タンポポ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/05 18:51 UTC 版)
名称
属名のタラクサクム属(英語: Taraxacum)は、ギリシャ語を起源とする「苦痛を癒やす」という意味に基づく[2]。別説には、アラビア語で「苦い草」に基づくともいわれている[2]。
和名「タンポポ」の由来は諸説ある。花後の姿が綿球のタンポに似ているので、「タンポ穂」とよばれたとする説[2][3]。花茎を切り出して、その両側を細く切り裂いて水に浸けると反り返り、鼓の形になるので、タン・ポン・ポンという音の連想からという説[3][4]。タンポポが鼓を意味する小児語であったことから[5]、江戸時代にツヅミグサ(鼓草)と呼ばれていたものが、転じて植物もタンポポと呼ばれるようになったとする説がある[5]。日本語では古くはフヂナ、タナと呼ばれていた[5]。地方によっては、カコモコ[6]、クジナ[6]、クズナ[7]、タンホホ[7]、ツヅミグサ[6]、デデポポ[6]、フチナ、フジナ[7][6]、タンポグサなどの方言名がある[2][1]。
英語名のダンディライオン (dandelion) は、フランス語で「ライオンの歯」を意味するダン=ド=リオン (dent-de-lion) に由来し、これはギザギザした葉がライオンの牙を連想させることによる[2][4]。また綿毛の球状の部分を指し、崩れるように散っていく様から、英名ブローボールス(blowball)ともいう[2]。現代のフランス語ではピサンリ (pissenlit) というが、piss-en-litで「ベッドの中のおしっこ」という意味である。これはタンポポに利尿作用があると考えられているためである。
特徴
道ばたや野原、草原に多い多年草で、広く一般によく知られている[3][9]。日当たりの良いところでは、大きな群落をつくって黄色い花が地面を覆い、花後にできた白色の丸い冠毛が風に乗って飛び交う様子が春の風物詩となっている[7]。生命力の強い植物で、アスファルトの裂目から生えることもある。都市部に多いのはセイヨウタンポポである[3]。
地面を草丈は15センチメートル (cm) 内外で、花は一般に黄色であるが、白花もある[3]。50センチメートル以上もの太く長いゴボウのような根を持ち、長いもので1メートル以上にもなる[3][10]。葉は根元から直接放射状に出て生い茂り、細長くギザギザがあり、羽状に裂けるか、不整鋸歯がある[10][1]。茎葉を傷つけると、白い乳液が出る[10][11]。
花期は春(3 - 5月ごろ)で、花茎を出して黄色から白色の頭状花を一つ付け、花茎は分岐しない[10][1]。頭状花は、多くの舌状花が集まってできている[12]。頭状花の基部は、ふつうの花の萼に相当する総苞とよばれる部分に囲まれていて、数多くの総苞外片(総苞片)に包まれている[12]。花が咲き終わると、花茎は一旦倒れ、数日後に再び立ち上がって、花を付けていたときよりも高く伸びる[13]。立ち上がった花茎の先端にできる果実は、綿毛(冠毛)の付いた種子を作り、湿度が低いときに綿毛を球状に展開して、風によって飛び散る[10][13]。
成長点が地面近くに位置するロゼット型の生育型で、茎が非常に短く葉が水平に広がっている。このため、表面の花や茎を刈っても容易に再び生え始める。撹乱の頻発する、他の植物が生きていけないような厳しい環境下で生えていることが多い。
古典園芸植物の一つで、江戸時代幕末には園芸化され、数十の品種があった。種蒔でも根からも繁殖でき、日当たりが良く、水はげが良い場所であれば栽培も容易である[10]。根を長さ1センチメートルほどの長さに切って、土中に埋めておくと発根発芽し、種子でも容易に増殖できる[3]。タンポポに酷似する野草にブタナがある。
花の特徴
花のつくりは非常に進化していて、植物進化の系統では、頂点に立つグループの一つである[2]。
タンポポの種類を問わず、花は朝に開き、夕方に閉じる[13]。雨が降らなければ、花は3日連続して、規則正しく開閉する[13]。舌状花と呼ばれる小さな花が円盤状に集まり、頭花を形成しているため、頭花が一つの花であるかのように見える[4][注釈 1]。舌状花1つに計5つの花びらを付けるが、1つに合着した合弁花冠であるため1つの花びらを付けているように見える。舌状花の中央部は雌蕊が伸び、雄蕊が計5本合着している。舌状花の下端には子房があり、その上部から白い冠毛が生えている[13]。この冠毛は後に発達し、風によって種子を飛散させる役割を担う。
日本における在来種と外来種
日本でよく知られるタンポポには、古来から自生していた在来種(日本タンポポ)と、明治以降に外国から持ち込まれた外来種がある[14](現在は帰化種といわれている)。在来種は外来種に比べ、開花時期が春の短い期間に限られ、種の数も少ない[15]。また、在来種が種子をつくるためには、他の株から花粉を運んでもらって実を結び子孫を増やす必要から、同じ仲間と群生している[16]。一方で外来種は、一年中いつでも花を咲かせ、かつ一個体のみで種子をつくることができるため、在来種に比べて小さな種子をたくさん生産する[14][16]。夏場でも見られるタンポポは概ね外来種のセイヨウタンポポである。
見分け方としては、花の基部を包んでいる緑の部分である総苞片を見てみると、反り返っているものが外来種(図1)で、反り返っていないものが在来種(図2)である[14][13]。在来種は総苞の大きさや形で区別できる。しかし交雑(後述)の結果、雑種タンポポでも総苞片が反り返っているものが多くあり[12]、単純に外見から判断できない個体が存在することが確認されている。
日本における分布は、人間が土地開発を行った地域に外来種が広がり[17]、在来種は年々郊外に追いやられて減少しつつある[14]。より個体数が多く目に付きやすいことから、「セイヨウタンポポが日本古来のタンポポを駆逐してしまった」という印象を持たれるが、実際には誤りであることは、在来種の生き方から理解されている[16]。
セイヨウタンポポは在来種よりも生育可能場所が多く、かつ他の個体と花粉を交雑しなくても種子をつくることができる能力を持っているため繁殖力は高いが[15]、相対的に種子が小さくて芽生えのサイズも小さくなるため、他の植物との競争に不利という弱点を持っている[18]。そのため、他の植物が生えないような都市化した環境では生育できるものの、豊かな自然環境が残るところでは生存が難しくなる[18]。
在来種はセイヨウタンポポよりも種子をつける数が少なくなっても、大きめの種子をつくる戦略を選んでいる[15]。また、風に乗って飛ばされた種子は、地上に落下しても秋になるまで発芽しない性質を持っている[16]。在来種が春しか花を咲かせない理由は、夏草が生い茂る前に花を咲かせて種子を飛ばしてしまい、夏場は自らの葉を枯らして根だけを残した休眠状態(夏眠)になって、秋に再び葉を広げて冬越しするという、日本の自然環境に合わせた生存戦略を持っているからである[18]。
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(図1)外来種の総苞片は、反り返る。
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(図2)在来種の総苞片は、反り返らない。
交雑
在来種の各種とセイヨウタンポポは基本的に別種ではあるが、細胞中の酵素の性質の違い(アイソザイム)を用いた解析では交雑が起こっていることが報告されている。実際に、在来種と外来種も雑種が多いことがわかってきている[12]。
以下の特徴を持つものが見られる。
- 総苞片が一部のみ反り返っている。ただし、シロバナタンポポは元よりこの特徴を持っている。
- 茎の背が低い(在来種の特徴)にもかかわらず、総苞片が反り返っている(外来種の特徴)。
- 開花時までは在来種相当に茎の背が低く、種子を綿毛として飛ばす段階になってセイヨウタンポポ相当まで茎を伸ばす。
注釈
- ^ これは、キク科植物共通の特徴である。
出典
- ^ a b c d e f g 金田初代 2010, p. 12.
- ^ a b c d e f g h 飯泉優 2002, p. 85.
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- ^ a b c 和泉 晃一. “タンポポの語源 小鼓の音階名「タ」と「ポ」に由来する”. 別府街角ウオッチング. 2013年6月28日閲覧。
- ^ a b c d e f g 篠原準八 2008, p. 26.
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- ^ a b Thomas S. C. Li, Ph.D. (2000). MEDICINAL PLANTS. CRC Press. p. 46. ISBN 1-56676-903-5.
- ^ Joseph E. Pizzorno, Michael T. Murray (2013). Textbook of Natural Medicine. ELSEVIER. p. 1055-1056. ISBN 978-1-4377-2333-5
- ^ 「Effect of Dandelion Extracts on the Proliferation of Ovarian Granulosa Cells and Expression of Hormone Receptors」『Chin Med J (Engl)』2018 Jul 20;131(14):1694-1701。
- ^ 「Dandelion T-1 extract up-regulates reproductive hormone receptor expression in mice」『Int J Mol Med』2007 Sep;20(3):287-92。
- ^ a b 篠原準八 2008, p. 27.
- ^ 天然ゴムに全滅の危機?! - NHK
- ^ Richards, A.J. (1997). Dandelions of Great Britain and Ireland (Handbooks for Field Identification). BSBI Publications. p. 330. ISBN 978-0901158253
- ^ 田中修 2007, p. 5.
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