スズムシ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/01 20:25 UTC 版)
形態
体長は17〜25ミリ[1]。頭部は小さく、複眼のみで単眼は退化している。翅は幅広く、瓜の種のような形をしている、羽は2枚と思われがちだが、羽化直後の成虫個体は4枚あり、その後に後脚で後翅を自ら脱落させる。羽化間もない個体は飛ぶこともあり、明かりに集まり、自動販売機の下などで鳴き声が聞かれることもある。なお、長翅型と短翅型があり、飛ぶのは長翅型のみである。飼育を重ねた販売個体は短翅型の割合が多い上、飛翔筋の発達も悪いことが多いため飛ぶことは非常に稀である。夜行性のため触角が長くなっており、触角は白い部分が多く一部は黒い[1]。
スズムシの声は古くから「鳴く虫の王」と呼ばれている[3]。雄の羽は幅が広く脈が発達しており、太い脈の一部はヤスリのようになっていて、羽を垂直に立てて細かく鳴き続ける(独り鳴き)[1][3]。
分布
かつては、秋田県五城目町が日本でのスズムシ群棲地の北限として知られ、県の天然記念物にも指定されていたが、平成の初めから鳴き声が聞こえなくなり、2020年には群棲地の指定が解除された[4]。
生態
成虫は夏に出現し、森林縁またはススキなどの多い暗い茂みの地表に生息する。自然の豊かな農村などでは、田畑の脇の草むらで大きな石やコンクリート片などをひっくり返すと、多数の個体が潜んでいる姿に出会うこともある。他の地表性の種、たとえばエンマコオロギなどに比べ脚が比較的長く、細いため、穴を掘ることはなく物陰に隠れるのみである。
基本的に夜行性であり、昼間は地表の物陰に隠れ、夜に下草の間で鳴き声を上げるが、曇りの日などは昼夜を問わず良く鳴く。雌は産卵管を土中に挿し込み産卵する。
成虫の羽化は7月下旬頃に始まり、9月いっぱいまで鳴き声が聴かれる。10月初旬にはほぼ全ての野生個体が死ぬが、飼育下ではしばしばさらに遅くまで生存する。
食性は雑食性で、野生下では草木の葉や小昆虫の死骸等を食べている。
飼育
飼育は非常に容易で、キュウリやナスを主な餌とし鰹節など動物質(タンパク質)の餌を与えると、共食いも防げる。ジャンプ力はあるが、ガラスやプラスティックは上らないため、ある程度の高さがあればガラス水槽やプラケースなどで飼育できる。赤玉土などを敷いて湿度を保っておくと雌雄がいれば容易に産卵する。翌年まで湿度を保っていると、5月下旬から6月上旬ぐらいに数週間かけて孵化する。地域の気温、飼育場所の温度差により差異もあるが、何回か脱皮をすると早い個体では7月下旬ごろ成虫になる。鳴く虫は秋のイメージがあるが、本種含め本来は比較的暑い時期から鳴き始める。最近ホームセンター等で晩春から初夏にかけて売られている成虫個体は温度管理により羽化を早められたものである。
上記の通り、キュウリやナスはもちろん、カボチャやサツマイモに至るまで食べる。自然界においてはススキやクズの群生地で野生個体を多く見かけられることから、食草は比較的幅広いと推測出来る。
現在では簡単に養殖物が手に入るが、野生のものも全国に分布している。養殖物から逃げたものも多数存在するものと考えられ、遺伝子汚染が進んでいる可能性は否定できない。ただし羽化してまもない新成虫個体は後翅も存在する。またメス個体の場合も腹部の卵巣が未成熟な時期には、産卵時期に比べ体重が軽い。そのため、晩夏から初秋にかけて飛翔していることが確認できる。水銀灯や時には家屋の明かりに来ることもある。このことから近親交配を避け各地の生息域に分散している可能性もある。
- ^ a b c d 福井の生き物情報 スズムシ 福井県、2017年2月6日閲覧。
- ^ 【足立区生物園】スズムシ
- ^ a b 平成25年9月リポート 磐田市、2017年2月6日閲覧。
- ^ 県天然記念物「スズムシ群棲地」 鳴き声消え、指定解除へ 北限の五城目、環境失われ /秋田 | 毎日新聞
- ^ a b c d e f g h i 「虫を聴く文化」梅谷献二 農林水産・食品産業技術振興協会、2017年2月6日閲覧。
- ^ 角田忠信 (1984年6月). “言語脳と音楽脳”. 機関誌36号. 一般社団法人日本音響家協会. 2019年6月30日閲覧。
- ^ a b 柏田雄三 (2017年1月31日). “エッセイ 楽しい“虫音楽”の世界(その18 鳴く虫を愛でるのは日本人だけ?)” (PDF). 植物防疫 第71巻 第2号. 日本植物防疫協会. 2019年6月30日閲覧。
- ^ “日本人にとって虫の音は貴族の風流な遊びだった”. ウェザーニュース (2018年10月24日). 2019年6月30日閲覧。
- ^ 東京年中行事第1巻(若月紫蘭著 平凡社)
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