巡礼 呼称、表現、基本概念

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巡礼

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/08 14:28 UTC 版)

呼称、表現、基本概念

ヨーロッパ諸語での呼びかたは、例えばフランス語では「pèlerinage ペルリナージュ」、英語では「pilgrimage ピルグリミッジ」、ドイツ語では「Pilgerfahrt ピルゲルファールト」である[1] が、 これらは基本的にラテン語の「peregrinus ペレグリーヌス」を語源としており、その基本的な意味は「通過者」とか「異邦人」である[1]。このラテン語の基本的な意味でも明らかなように、巡礼の根本的なかたちというのは、遠方の聖地に赴く、というところにある[1]。各信者の居住地にも宗教施設(教会堂、仏閣、神社など)は存在するのだが、それらに赴く行為のことを「巡礼」と呼ぶことは無い[1]。したがって、巡礼というのは、我々の居住地、つまり日常空間あるいは空間から離脱して、非日常空間あるいは聖空間に入り、そこで聖なるものに接近・接触し、その後ふたたび もとの日常空間・俗空間に復帰する行為、と言うこともできる[1][注 1]

分類、類型

世界には様々な巡礼があるが、その特色で様々に分類することも可能である[1]

まずは集団型と個人型である[1]。あらかじめ集団を組んで巡礼に赴く型と、個々人がおのおのの発意によって個々に巡礼に赴く型があるのである[1]。聖地は多くが辺鄙(へんぴ)な場所にあるので、交通手段が未発達の時代においては個人で行うのは困難であった[1](つまりその時代、ほとんどが集団型であった)。また、巡礼は長日数におよび金銭的な準備も必要なので、(今日でも)世界中で集団型巡礼はきわめて盛んである[1]。(なお、大勢でにぎやかに行く巡礼と 独りで黙々と行く巡礼では、その巡礼体験(体験の質)が大きく異なっている[1]。)

他の分類として、巡礼の目的や巡拝者の資格に関して「限定型」と「開放型」がある[1]。たとえばイスラームメッカ巡礼は聖典コーランに定められておりイスラム教徒以外の立ち入りは厳しく禁止されており[1]、またたとえば比叡山の回峰行は数十キロメートルの行程に散在する聖所を1日で参拝する荒行であるが、これは天台宗の僧侶の資格がある者にだけ許可されている巡礼である[1]。これに対して、信者であっても観光客であっても受け入れ、特に巡拝者を限定しない巡礼もあり、たとえば四国のお遍路がその一例である[1]

キリスト教イスラム教に見られる一つの聖地を訪れる直線型と、インド東洋で見られる複数の聖地を巡る回国型に分類されている」とも言われる。

ユダヤ教の巡礼

ソロモン神殿が存在していた時代(紀元前9世紀ころ~紀元前586年)では、ユダヤ教徒にとってエルサレムのソロモン神殿が最も重要な聖地であり、三大巡礼祭英語版、すなわちペサハ過越)、シャブオット七週の祭り)、スコット(仮庵の祭り)の時、成人男性で巡礼可能な人は皆、その地の同神殿を訪れコルバン英語版供物の一種)をささげることが求められた。

嘆きの壁」の前のユダヤ教巡礼者たち

その後、ソロモン神殿は破壊され、それでもその神殿は第二神殿ヘロデ神殿と再建・拡張されたが、紀元70年に再度ローマ帝国軍アグリッパ2世の軍によって破壊された後は(再建が熱心なユダヤ教徒の切なる願いではあるが)再建は果たされておらず、わずかに残されたかつてのヘロデ神殿周囲の(西側の)外壁の一部分(「嘆きの壁」と呼ばれるもの)が、現在のユダヤ教徒の最も重要な巡礼の場所となっている。

現在のユダヤ教では、嘆きの壁以外にも多くの巡礼の地はあり、たとえばマクペラの洞穴(アブラハムなどが埋葬されているとされる場所)、またツァッディークたちの墓(ベツレヘムメロン山ネティヴォ英語版 等々にあるもの)などが巡礼の地となっている。


  1. ^ 明治以降、日本語の「巡禮(巡礼)」も各宗教の聖地を訪ねること全般を指している。そもそも「巡禮」という言葉自体にもともと、「神社や寺院でなければならない」などという意味はまったく込められていない。 なお日本語では類語に「巡拝(じゅんぱい)」もあるが、「巡礼」は宗教色が強く、「巡拝」はどちらかと言えば観光や娯楽の意味合いが強い[要出典]と言う人もいる。
  2. ^ 麦角病はライ麦につく麦角菌に起因する病気であるが、巡礼中の断食により、汚染したライ麦を食べなくなったため治ったとも言う。このように「奇跡」とされるものには、科学的に説明がつく例もある。
  3. ^ プロテスタントの立場としては、そもそも聖書に神ヤハウェやイエスの命令として「(カトリックやオルトドクスの聖地への)巡礼を行え」とは全然書いていないので、聖書に本当に書かれていること(だけ)を重視するプロテスタントの大半の教派としては、巡礼は(/も)人間が勝手に作りだした習慣だと判断され、(カトリックが熱心に巡礼を行っていた歴史を知っているが)それを行ってきたことも間違いなのだ、と判断しているわけである。カトリック教会(や正教会)の幹部の人間の都合で勝手に作りだした諸習慣(悪名高き免罪符や、その他の無数の、教会組織の幹部が(自分に都合よく)勝手に作りだした根拠の無い(奇妙な)習慣)による悪影響を取り除くために命がけで抗議し その間違いを命がけで正した、という起源を持つプロテスタントの立場としては、「巡礼」という習慣(聖書に照らすと、そもそもそれを行なわなければならない根拠が不明で、聖書的には かなり怪しい習慣)に対しても冷淡にならざるを得ないわけである。
  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s スーパーニッポニカ「巡礼」星野英紀 執筆
  2. ^ a b 大稔哲也「イスラームの巡礼・参詣―エジプトの聖墓参詣を中心に―」『四国遍路と世界の巡礼』法藏館、2007年、169-183頁。ISBN 9784831856814http://henro.ll.ehime-u.ac.jp/wp-content/uploads/2006/02/d94f5d26c8df520dd0a5385a2cad2c27.pdf 
  3. ^ a b c Paul Gwynne (2009). World Religions in Practice: A Comparative Introduction. Blackwell. ISBN 9781405167024 
  4. ^ 渡辺研二『ジャイナ教 非暴力・非所有・非殺生―その教義と実生活』論創社、2005年、293-297頁。ISBN 4846003132 
  5. ^ a b NHK BS「チベット カイラス巡礼」2015年1月4日放送。
  6. ^ 精選版 日本国語大辞典『右繞・右遶』 - コトバンク
  7. ^ 大辞林 第三版『右繞』 - コトバンク
  8. ^ 日本大百科全書(ニッポニカ)『ボン教』 - コトバンク
  9. ^ Pilgrimage to Broken Mountain: A Nahua Ritual for Abundant Crops, Aztec Page at Mexicolore, https://www.mexicolore.co.uk/aztecs/home/modern-nahua-pilgrimage 
  10. ^ Witschey, Walter R. T. (2016). “Rites and Rituals”. In Walter R. T. Witschey. Encyclopedia of the Ancient Maya. Rowman & Littlefield. pp. 295-296. ISBN 0759122865 






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