九四式拳銃 概要

九四式拳銃

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/02 15:52 UTC 版)

概要

当時、帝国陸軍の将校准士官が装備する護身用拳銃は軍服軍刀などと同じく私物・自費調達の「軍装品」扱いであったため、FN ブローニングM1910ブローニング拳銃)やコルト M1903などの外国製輸入拳銃約30種、日本製なら杉浦式自動拳銃などから各自が任意に調達していた。それら「軍装拳銃」は.32ACP弾を使用する拳銃(M1910・M1903・杉浦式など)が主流であったものの、中には.25ACP弾使用拳銃(FN M1906モーゼル M1910など)など、使用実包弾薬)も異なっており、またメンテナンス方法や使用部品もばらばらだったため、国産拳銃に統一しようという声が上がっていた[1] 。しかし当時南部式自動拳銃の小型版、南部式小型自動拳銃は7mm南部弾使用による威力不足や価格の高さなどで生産中止、また南部式自動拳銃(大型)ならびに陸軍制式の兵器である十四年式拳銃は大型拳銃のため将校用には不向きであった。そこで日本初の国産自動拳銃である南部式自動拳銃を開発した南部麒次郎は、陸軍制式である十四年式拳銃実包(8mm南部弾、8×22mm弾)を使用することにより実包の互換性を高め、機構の簡略化によりメンテナンス性を向上させた新型拳銃を開発し、これは1934年(昭和9年、皇紀2594年)12月12日に九四式拳銃として陸軍に準制式採用され、1935年(昭和10年)から量産が開始された。

以降、九四式拳銃は将校准士官のみならず、機甲部隊の機甲兵、航空部隊の空中勤務者(操縦者など)、空挺部隊挺進連隊)の挺進兵など、小型拳銃を欲する特殊な兵種にも供給され盛んに使用された。なお本銃は上述の通り主に将校用の小型護身用拳銃として計画・採用されたものであり、主に下士官用の官給品たる十四年式拳銃の後続主力拳銃という位置づけではない。そのため九四式拳銃の採用・生産に平行して十四年式拳銃も引き続き生産されている。

作動方法は一見してそうはみえないが、ショートリコイル方式を採用している。そして、一見するとボルト作動式にみえるが、実はスライド作動式である(下記参照)この銃は当時、小型自動拳銃のノウハウのまったくない日本の技術陣が全く独自の、悪く言えば独善的な設計思想で完成させた拳銃で、ドイツP-08アメリカM1911A1など他国の技術を全く無視した日本オリジナルの設計がなされている


  1. ^ 将校の間で流行していたFN M1910などは、当初はまとまった数で大量に輸入され比較的安価な拳銃ではあったものの、国際情勢が不穏な状況になった場合は入手や購入価格が不安定になる恐れがあった。そんな中、国産で安価、安定した入手が可能な九四式拳銃は重宝された(拳銃嚢柵杖、予備弾倉付きで1挺50円、現代の価値で約7万円~10万円程)。なお、十四年式拳銃は納品価格75円、コルト M1903が100円、FN M1910は1928年(昭和3年)頃の価格で本体のみ40円ほどなので、M1910でも1934年頃には当時の情勢や、インフレーションなどで高額になっていたと想像される
  2. ^ 但し、自動車内燃機関のうち、OHCシリンダーヘッドに用いられるロッカーアームにはこのようなローラーを用いて作動抵抗を減らすローラーロッカーアームが存在する為、工学的に全くの荒唐無稽とは言えない面もある。このローラー内蔵ハンマーは後に南部銃製造所が開発に携わった試作自動小銃にも用いられた。
  3. ^ 先行機種の南部式や十四年式ではストライカー方式だったので、ストライカー方式のノウハウは持っていた。ただしコルトM1903のように、ハンマー内蔵式の小型自動拳銃の前例が無いわけではない
  4. ^ この方式で設計すると、システムを単純合理的なものに出来、作動性の向上を図ることが出来るが、よく銃器で行われるマイナーチェンジ設計をする際、口径の大型化などのスライド部にかかわるマイナーチェンジ設計を行うと、フレーム部も大々的な設計変更を行わなければならないので製品の将来性を見越した場合、あまり好ましい構造とはいえない。なお目的は異なる(命中精度の向上)が後年のP210やCz75も同様の構造である。
  5. ^ 射距離50mでエゾ松板約140mmを侵徹、人馬殺傷には十分な威力。
  6. ^ 但し、枢軸国の戦時中、中期〰末期に製造された個体は、程度の差はあれ工作精度が悪いものが多く、正規の職人での製造や製造方法をおこなっていないものも多いため、この不備が本銃で恒常的に作用する欠陥というわけではない
  7. ^ Derby, Harry L. Japanese Military Cartridge Handguns 1893–1945 (2003), p. 189


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