労働契約法 定義

労働契約法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/16 01:07 UTC 版)

定義

本法において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいい(第2条1項)、「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう(第2条2項)。

  • 「労働者」の範囲の判断は労働基準法とほぼ同じであり、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素を勘案して総合的に判断し、使用従属関係が認められるか否かにより判断される。契約形態が請負委任又は非典型契約で労務を提供する者であっても、契約形式にとらわれず実態として使用従属関係が認められる場合には、「労働者」に該当するものである。なお、労働契約法では家事使用人を適用除外としていない点で労働基準法とは異なる。
  • 「使用者」の指すところは労働基準法では「事業主」に相当するものであり(例えば個人企業の場合はその企業主個人を、会社その他の法人組織の場合はその法人そのものをいい、会社の代表者を指すわけではない)、労働基準法上の「使用者」よりも範囲が狭い。
  • 「賃金」は、労働基準法第11条でいう「賃金」と同義である(平成24年8月10日基発0810第2号)。

労働契約の原則

第3条には、労働契約の5原則が掲げられている。

労使対等の原則
労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする(1項)。労働基準法第2条1項と同趣旨である。
均衡考慮の原則
労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする(2項)。これには、就業の実態が異なる、いわゆる正社員と多様な正社員との間の均衡も含まれる[1]
仕事と生活の調和への配慮の原則
労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする(3項)。これには、いわゆる正社員と多様な正社員との間の転換にもこの原則は及ぶ[1]
信義誠実の原則
労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない(4項)。民法第1条2項、労働基準法第2条2項と同趣旨である。
権利濫用の禁止の原則
労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない(5項)。民法第1条3項と同趣旨である。なお、第14~16条に権利濫用を禁止する規定があるが、権利濫用禁止原則はこの規定以外の場面においても適用される。

使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとされ(第4条1項)、労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする(第4条2項)。勤務地・職務・勤務時間の限定についても、この確認事項に含まれる[1]。これは、労働契約は、労働契約の締結当事者である労働者及び使用者の合意のみにより成立する契約(諾成契約)であるが、契約内容について労働者が十分理解しないまま労働契約を締結又は変更し、後にその契約内容について労働者と使用者との間において認識の齟齬が生じ、これが原因となって個別労働関係紛争が生じているところである。労働契約の内容である労働条件については、労働基準法第15条により締結時における明示が義務付けられているが、個別労働関係紛争を防止するためには、同項により義務付けられている場面以外においても、労働契約の締結当事者である労働者及び使用者が契約内容について自覚することにより、契約内容があいまいなまま労働契約関係が継続することのないようにすることが重要である。このため、第4条において、労働契約の内容の理解の促進について規定したものである。「労働者の理解を深めるようにする」については、一律に定まるものではないが、例えば、労働契約締結時又は労働契約締結後において就業環境や労働条件が大きく変わる場面において、使用者がそれを説明し又は労働者の求めに応じて誠実に回答すること、労働条件等の変更が行われずとも、労働者が就業規則に記載されている労働条件について説明を求めた場合に使用者がその内容を説明すること等が考えられるもので(平成24年8月10日基発0810第2号)。労働基準法第15条は労働契約「締結時」のみの適用であるが、第4条は労働契約の締結前において使用者が提示した労働条件について説明等をする場面や、労働契約が締結又は変更されて継続している間の各場面が広く含まれる。

安全配慮義務

「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」(第5条)。通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労働に従事するものであることから、判例(陸上自衛隊事件、最判昭和50年2月25日民集29巻2号143頁。川義事件、最判昭和59年4月10日民集38巻6号557頁)において、労働契約の内容として具体的に定めずとも、労働契約に伴い信義則上当然に、使用者は、労働者を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負っているものとされているが、これは、民法等の規定からは明らかになっていないところである。このため、第5条において、使用者は当然に安全配慮義務を負うことを規定したものであること(平成24年8月10日基発0810第2号)。

  • 「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれるものであること(平成24年8月10日基発0810第2号)。
    • 長時間労働については、企業は労働者の長時間労働を抑制する措置をとることが要請されており、その際、現実に労働者が長時間労働を行っていることを認識し、あるいは容易に認識可能であったにもかかわらず、長時間労働による災害から労働者を守るための適切な措置をとらないことによって災害が発生すれば、安全配慮義務に違反したと評価されることは当然のことである(大庄ほか事件、最判平成25年9月24日)。
    • 精神的健康(いわゆるメンタルヘルス)に関する情報においては、労働者本人からの積極的な申告が期待しがたいことを前提としたうえで、必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要がある(東芝うつ事件、最判平成26年3月24日)。
  • 「必要な配慮」とは、一律に定まるものではなく、使用者に特定の措置を求めるものではないが、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて、必要な配慮をすることが求められるものであること。なお、労働安全衛生法をはじめとする労働安全衛生関係法令においては、事業主の講ずべき具体的な措置が規定されているところであり、これらは当然に遵守されなければならないものであること(平成24年8月10日基発0810第2号)。

  1. ^ a b c 「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会報告書、平成26年7月
  2. ^ もっとも、労働契約法のこれらの内容は、判例法理に沿って規定したものであり、判例法理を変更するものではない(平成24年8月10日基発0810第2号)。
  3. ^ 本審では、高裁判決にある、正社員を厚遇することで有能な人材を確保し、長期勤続のインセンティブとする理論を採用しなかった。つまり、正社員だからという理由だけでは格差を設ける理由としては足りないのである。
  4. ^ もっとも本審では、高裁判決にある、定年退職後の継続雇用において職務内容やその範囲の変更等が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは広く行われており、年収2割程度の減額は不合理とまではいえない、とした指摘については触れなかった。
  5. ^ この適用除外規定は、「労働契約」という用語を用いていない。これは公務員の身分関係が「労働契約」としてとらえきれないことによる。
  6. ^ 「同居」とは、世帯を同じくして常時生活を共にしていることをいい、「親族」とは、民法第725条にいう6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族をいい、その要件については、民法の定めるところによるものである(平成24年8月10日基発0810第2号)。
  7. ^ 船員法第100条は、労働契約法第12条とほぼ同趣旨の内容である。また船員法における雇入契約は、有期契約が原則となっていることから、雇入契約の解除事由については、その具体的な内容は船員法第40条・第41条に規定がある。






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