ワスプ級強襲揚陸艦 能力

ワスプ級強襲揚陸艦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/28 21:00 UTC 版)

能力

航空運用機能

「エセックス」の飛行甲板
「ワスプ」艦上に展開したMV-22とF-35B

全通飛行甲板は249.6×36.0メートルを確保した[1]。寸法としてはタラワ級とほぼ同様だが、タラワ級では艦砲を装備するために切り欠きを設けていたのに対し、本級ではこれを省き、ほぼ障害物のない完全な矩形に近くなったことで[7]、CH-53Eヘリコプター9機を同時に発着させることができるようになった。またHY100高張力鋼を導入して、強度も向上させている[2]

飛行甲板レイアウトの改訂の一環として、航空機用のエレベーターは2基とも舷側装備となった[7]。大きさは15.2×13.7メートル、力量34トンとされた。またこの他に、弾薬などの物資用エレベーター6基が設けられており、それぞれ力量5.4トン、合計で7.6×3.6メートル大である[2]。ギャラリーデッキを挟んで下方に格納庫を設けているのはタラワ級と同様だが、その床面積は約1,922.9平方メートルに拡張されており、長さは約74.2メートル、幅25.9メートル、高さは6.4メートルとされる[2]

標準的な搭載機は、MV-22×10機、CH-53E/K×4機、AH-1W/Z×4機、UH-1N/Y×3機、AV-8B×6機とされている[2]ヘリコプターの最大搭載数はタラワ級と大差なく、全てCH-46中型ヘリコプターとした場合は、タラワ級では43機であったのに対し、本級は42機とされた[6]。一方でSTOVL(短距離離陸・垂直着陸)運用への対応は大幅に強化されたが、これは制海艦としての運用を想定したものでもあった。AV-8Bを目一杯詰め込めば28機を搭載できるが、制海艦として行動する場合には、AV-8B攻撃機20機とSH-60B LAMPSヘリコプター4~6機を搭載することが想定されている。この場合、上陸部隊用の資機材スペースに弾薬が、追加の車両や予備部品は車両甲板に搭載されることになり、構成変更は15~30日で完了できる[6]。2003年のイラク戦争では、「バターン」「ボノム・リシャール」がそれぞれ22機および24機のAV-8Bを搭載して「ハリアー空母」として活動し、空母としての有用性を認めさせたと評されている[12][13]。一方、航空燃料の搭載量はタラワ級と大差なく、1,232トン(JP-5 40万ガロン)とされたが[1]、これではAV-8Bを運用する場合、2日以上の作戦行動は困難と見積もられた[6]。その後、5番艦以降では1,960トンに増強されている[1][注 1]

その後、2010年代に入ると、AV-8Bの後継としてF-35Bの配備が開始された。海兵隊では、2022年頃からAV-8Bの退役を開始し、2025年度までに運用を終了する予定としている。これにあわせて、本級でもF-35Bの運用に対応して、飛行甲板の強化や耐熱塗料の改善などの改修を順次に実施していくものとみられており、2016年10月には「エセックス」が改修を完了した[13]

輸送揚陸機能

「キアサージ」から発進するLCAC

上記の経緯により、本級ではタラワ級と比して、ウェルドックの設計は大きく改訂された。長さ98.1×幅15.2メートル、高さ8.5メートルと、やや狭くなるかわりに長さを増しており、また中心部の仕切り板を廃止することで、LCAC-1級エア・クッション型揚陸艇3隻を収容できるようになった。また艦尾門扉も、タラワ級では上下に分割して開く形式だったが、本級ではLPDやLSDと同様の1枚扉になった[6]。なお在来式の上陸用舟艇の場合、LCUなら2隻、LCM(8)なら6隻、LCM(6)なら12隻を収容できる[3]。ドックに漲水するためのバラスト水は15,000トンを搭載する[2]

一方、上陸部隊の収容能力は若干低下し、計画値としては、タラワ級では1,903名とされていたものが本級では1,810名となった(実数はそれぞれ2,075名と1,893名)。その装備を収容するためのスペースも減少しており、車両甲板は14,200平方フィート (1,320 m2)、貨物搭載スペースは60,000立方フィート (1,700 m3)となった[6]。標準的な搭載車両は、M1A1戦車5両、LAV-25歩兵戦闘車25両、M198/M777 155mm榴弾砲8門、M939/FMTV/MTVR各種トラック68両、兵站車両10両および支援車両若干とされる[1][3]

なお本級は、医療設備として病床60床(うち集中治療室14床)、手術室4室を備えている。また、医療区画に隣接した海兵隊居住区を一般病床として転用した場合、さらに200床を確保することができる[14]

個艦戦闘機能

「ワスプ」搭載のファランクスCIWS

タラワ級では対地火力支援も想定した艦砲が搭載されていた(後日撤去)のに対し、本級では当初から、個艦防空を重視した構成となっており、シースパロー個艦防空ミサイル8連装発射機ファランクス 20mmCIWSが搭載された。また5番艦からはRAM近接防空ミサイルの21連装発射機2基を搭載し[3]、他の艦にも後日装備されたが、この際にファランクス1基が撤去された。

また、近距離の対水上用として75口径25mm単装機関砲12.7mm単装機銃も搭載されている[1][2]

戦術情報処理装置としてはACDSブロック0を基本として、7番艦ではブロック1とした。また全艦がSSDSを装備しており、特に1・7・8番艦ではSSDS Mk.2を備えている[1]。上陸部隊のためにMTACCS(Marine Corps Tactical Command and Control System)およびAFATDS(Advanced Field Artillery TDS)を備えている[1]。指揮統制区画には、シギント室(SSES)、旗艦用司令部作戦室(Flag Plot)、上陸部隊指揮所、統合情報センター、支援火力調整センター(supporting arms coordination center)、戦術兵站群、ヘリコプター兵站群、航空統制センター(TACC)、ヘリコプター指揮センター、そしてヘリコプター調整室が設けられている[2]

歴代強襲揚陸艦との比較

歴代強襲揚陸艦との比較
LHA アメリカ級 LHD ワスプ級 LHA タラワ級
(最終状態)
LPH イオー・ジマ級
(最終状態)
フライトI フライト0 8番艦 1-7番艦
船体 満載排水量 50,000 t以上 45,570 t 41,335 t 40,650 t 39,300 t 18,300 t
全長 257.3 m 254.2 m 180.4 m
最大幅 32.3 m 42.7 m 38.4 m 31.7 m
機関 方式 CODLOG 蒸気タービン
出力 70,000 hp 72,000 hp 77,000 hp 22,000 hp
速力 22ノット 24ノット 23ノット
兵装 砲熕 25mm単装機関砲×2 - 3基 76mm連装砲×2基
ファランクス 20mmCIWS×2 - 3基
12.7mm連装機銃×3 - 8基
ミサイル ESSM 8連装発射機×2基 シースパロー 8連装発射機×2基 シースパロー 8連装発射機×2基
RAM 21連装発射機×2基
航空運用機能 飛行甲板 全通(STOVL対応)
航空燃料 不明 3,813 t 1,960 t 約1,200 t
搭載機数 AV-8Bなら24機、F-35Bなら20機 AV-8Bなら20機 AV-8なら12機
MV-22Bなら42機 CH-46なら38機 CH-46なら20機
輸送揚陸機能 舟艇 LCACなら2隻 なし LCACなら3隻
LCM(6)なら12隻
LCACなら1隻
LCM(6)なら20隻
なし
(7番艦のみLCVP×2隻)
上陸部隊 1個大隊揚陸チーム (約1,900名)
同型艦数 9隻予定 2隻 1隻 7隻(1隻退役) 5隻(退役) 7隻(退役)

注釈

  1. ^ アメリカ海軍協会(USNI)ではいずれも1,866トンとしている[2]

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j Saunders 2015, p. 958.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m Wertheim 2013, pp. 863–865.
  3. ^ a b c d e 阿部 2007, pp. 122–125.
  4. ^ Saunders 2015, p. 960.
  5. ^ a b c d Friedman 2002, ch.12 The Bomb and Vertical Envelopment.
  6. ^ a b c d e f g Friedman 2002, ch.16 Over The Horizon Assault.
  7. ^ a b c 海人社 2007.
  8. ^ a b Gardiner 1996, p. 618.
  9. ^ Lynn J. Petersen, Michael Ziv, Daniel P. Burns, Tim Q. Dinh, Peter E. Malek (2013年). “U.S. Navy efforts towards development of future naval weapons and integration into an All Electric Warship (AEW)” (PDF) (英語). 2013年12月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年10月7日閲覧。
  10. ^ Donnie W. Ryan (2012年4月26日). “Makin Island's Hybrid Technology Helps Sailors and Marines Celebrate Earth Day, Every Day” (英語). 2012年11月24日閲覧。
  11. ^ 多田 2012.
  12. ^ Polmar 2008, ch.25 Amphibious Assault.
  13. ^ a b 大塚 2018.
  14. ^ 海人社 2008.






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