全面腐食 実害と防止

全面腐食

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/20 14:13 UTC 版)

実害と防止

上記のとおり、実際の腐食では、厳密な意味での全面腐食はそれほど多い事例ではない[34]。強い酸性溶液中などの環境では、腐食生成物による皮膜も形成されにくいため、全面でほぼ均一な腐食が実現される[34]海水中の炭素鋼の腐食も全面腐食の典型例だが、全面腐食に至る前に、最初の数年は腐食されない箇所が残る不均一な形態で腐食することもある[35]。屋外大気中に置かれた炭素鋼の腐食も全面腐食の例だが、これも厳密に全面で均一に腐食が進行するわけではなく、ばらつきの範囲内と考えて全面腐食とみなされる[36]

実際の腐食においては、全面腐食よりも局部腐食が問題となる事例が多い[37]ステンレス鋼アルミニウムチタンなどは、海水に対しても不働態化して全面腐食については優れた耐性を示す金属だが、孔食やすき間腐食といった局部腐食を起こすことはままある[38]。また、設計時においても全面腐食はある程度予測が立てれるが、局部腐食は予測が立てにくい[39]。酸による腐食などの特殊な事例を除き全面腐食の腐食速度は緩やかなのに対し、局部腐食は一般的にそれよりも早く進む[39]。したがって、全面腐食が問題となる損傷事例は、設計、製作、運用のミスが原因であることが多い[40]

腐食全般に対する防食法として、塗装めっき、電気防食、環境制御、耐食性材料の採用などがある[41]。一般的な目安として、ある金属や合金の使用環境での腐食が 0.1 mm/y 以下の浸食度に収まっていれば、その金属材料は耐食的な材料とみなせる[42]。腐食によって減肉することが予測される場合、事前にその分の厚みを部材に設けておくことがあり、この余分な厚みを腐食しろという[43]。全面腐食では腐食速度がある程度予測できるので、部材に強度的に必要な腐食しろを持たせ、一定の全面腐食発生を許容して設計することもある[44]圧力容器熱交換器、高圧ガス配管などでは、種々の規格によって設けるべき腐食しろが規定されている[45]。例えば、日本産業規格 JIS B 8249 では、過酷な運転環境下の多管式熱交換器について炭素鋼・低合金鋼の腐食しろを標準 3 mm と規定している[46]。装置運転状態で全面腐食の進行を確認する方法としては、超音波厚さ計で肉厚を直接測る方法や電気抵抗を利用する方法などがある[45]航空機では、大気暴露によるアルミニウム合金の全面腐食は、規定の防食処置をした上で点検による確認や運航後の手入れで対処する運用がなされている[47]。一方、食品プラントでは食品汚染防止という観点から、腐食しろを設けて一定の腐食を織り込む手法は許されず、浸食度で 0.01 mm/y や 0.001 mm/y の桁まで腐食を抑えるように厳重に防食対策が取られる[48]


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  42. ^ 杉本 2009, p. 135.
  43. ^ 日本材料学会腐食防食部門委員会(編) 2016, p. 194.
  44. ^ 腐食防食協会(編) 2000, p. 379; 藤井(監修) 2017, p. 199.
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  46. ^ JIS B 8249:1999「多管円筒形熱交換器」日本産業標準調査会経済産業省)、1, 5頁
  47. ^ 腐食防食協会(編) 2000, p. 884.
  48. ^ 腐食防食協会(編) 2000, p. 721.


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