氷河急行 氷河急行の概要

氷河急行

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/07 17:21 UTC 版)

オリエント・エクスプレスにならい氷河急行と訳されることもあるが、スイスでは特別列車/車両という意味合いで「エクスプレス」という商品名を使用しているため、日本でこの商品が紹介される時に、現地の鉄道会社が<氷河特急>という日本語名でロゴを作成したことを受け、スイス政府観光局や主な旅行会社では<氷河特急>と表記している。

概要

ブリーク駅に停車中の氷河急行。
アンデルマット駅に停車中の氷河急行・機関車には旧フルカ・オーバーアルプ鉄道のロゴがある。
ツェルマット付近を走行中の氷河急行。
ラントヴァッサー橋を走行中の氷河急行。

氷河急行(氷河特急、グレッシャー・エクスプレス)は、ヴァレー州ツェルマットと、グラウビュンデン州エンガディン地方サン・モリッツという、スイスを代表する山岳リゾートを結ぶ291キロメートルの区間を約8時間かけて[1] 結ぶ特別列車である。最高地点2033mのオーバーアルプ峠を越え、7つの谷、291の橋、91のトンネルを抜けて走る[2]。平均時速は約34 kmになるため、「世界一遅い急行(特急)」とも呼ばれる[3]

ツェルマットからディセンティスまでを結ぶマッターホルン・ゴッタルド鉄道と、ディセンティスとサン・モリッツを結ぶレーティッシュ鉄道の通常便を乗換えながら同じルートを通ることは可能だが、氷河急行(氷河特急、グレッシャー・エクスプレス)の場合は乗換えなしで移動することができる。

元々はフルカ峠付近で「ローヌ氷河」が見えたことからこの名がついたが、1982年に通年運行確保のためフルカ峠をフルカベーストンネル(新フルカトンネル)で越えるようになったため、現在ではローヌ氷河を車窓から望むことは出来ない[4]。なお、旧ルートについては景観を惜しむ声が多かったことから、2000年から夏季に限りフルカ山岳蒸気鉄道(DFB)として復活運行が行われている。復活当初はレアルプ駅から旧フルカトンネルを抜けてローヌ氷河に近いグレッチュ駅(Gletsch)まで達した。第2期のオーバーヴァルト駅までの旧線全区間の復活は大幅に予定が遅れたが、2010年8月12日に全通し、再び車窓からローヌ氷河が、大幅に後退した姿とはいえ眺められるようになっている。

なお、フルカ峠越えのなくなった現在、全線で最も険しい峠越えはアンデルマットからオーバーアルプ峠に至る九十九折のラックレール区間であると言える。アンデルマットの町を遥か眼下に見下ろす光景は、「スイス・グランドキャニオン」と称されるライン峡谷やランドヴァッサー橋などと並び、沿線のハイライトの一つとなっている[5]

2006年から全ての車両は新型車両「プレミアム」に置き換えられた。空調完備で旧型車両よりも大きな窓のパノラマカーとなった上、テーブル付きの広めの座席、日本語を含む6か国語で沿線案内の説明が聞けるヘッドフォンなどが装備されている。その代わりに食堂車が廃止され、予約した乗客には厨房車から各座席にコース料理を運ぶサービスが開始された。食堂車の人気が高く、予約が取りにくくなっていたための措置である。

座席は一等(夏季料金311スイスフラン)と二等(同195スイスフラン)の他に、2019年3月に追加された「エクセレンスクラス」(同688スイスフラン)があり、コンシェルジェが配置されている[1]。全席予約制となっており、通常の切符またはスイスパスなどスイストラベルシステムのパスとは別に座席予約(有料)が必要になる。また、各座席でのランチも別途予約(有料)が必要になる。ランチの予約がなくても、車内販売により、軽食や飲み物は購入できる。かつて連結されていた食堂車で使用されていた傾いたワイングラスや絵葉書など、グレッシャー・エクスプレス関連グッズも車内販売で購入可能。

1日当たりの本数は5月11日~10月13日(夏季)が区間運行を含めて1日4往復、12月15日~翌年5月8日(冬季)が1往復[1]。例年10月末から12月上旬まではメンテナンスのため、運休となる。また、2014年よりダヴォス発着便はなくなり、クール=ダヴォス間を結ぶ直行バスが接続便で運行する予定。

主な停車駅

ツェルマット駅 - ブリーク駅 - (オーバーヴァルト駅) - アンデルマット駅 - ディセンティス駅 - クール駅 - (フィリズール駅) - サンモリッツ駅

  • ( )で囲んだ駅は5月中旬から10月末までの夏ダイヤでは通過する列車もある。ディセンティス駅は会社境界であり機関車交換のため全列車停車するが、運転停車扱いになる列車もある。
  • ツェルマット→サン・モリッツ方向のグレッシャー・エクスプレスでは、ブリーク~オーバーヴァルト間で乗車のみ、クール~サン・モリッツ間で降車のみ可能な駅がある。反対にサン・モリッツ→ツェルマット方向の場合は、サン・モリッツ~クール間は乗車のみ、オーバーヴァルト~ブリーク間は降車のみ可能な駅がある。従って、ツェルマット駅 - ブリーク駅間のような短区間利用は現在はできなくなっている。

  1. ^ a b c d e f 【鉄道の旅】アルプスの氷河特急*アルプスと美食 至福の時『日本経済新聞』土曜朝刊別刷り日経+1(2019年10月5日)9面
  2. ^ フランコ・タネル『ヴィジュアル歴史図鑑 世界の鉄道』河出書房新社、2014年、296頁。ISBN 978-4-309-22609-5 
  3. ^ 日本においても南海高野線の特急「こうや」の橋本駅 - 極楽橋駅間のように、地域や区間を限って見れば30 km/hを割るものもあり、また富士山麓電気鉄道富士急行線の特急列車やJR九州の観光特急「海幸山幸」など、運行区間全線に渡って表定速度30 km/h台前半の特急列車もある。
  4. ^ ローヌ氷河自体も、地球温暖化の影響でかなり後退しており(氷河融解)、旧路線からでもかつて程には見えなくなっている
  5. ^ 『地球の歩き方 2016〜17 スイス』ダイヤモンド・ビッグ社、2016年、181頁。ISBN 978-4-478-04886-3 
  6. ^ スイス列車事故:兵庫の女性死亡…日本人38人重軽傷”. 『毎日新聞社』 (2010年7月24日). 2010年7月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年12月15日閲覧。
  7. ^ スイス列車事故:「レール変形」運転士証言 検証はできず『毎日新聞』2010年7月27日閲覧
  8. ^ 速度出し過ぎが原因=スイス「氷河特急」脱線事故で専門家チーム時事通信社 2010年7月30日閲覧
  9. ^ 氷河特急事故、運転士に有罪判決 スイスの裁判所朝日新聞』 (Archive)


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