女真
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宗教・精神文化
女真族の宗教は、婚姻儀礼や葬送儀礼などにおいて民族独自のシャーマニズムや祖先崇拝の要素が含まれていた。自然崇拝においては、火神・星神および神山・神石を尊崇し、とりわけ星神に対する信仰は最も普遍的なものであった[26]。『吉林通志』にも「祭祀典礼は、満洲の最も重んずるは、一に祭星、二に祭祖」とある[26]。星神とは、具体的には北斗七星であり、満洲語では「ナダン(七つ)ウシハ(星)」と称する[26]。記録によれば、満洲族(女真族)の祭星は、多くは月が沈む後に行う背灯祭で、そこでは灯火がかき消され静寂のなかで執り行われ、通常は占卜や祟り祓い、病祓いなどの巫術と結びついた除災の祭りである[26]。同じツングース系のホジェン族(赫哲族、ロシアでは「ナナイ」と称する)もまた、七星を除災の神とみなし、「吉星神」と呼称する[26]。
聖地長白山
長白山(朝鮮の呼称では「白頭山」)周辺は、もともと濊・貊・粛慎が居住しており、彼らの聖地だった[要出典]。その後この地における濊貊の勢いが衰え、粛慎の流れを汲む女真がこの山を聖地とした[27]。金は、1172年には山に住む神に「興国霊応王」の称号を贈り、1193年には「開天宏聖帝」と改めている[要出典]。
神話・伝承
『満文老檔』天命6年(1621年)条や満文『内国史院檔』天聰8年(1634年)条には、当時の女真族(満洲族)が日食や月食という天文現象を「天界の犬が太陽・月を食べること」であると考えていたことを示唆する記述が収載されており、こうした伝承は他のツングース系の諸民族や朝鮮民族、テュルク系民族、また、パレオアジア語系とみられるニヴフ(ギリヤーク)にもみられる[28]。
また、『満洲実録』や『満文老檔』には、天命元年(1616年)、ヌルハチがダルハン・ヒヤとションコロ・バトゥルに命じてサハリヤン部を討伐させたとき、アムール川(黒竜江)の渡河に際して、往還ともに時ならぬ奇跡的な結氷に助けられて討伐を成功させたことが史実として記されている[28]。これに似た説話として、イチェ・マンジュ(伊徹満洲 ice manju/ 新満洲)人の伝承として、1.背後に敵軍が迫り、2.行く手を大河が遮り滅亡の危機を迎えるが、3.大河に魚の浮き橋ができて難を逃れ、4.滅亡を免れる(新天地へ移住する)という4つのモチーフをともなう説話も伝わっている[28]。この4モチーフは、夫余・高句麗の開国説話(東明王・朱蒙伝説)にも共通し、オロチョン族やナナイ族などツングース系民族の説話にもみられる[28][注釈 3]。
注釈
出典
- ^ 『女真文辞典』(1984)p.1
- ^ a b c d e f 『女真』 - コトバンク
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 『満洲族』 - コトバンク
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- ^ a b 『靺鞨』 - コトバンク
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- ^ “亦失哈” [It's also lost] (中国語). 2022年9月23日閲覧。 “宣德九年,女真地区灾荒,女真人被迫卖儿鬻女,四处流亡,逃向辽东的女真难民,希望得到官府的赈济。[In the ninth year of Xuande, the Jurchen region was famine, and the Jurchens were forced to sell their sons and wives and went into exile. They fled to the Jurchen refugees in Liaodong, hoping to get relief from the government.]”
- ^ “亦失哈八下东洋”. Ifeng.com. (2014年7月8日). オリジナルの2015年4月28日時点におけるアーカイブ。
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