サウナ
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日本のサウナ文化
日本初のフィンランド式サウナ
1792年、北海道根室の海岸に日本で初めてのフィンランド式サウナが造られた。背景としては廻船問屋船頭の大黒屋光太夫一行が乗った船は江戸に向かう途中で漂流し、当時ロシア領であったアリューシャン列島のアムチトカ島に漂着したことがきっかけである。光太夫一行は苦難の末フィンランド出身の博物学者キリル・ラクスマンと出会い、キリルらの尽力によりツァールスコエ・セローにてエカチェリーナ2世に謁見し帰国を許される。漂流民の返還と日本との通商を目的とした遣日使節アダム・ラクスマン(キリルの次男)に伴われ1792年根室に上陸するが日本は鎖国中であり、アダムは手続きのため根室の海岸で一冬を超すことを余儀なくされた。アダムと光太夫一行はそこで日本初となるフィンランド式サウナを海岸に建て、寒さと孤独を凌いだとされている[42][43]。
日本への普及
許斐氏利が1951年に開業した銀座の東京温泉で初めて公衆サウナが取り入れられた。許斐が1956年メルボルンオリンピックに選手として出場した際にフィンランドの選手が持ち込んだスチームサウナにヒントを得て、1961年にサウナを開設している[44]。ただし当時フィンランド式のサウナ建築の知識や技術がなく、サウナ室の壁や床に蒸気配管を張りめぐらせて、そこに蒸気を通して部屋を暖めたというオリジナルのものだった。
第1次サウナブーム
全国的に普及し始めたのは1964年東京オリンピック後、前述のベルリンオリンピック同様にフィンランド選手団が選手村にサウナを持ち込み注目を集めた[45]。1966年に中山産業(株式会社メトス)が渋谷のスカンジナビアクラブにてフィンランド式のサウナが設置された。フィンランドから設計図を仕入れ作られたが、カランやお風呂など日本風の設備も併せて設置された。ロウリュウも当時から出来るようになっていたが、誤った使い方での火傷が多発し、施設側にもフィンランド式サウナの知識がなかったため1971年頃には無くなった。サウナの設置は増加し続け、1971年には都内だけで440件のサウナがあり、銭湯のサウナ設置も1969年には埼玉県内に銭湯が380軒あり、そのうちの50軒にはサウナが設置されていた[46]。銭湯のサウナ設置急増は高度経済成長に入り家庭用風呂が普及したため、不振にあえぐ銭湯が家庭にはないサウナを取り入れていったためである。大型ホテル・旅館の共同浴場、カプセルホテル、スポーツクラブやゴルフ場など風呂を持つ施設の付帯設備としても、広まっていった。もともとある入浴文化のついでに少しサウナも楽しむことが好まれ、短時間で発汗出来る高温低湿度の乾式サウナが主流となった[47]。銭湯を除き大半が男性専用施設であったこと、中高年男性の利用が多いゴルフ場のクラブハウスやカプセルホテルに併設されることが多かったため「サウナ=おじさん」「中高年の楽園」といったイメージがあった[48][49]。
1973年、オイルショックの影響でサウナブームは打撃を受ける。正確なデータはないが、全国で4000件近くあったサウナ施設が半減したと言われている[50]。
第2次サウナブーム
1990年代からの健康ランド、スーパー銭湯、日帰り温泉などの温浴施設ブームと重複してサウナが増加する。費用が安く・距離が近く・日程が短い「安・近・短」のレジャー施設としての需要にマッチし、参入障壁が比較的低いこともあり遊休地の活用ビジネスとしてブームとなった[51]。温浴施設は「お風呂+α」のシンプルな構造であり、多様なサービスを合わせることで付加価値を高めていった。温浴施設開発が一巡し、話題性が低下し始めた2000年代に入ってからは岩盤浴ブームが起こり、既存の温浴施設に次々と導入されていく。韓国のチムジルバンの黄土サウナや麦飯石サウナ、専用の服を着用したまま入浴する共通点から汗蒸幕も併設されるようになる。温活や発汗によるデトックス効果が注目され女性に普及する[52]。アウフグースも行われ始め、マッサージ、熱した薬草や香油の薫りを浴びさせるアロマテラピー、理髪店、漫画・雑誌やテレビ付きのリクライニングシートの設置、カラオケ、食堂やフードコート・BARなどの飲食スペース、美容サービスなどと組み合わせた施設もある。
第3次サウナブーム
サウナブームのきっかけ
2009年ごろのSNSブームを受け、サウナー同士がつながりサウナへの知識や入り方、ととのうといった概念が広く共有されるようになる。その中には後のサウナ大使となるタナカカツキも含まれており「サ道」のエッセイが生まれるきっかけともなる。2011年には書籍化、2016年には漫画化され、サウナに興味がなかった人たちに広めるツールとして「サ道」が活用される。サウナ施設側もSNSブームの影響を受ける。それまでサウナの知識がなかった管理人やオーナーがSNSを通じてサウナ愛好家の要望を拾い上げ、フィンランド式サウナへの更新や店づくりに活かされるようになった[53]。
2017年には、日本最大のサウナ検索サイトの「サウナイキタイ」が立ち上がり、サウナ情報を調べることが容易となった[54]。
2019年になると「サ道」がドラマ化され直接的なサウナブームのきっかけとなる。特にドラマの中で取り上げられた「ととのう」という言葉がサウナブームを牽引することになる。
ブームの拡大
サウナそのものの効能と熱狂的なファンの増加
サウナでしか得られない「ととのう」体験、リラックス効果やストレス解消効果がある。ストレス・情報社会とサウナの「デジタルデトックス」「マインドフルネス」「疲労回復」などの要素と結びつきやすい。サウナでの非日常体験は熱狂的なファンを増やした[55]。
メディアやインターネットを通じた情報の共有
漫画やテレビドラマ、YouTubeなどの各種メディア、サウナ好きな芸能人、著名人などのインフルエンサーによってサウナ関連のポジティブな情報が広がったことでサウナ体験のハードルが下がり若者や女性の利用が増加した。熱量の高いユーザーのSNSでのサウナアカウント活発化やサウナ情報ポータルサイトのリリースにより、情報がスムーズに手に入るようになったこともブームを支えている[55][56]。
今までのパーセプションからの変化
「熱く、辛く苦しいもの・男性のもの」といったイメージから「気持ち良い、怖くない、マインドフルネス的要素」などが取り上げられるようになり、温浴施設も「北欧、おしゃれ、デトックス」といった新しいイメージの施設が増加しており、それらが新規ユーザーや若者や女性の利用が増加した要因の1つとなっている。
若いユーザーが中心となりサウナグッズや独特の用語などが発生し、フィンランド等のサウナ文化の紹介などもされるようになった。一種の新興サブカルチャー化したことで「サウナ好き」であることが「文化・スタイル」化した[55][57]。
温浴事業者・提供者のサウナ注力、新規参入
サウナが注目を受けていることを背景に、今まで温浴施設のおまけであったサウナや水風呂をアピールすることで集客が向上した。さらにアウトドアサウナや個室のプライベートサウナ、会員制サウナなど新しいジャンルのサウナも登場する。大きな風呂を設置しない個室サウナや、アウトドアサウナはコストが低く開業可能であり、サウナ施設の新規開業で台頭し始める[55]。
全国にある公共のサウナの総数は、サウナ検索サイトのサウナイキタイには1万件以上の施設が登録されている[58]。銭湯文化が根づいているため、公共のサウナ施設数は世界に類を見ないほど多くなっている[59]。日本サウナ総研による2021年の日本のサウナ実態調査では月1回以上月4回未満利用の「ミドルサウナー」は523万人、月4回以上サウナを利用する「ヘビーサウナー」は339万人である[60]。
日本のサウナ大使はマンガ家のタナカカツキである。長嶋茂雄は2000年に日本サウナ・スパ協会(当時は社団法人日本サウナ協会)の日本サウナ文化賞を受賞[61]しているが、サウナ大使ではない。
ととのう
「ととのう」とはサウナ愛好家のブロガー・濡れ頭巾ちゃんが提唱した、サウナ入浴後の多幸感を言語化した用語で、当初は「整う」と漢字表記であった[62]。ととのうが現れるまで、この状態は恍惚、サウナトランス、ニルヴァーナ(涅槃)などと呼ばれていた。タナカカツキがSNSでととのうという言葉を見つけ、自身の作品である『サ道』でピックアップした[63]。
日本サウナ学会の加藤容崇は、医学的にととのいとは「血中には興奮状態の時に出るアドレナリンが残っているのに、自律神経はリラックス状態の副交感神経優位になっている稀有な状態」としている。「サウナ→水風呂→外気浴」を繰り返すことで普段では得られない副交感神経優位となり、アドレナリンやノルアドレナリン、エンドルフィンも短い時間であるが共存している。外気浴中は体はリラックスしているが頭は冴えて多幸感に包まれている状態となると著書で説明している[21]。
フィンランド語や英語ではサウナ後の多幸感を表す言葉は無く、日本生まれのサウナ用語として紹介されている「まるで天然の麻薬のような、サウナがもたらす多幸感やリフレッシュした気分を意味する」と、フィンランドの公共放送ニュースで紹介されたのは、日本で生まれたサウナ用語、“ととのう(TOTONOU)”だ[64]。
ユーキャン新語・流行語大賞2021にととのうがノミネートされる[65]。
サウナの日(3月7日)
公益社団法人サウナ・スパ協会が、1984年に語呂合わせでサウナの日として、3月7日を日本記念日協会に登録した。
ととのえの日(11月11日)
サウナー専門ブランド「TTNE PRO SAUNNER」を運営するTTNE株式会社がサウナでの「ととのえ」体験を通して健やかに過ごしてもらうことが目的で、「1」がきれいに4つ並び1年でいちばんととのった日と思われる11月11日を日本記念日協会に登録した[66]。
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