ブックビルディング ブックビルディングの概要

ブックビルディング

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/06/06 04:15 UTC 版)

ナビゲーションに移動 検索に移動

概要

募集又は売出しを予定している発行会社では、ローンチ後、まずブックビルディングの前に、募集又は売出し時の適正な価格発見能力に優れた複数の機関投資家に対しロードショーと呼ばれる説明会を行う[1][4][5]。ロードショーで機関投資家から受けた意見をもとに仮条件と呼ばれる価格帯を設定し、発行会社は「価格帯について記載した訂正有価証券届出書を所管する地域の財務局に提出する[1][5]。この訂正有価証券届出書に記載された内容が反映された目論見書を証券会社は個人投資家等の一般投資家に提示する[1][4][5][11]。その後、投資家は目論見書の内容を基に適正と思われる価格と需要数量を申告する[1][4][5][11]。発行会社は投資家からの需要を把握し、市場動向にあった募集又は売出しの価格決定を実施するのであるが、この価格決定に際して行われているのがブックビルディングである[1][4][5]。なお、ブックビルディングについて、東京証券取引所では5営業日での実施をモデルケースとしている[12]ほか、日本証券業協会でも1週間程度で行われるのが一般的であるとしている[6]

会社法とブックビルディング

会社法上、普通株式を日本国内の証券取引所上場している場合、その募集に伴い公正な価額による払込みを実現するためには、適正な払込金額の決定の方法を取締役会決議で決定し、その決定方法を公告又は通知することが、会社法201条2項及び3項で求められている[1][13]。ここで言われる「適正な払込金額の決定の方法」について、その具体的な決定方法としては、日本証券業協会が定めた有価証券の引受けに関する規則2条16号に定められているブックビルディング方式が想定されている[1][13][14]。他方、株式公開による新規上場の場合、会社法201条2項及び3項のような規定は存在しないため、具体的に公開価格を決定し通知又は公告の必要があるものの、この決定にブックビルディング方式を用いた価格決定を実施することに制限はない[1]

このように、募集又は売出しに係る価格の決定方法として、ブックビルディングを用いることは会社法上認められたことではあるが、一方で、ブックビルディングの結果決定された払込金額が、株主以外の者に特に有利な発行に該当しているのではないかという問題は別個に存在している[1]。言い換えれば、仮にブックビルディングを用いた価格決定を行ったとしても、会社法上は禁じられている有利発行と判断される恐れがあることに注意する必要があるということである[1]

ブックビルディング方式と訂正有価証券届出書

日本における株式のIPOやPOの価格決定においては、ブックビルディング方式による価格決定を行うのが一般的である[1]。この場合、有価証券届出書を提出した段階では、想定発行又は売出価格は提示されているものの、募集又は売出しに係る価格は定まっておらず、市場価格やロードショーを参考にした仮条件が提示された後、ブックビルディングが行われるというのは前述のとおりであるが、このブックビルディングによる価格の決定[注 2]は企業内容等の開示に関する内閣府令(以下「開示府令」という。)第11条第3号において、「有価証券届出書に記載すべき事項の内容の決定」にあたるため、訂正有価証券届出書を提出する必要がある[1]。なお企業内容等の開示に関する留意事項について(通称:開示ガイドライン)B8-3ロにおいても、このタイミングで提出された訂正有価証券届出書は、提出日又はその翌日に有価証券届出書としての効力が発生する事が記載されている[1]。さらにいえば、実務上もプライシング日に、財務局からその翌日を効力発生日とする有価証券届出書の効力発生通知書を、発行会社が受領することが一般的である[1]。因みに、ブックビルディングが行われる前に提示される仮条件についても、その決定は「発行価格に関し発生した重要な事実」であるため、開示府令第11条第2号により、訂正有価証券届出書を提出しておく必要がある[1]

一方で、新株予約権付社債(いわゆるCBのことである[7]。)の募集に際して行われる転換価格の市場価格からのアップ率の決定においてもブックビルディングによる価格の決定が行われる[1][7]。しかしながら、会社法238条2項及び309条2項6号又は240条1項、2項及び3項の規定から、新株予約権の行使価額を公告に記載する必要があり、ブックビルディング方式により決定するという記載をすることを以って、有価証券届出書の記載事項を満たしているとは認められていない[1][15]。それゆえ、ブックビルディングの結果、行使価額を定めたのち、訂正有価証券届出書又は訂正臨時報告書を提出したうえで、そこから払込期日まで中2週間を開ける必要がある[注 3][1]


脚註

  1. ^ Bookは注文、Buildingは積上げを意味する英語であり、英語圏でも本スキームはBook Building乃至はbookbuildingなどと表記されている[1][2][3]
  2. ^ ローンチから、この価格の決定に至るまでのことをプライシングとも呼び、実際に決定された日をプライシング日と呼ぶ[1]
  3. ^ 株式のIPOやPOの場合、仮条件を記載した訂正有価証券届出書を提出した日から中2週間を経過した日以降に払込期日を設定することができる。[1]
  4. ^ さらに「仮条件の上限価格で取得したいかどうか」や「仮条件の上限価格で公開価格が決定されそうかどうか」というのが、IPOでの配分を希望するか否かの判断基準の一つになっているという実態の存在が日本証券業協会から公表されている[18]
  5. ^ ブックビルディング方式導入以前に用いられていた一部入札方式は、価格決定と取得申込みの両方をまとめて行う仕組みであると同時に、入札額の高い者から優先的に落札できる仕組みであったことから、取得を強く希望する投資家はできるだけ高い価格で入札をするという実態があった[18]。この影響で、一部入札方式で把握された需要動向を基に決定された価格は、流通市場において形成される株価と比較して、相当程度高めとなり、市場流通後の株価が公開価格を割り込む事例が多かったという教訓を踏まえたため、ブックビルディングについて、このような整理がなされている[18]
  6. ^ 証券会社のことを日本証券業協会では、協会員と表記している。[19]
  7. ^ 現在のJASDAQの源流に当たる。
  8. ^ ここで用いるとされた、類似会社比準方式については、「より実勢に近い価格を算定できるように、所要の改善を加えるべき」とする注文が別途付されている[21]
  9. ^ それまでは、配当要素も本方式における価格算定の要素として組み込まれていたが、投資の尺度としての重要性が既に失せていたため算定要素から外し、純資産と利益の2つを算定要素とする形に改善を図っている[6]。これは、前述の『株式公開制度の在り方について-問題点とその改善策―』の内容を受けて改善を図ったものである[6]
  10. ^ IPOにおいて、「個別銘柄ごとの入札申込上限株式数及び入札後配分上限株式数が顧客1人当たり5,000株(5単元)以下で各銘柄ごとに主幹事証券会社が1,000株(1単位)単位で定める数、同一顧客に配分できる回数が一つの年度において4回まで、また時価発行株式については顧客1人当たり10,000株までとする」など一律に具体的な数値基準による配分上限を設定したという制度[18]。この数値基準に反することなく行われた配分の中にも一部の投資家から不公平として問題視される例が現れ、より厳格な規制が求められることになった[18]
  11. ^ その結果として、個人投資家を中心とする入札が行われた結果、企業価値に比べて過度に高い評価を受けた公開価格による落札がなされやすい状況にあることも指摘された[18]

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab 『エクイティファイナンスの理論と実務』(商事法務 鈴木克昌他著 2011年10月25日発行)
  2. ^ 【WSJで学ぶ経済英語】第77回 ブック・ビルディングウォールストリートジャーナル 2013年4月8日06:47配信 2017年2月5日閲覧)
  3. ^ ロードショー(ろーどしょー)ウェブアーカイブ野村證券 証券用語解説集 2017年2月5日確認)
  4. ^ a b c d e ブックビルディングとは何ですか?楽天証券 2017年2月3日確認)
  5. ^ a b c d e f g ブックビルディング(需要申告)とは何ですか? (カブドットコム証券 2017年2月4日閲覧)
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al am an ao ap aq ar as at au av aw ax ay az ba bb bc bd be bf bg bh 会員におけるブックビルディングのあり方等について - 会員におけるブックビルディングのあり方等に関するワーキング・グループ報告書 -  (日本証券業協会 2007年11月21日公表 2017年2月3日確認)
  7. ^ a b c ブックビルディング方式 (ブックビルディングほうしき)SMBC日興証券初めてでもわかりやすい用語集 2017年2月11日確認)
  8. ^ 有価証券上場規程施行規則(東京証券取引所)東京証券取引所 2007年11月1日施行 2017年2月1日確認)
  9. ^ Ⅵ 新規上場時の公募又は売出しについて ウェブアーカイブ東京証券取引所 2019年2月24日確認)
  10. ^ 有価証券の引受け等に関する規則日本証券業協会 1992年5月13日施行 2017年1月31日確認)
  11. ^ a b 株式公開価格の決定日本証券業協会 2017年3月3日確認)
  12. ^ 新規上場ガイドブック マザーズ編ウェブアーカイブ (東京証券取引所上場推進部IPOセンター  2016年8月31日発行)2017年2月11日確認
  13. ^ a b 『「会社法」法令集<第十一版>』81頁~83頁(編集・出版:中央経済社 2015年3月30日)
  14. ^ a b 『新株発行に係る発行価額等の表現と日程の短縮』(旬刊商事法務1611号 森本健一著 2001年発行)
  15. ^ 『判例六法』2017年版
  16. ^ a b c 日本郵政株式会社の株式の処分について財務省財政制度等審議会 2014年6月5日公表 2017年2月1日確認)
  17. ^ a b c d e f g h i j k l m 証券取引審議会総合部会 市場ワーキング・パーティー報告書「信頼できる効率的な取引の枠組み」 大蔵省証券取引審議会総合部会 1997年5月16日公表 2017年2月5日確認
  18. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj 配分ルールのあり方について ~「募集株券等の配分に係る規制のあり方に関する検討分科会」報告書~ (日本証券業協会 2012年1月12日公表  2017年1月22日確認)
  19. ^ 会員名簿 (金融商品取引業者) 2017年2月1日確認
  20. ^ a b 『第9回大蔵省証券局年報(昭和46年版)』
  21. ^ a b c d e f g h i 『株式公開制度の在り方について-問題点とその改善策―』(旧大蔵省取纏めの報告書 1988年発行)
  22. ^ 証券取引審議会・総合部会 論点整理 III.具体的な改革 2.市場=(信頼できる効率的な取引の枠組みの提供)大蔵省 証券取引審議会 1996年11月29日公表 2017年1月25日確認)
  23. ^ 証券取引審議会「店頭特則市場の株式公開制度等の在り方について」(概要)大蔵省)2016年3月20日確認
  24. ^ 『日本の新規公開市場』(著:岡村 秀夫 2013年9月25日発行) 93頁
  25. ^ 日本郵政株式会社の株式の処分について(概要)(平成26年(2014年)6月5日財政制度等審議会答申) 2017年2月5日確認





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ブックビルディング」の関連用語

ブックビルディングのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ブックビルディングのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのブックビルディング (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS