全面腐食 評価方法

全面腐食

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/20 14:13 UTC 版)

評価方法

全面腐食が進行する速さを示す指標には、腐食で失われる金属の質量で評価するものと失われる金属の肉厚で評価するものがある[22]。前者の場合は、単位時間当たりかつ単位面積当たりの減少質量で評価し、よく使われる単位は [mdd] で、1日 [day] で減る1平方デシメートル [dm2] 当たりのミリグラム [mg] 質量を意味する[23]。後者の場合は、単位時間当たりの減少肉厚で評価し、よく使われる単位は [mm/y] で、1年 [year] で減るミリメートル [mm] 肉厚を意味する[23]。肉厚減少速度は浸食度という名でも呼ばれる[24]。浸食度の方が直感的で分かりやすく、特に、強度が問題で構造物の肉厚を管理したい場合は mm/y のような肉厚減少速度が用いられる[25]。製品の汚染が問題で溶出量を管理した場合は mdd のような質量減少速度が役立つ[26]

具体例としては、空気が飽和した常温の静止した水に炭素鋼を浸したときに、およそ 10 から 25 mdd (0.04 から 0.1 mm/y) である[22]。ただし一般に、腐食が進行して錆などの腐食生成物が表面に付着する場合は、それが表面保護の役目を果たすため、全面腐食の腐食速度は初期は大きくても後から小さくなる[27]。mdd や mm/y はある期間全体での腐食量の平均値なので、腐食速度データの利用にあたってはデータ取得の腐食期間について注意が必要である[28]

実際に試験で腐食速度を求めるときには、基本的には腐食で減少した質量を測定し、材料密度を使って浸食度に換算する[29]。試験後に表面に腐食生成物が残る場合は、酸などで溶解させて除去する[26]。試験期間は、できるだけ再現性が得られる十分な期間が望まれる[27]。規格では、腐食速度が小さいほど試験期間を長めにすることが推奨されている[27]。信頼性向上のために試片の数も複数が望ましい[30]。電気化学的手法を使って腐食電流密度から腐食速度を評価する方法もあり、この方法では瞬間的な腐食速度をモニタリングできる[31]。理論上の換算値は、鉄 (Fe) の場合で腐食電流密度 10−4 A/cm2 がほぼ 1.16 mm/y に対応する[32]。ただし、全面腐食速度を推定する上では、腐食減少質量そのものを直接測定する手法の方が信頼性が高いともいわれる[33]


  1. ^ a b 藤井(監修) 2017, p. 54; 日本材料学会腐食防食部門委員会(編) 2016, pp. 119, 194; 松島 2007, p. 17.
  2. ^ 腐食防食協会(編) 2000, p. 17.
  3. ^ 杉本 2009, p. 5.
  4. ^ 杉本 2009, p. 4.
  5. ^ 腐食防食協会(編) 2000, pp. 17–18; 杉本 2009, pp. 5–6.
  6. ^ 藤井(監修) 2017, p. 42; 松島 2007, p. 5.
  7. ^ 腐食防食協会(編) 2000, p. 18; 松島 2007, p. 6.
  8. ^ 杉本 2009, p. 4; 松島 2007, p. 6; 藤井 2016, p. 18.
  9. ^ 長野・山下・内田 2004, pp. 9–10; 腐食防食協会(編) 2000, p. 18; 松島 2007, p. 6.
  10. ^ a b 腐食防食協会(編) 2000, p. 632.
  11. ^ a b 日本材料学会腐食防食部門委員会(編) 2016, p. 60.
  12. ^ 藤井(監修) 2017, pp. 54–55; 松島 2007, p. 5.
  13. ^ 藤井(監修) 2017, p. 54; 松島 2007, pp. 5–6.
  14. ^ a b 藤井(監修) 2017, p. 54; 松島 2007, p. 6.
  15. ^ 長野・山下・内田 2004, pp. 3–4.
  16. ^ 日本材料学会腐食防食部門委員会(編) 2016, p. 119; 藤井(監修) 2017, p. 61.
  17. ^ 水流 2017, p. 99; 松島 2007, p. 17.
  18. ^ 上田 重朋、1980、「全面腐食と局部腐食」、『防食技術』29巻8号、腐食防食協会、doi:10.3323/jcorr1974.29.8_426 p. 426
  19. ^ 日本材料学会腐食防食部門委員会(編) 2016, p. 222.
  20. ^ 松島 2007, p. 6; 藤井(監修) 2017, p. 55.
  21. ^ 日本材料学会腐食防食部門委員会(編) 2016, p. 221.
  22. ^ a b 松島 2007, p. 18.
  23. ^ a b 藤井(監修) 2017, pp. 84–85; 藤井 2016, pp. 4–5; 松島 2007, p. 18.
  24. ^ 藤井 2016, p. 5; 藤井(監修) 2017, p. 84; 長野・山下・内田 2004, p. 10.
  25. ^ 松島 2007, p. 18; 腐食防食協会(編) 2000, p. 571.
  26. ^ a b 腐食防食協会(編) 2000, p. 571.
  27. ^ a b c 腐食防食協会(編) 2000, p. 570.
  28. ^ 松島 2007, pp. 19–20; 藤井(監修) 2017, p. 85.
  29. ^ 腐食防食協会(編) 2000, pp. 571–572; 藤井(監修) 2017, p. 85.
  30. ^ 腐食防食協会(編) 2000, p. 569.
  31. ^ 水流 2017, p. 198.
  32. ^ 水流 2017, p. 58.
  33. ^ 日本材料学会腐食防食部門委員会(編) 2016, p. 91.
  34. ^ a b 水流 2017, p. 99.
  35. ^ 腐食防食協会(編) 2000, pp. 53, 55.
  36. ^ 松島 2007, pp. 17–18.
  37. ^ 藤井 2016, p. 28.
  38. ^ 長野・山下・内田 2004, p. 88.
  39. ^ a b 藤井(監修) 2017, pp. 60–61.
  40. ^ 日本材料学会腐食防食部門委員会(編) 2016, p. 119.
  41. ^ 藤井 2016, pp. 51–52.
  42. ^ 杉本 2009, p. 135.
  43. ^ 日本材料学会腐食防食部門委員会(編) 2016, p. 194.
  44. ^ 腐食防食協会(編) 2000, p. 379; 藤井(監修) 2017, p. 199.
  45. ^ a b 藤咲 衛、1988、「化学装置における構成材料の腐食しろとその実態」、『防食技術』37巻5号、腐食防食協会、doi:10.3323/jcorr1974.37.5_286 pp. 286-293
  46. ^ JIS B 8249:1999「多管円筒形熱交換器」日本産業標準調査会経済産業省)、1, 5頁
  47. ^ 腐食防食協会(編) 2000, p. 884.
  48. ^ 腐食防食協会(編) 2000, p. 721.


「全面腐食」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  
  •  全面腐食のページへのリンク

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「全面腐食」の関連用語

全面腐食のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



全面腐食のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの全面腐食 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS