ポリイソシアヌレートフォーム」と呼ぶべきである[18]

出典

  1. ^ 発泡プラスチック”. 科学技術総合リンクセンター. 2010年1月15日閲覧。
  2. ^ a b c 本山卓彦『おもしろいプラスチックのはなし』(初版9刷)日刊工業新聞社、1995年10月20日、130-131頁。ISBN 4-526-02381-7 
  3. ^ 樹脂成形体の製造方法/志熊治雄」、j-platpat、2022年3月10日閲覧 
  4. ^ 足立廣正「マイクロセルポリウレタンフォームにおける動的圧縮弾性率による耐熱性の評価」『高分子論文集』第63巻第6号、社団法人 高分子学会、2006年、440-443頁、doi:10.1295/koron.63.4402010年1月15日閲覧 
  5. ^ 『各種高分子の発泡成形技術』p41
  6. ^ 1-6-1 食品の保護性を追及した包装容器/低音保持性・熱遮断性包装容器/発泡包装フィルム・シート” (PDF). 経済産業省特許庁. 2010年1月15日閲覧。
  7. ^ プラスチックの知恵袋”. 昭栄化工. 2010年1月15日閲覧。
  8. ^ ASTM D2856:Standard Test Method for Open Cell Content of Rigid Cellular Plastics by the Air Pycnometer
  9. ^ 角倉敏彦、黒江秀男、青木信明. “応用物理第33巻 第9号 寄書:軟質ポリウレタンフォームセルのセル構造と機械的性質”. 2010年1月15日閲覧。
  10. ^ 牧広、小坂田篤『プラスチックフォームハンドブック』日刊工業新聞社、1973年、29-65頁。 
  11. ^ a b c 軟質ウレタンフォームとは”. 日本ウレタン工業協会. 2010年1月15日閲覧。
  12. ^ 軟質ウレタンフォームにはフロンが使用されていますか?”. 日本ウレタン工業協会. 2010年1月15日閲覧。
  13. ^ ㈱山城精機製作所 超高速加硫ゴム射出成形機「SANPICS」 : 滞留防止構造と射出発熱均一化機構により,超高速加硫を実現, Polyfile, 国立国会図書館書誌ID:024955624 
  14. ^ a b 工場では軟質ウレタンフォームはどのような方法で製造するのですか?”. 日本ウレタン工業協会. 2010年1月15日閲覧。
  15. ^ (WO/2009/098966)低反発軟質ポリウレタンフォーム”. World Intellectual Property Organization. 2010年1月15日閲覧。
  16. ^ 軟質ポリウレタンフォームシーリング材の製造方法”. j-platpat. 2022年3月10日閲覧。
  17. ^ 硬質ウレタンフォームの特徴”. 日本ウレタン工業協会. 2010年1月15日閲覧。
  18. ^ 『各種高分子の発泡成形技術』p119
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  20. ^ ウレタン用発泡剤HCFC-141bの規制とフォーム業界対応”. CMC Research. 2010年1月15日閲覧。
  21. ^ 発泡剤用HCFC141bの全廃について”. 日本ウレタン工業協会. 2010年1月15日閲覧。
  22. ^ a b c ポリスチレンのリサイクル”. 日本スチレン協会. 2010年1月15日閲覧。
  23. ^ 安全性と環境問題 地球温暖化抑制に「ノンフロン」”. 日本スチレン協会. 2010年1月15日閲覧。
  24. ^ a b c 古本宏二『プラスチック技術全書 8 ポリスチレン樹脂』工業調査会、1970年、133-134頁。 
  25. ^ US Pat. No. 3,067,147
  26. ^ Brit. Pat. No.899,389
  27. ^ 特公昭40-8840
  28. ^ 特公昭43-22674
  29. ^ Brit. Pat. No.1,126,857
  30. ^ 三石幸夫監修、PETフィルム、技術情報協会、1990年
  31. ^ 宇野敬一、接着31巻12号、1987年、10
  32. ^ 岩崎ら『発泡プラスチック技術総覧』p195
  33. ^ a b 高性能フェノールフォーム”. フェノールフォーム協会. 2010年1月15日閲覧。
  34. ^ ブラウンズフェリー1号機の火災と米国の火災防護の取り組み - 原子力規制委員会(平成24年11月21日/2017年5月11日閲覧)
  35. ^ オゾン層破壊物質使用削減マニュアル
  36. ^ a b 建材用断熱フロンの処理技術” (PDF). 環境省地球環境局. 2010年1月15日閲覧。
  37. ^ 建材用断熱材フロンに関するホームページ”. 東京都環境局. 2010年1月15日閲覧。
  38. ^ 岩崎ら『各種高分子の発泡成形技術』p19
  39. ^ マテリアルとサーマル(熱回収)を合わせて83.5%がリサイクル”. JEPSRA発泡スチロール再資源化協会. 2010年1月15日閲覧。
  40. ^ 2004年度 海辺の漂着物調査 報告書”. 日本財団. 2010年1月15日閲覧。
  41. ^ 海の漂着物調査 プラスチックの対策が重要”. 日本財団. 2010年1月15日閲覧。
  42. ^ a b c 発泡プラスチック系断熱材による火災災害”. 労務安全情報センター. 2010年1月15日閲覧。
  43. ^ 4年前の火災事件にやっと和解成立”. ANAP. 2010年1月15日閲覧。
  44. ^ 相次ぐ発泡プラスチック系断熱材の火災”. 日経BP. 2010年1月15日閲覧。
  45. ^ TVCCの火災に思うこと”. 改正総一郎/東邦レオ・NPO法人外断熱推進会議関西支部理事、副支部長. 2010年1月15日閲覧。






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