アスペルガー症候群
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アスペルガー症候群と触法行為との関係
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アスペルガー症候群を抱えている人物の犯罪率について、健常者よりも高いと報告する調査報告とほぼ同等であるという調査報告があり、結論の一致をみていない[61]。現在の精神医学界ではアスペルガー症候群や広汎性発達障害など発達障害そのものが触法行為の原因になると考える見解よりも、その人物を巡る周囲環境との相互作用の結果として触法行為に至ったと考える見解が優位になっている[62]。
岩波明によれば、発達障害の定義のあいまいさや無理解を巡る問題も見解が分かれる理由の一つであり、何らかの精神疾患を抱える被疑者がたとえ統合失調症のような症状を示していても精神鑑定で「発達障害」と安易に診断したり、発達障害を抱える被告人が裁判でその場の空気を上手く読めないがために、自分に有利になる弁明やジェスチャーを行えず「反省の情がない」と裁判官に受け止められ有罪判決や実刑判決を受けることが多いという[63]。
アスペルガー症候群と犯罪との関係をマスコミがセンセーショナルに報じていることも、それと犯罪との関係性の見方に影響を及ぼしている。小学生の女児が同級生を殺害した佐世保小6女児同級生殺害事件では加害者がアスペルガー症候群とされマスコミに大々的に報じられた。作家の森達也は「子供が子供を殺したのか。だから?」と述べて、ことのほか騒ぎ立てるマスコミの報道のあり方のほうに疑問を呈した[64]。昭和(終戦から高度成長期)の頃は小学生も含めた未成年者による殺人が年間約300件から400件ほど発生しており、さほど珍しいことではなかったが、平成年間に入ってそれが沈静化した頃にこの事件が発生したので、「加害者が抱えるアスペルガー症候群に起因する異常な事件」と捉える心理バイアス(大衆心理)が強く働いたと岩波明は考えている[64]。
ASDの犯罪率は健常者より高率とする見解
社会学者の井出草平は、家庭裁判所に送致される少年犯罪の中でアスペルガー症候群が占める割合を調べたデータとDSM-5に掲載されている有病率を基にして、アスペルガー症候群の犯罪親和性を求めた[65]。それによるとアスペルガー症候群の犯罪親和性は5.6倍で、ADHDの1.1倍や知的障害の2.2倍に比べて高いことがわかったとする[65]。また、井出は家庭裁判所の医務室技官だった児童精神科医の崎濱盛三による調査[66]を利用して同様にして、アスペルガー症候群の犯罪親和性を求めた[67]。その結果、アスペルガー症候群の確診での犯罪親和性は12.6倍、疑診も含めると28.6倍となったという[67]。さらに井出によると、スウェーデンの研究ではスウェーデンの犯罪の背景に少なくとも13%ほど広汎性発達障害が関係していると結論付けており[68]、そのデータから犯罪親和性を求めると犯罪親和性は10倍以上あったことがわかったという[69][70]。
アメリカで行われた研究では、アスペルガー症候群と診断されていた青年たちは、一般比較群の犯罪者に比べて対人犯罪は2倍程度高く、内訳は対人暴力や学校における妨害行為が多かったが、財産犯や謹慎処分を受けた暴力は少なかったという報告がある[71]。児童精神科医の清水康夫らが研究した児童の他害行為において、アスペルガー症候群の児童は、他害行為において「たたく」、「ものを投げる」、「蹴る」、「人を突き飛ばす」などの項目が一般保育園児童と比べて頻度が高かったという[72]。
精神科医の市川宏伸らによると、都立梅ヶ丘病院に通院歴のある自閉症スペクトラム障害(広汎性発達障害)の者で、計18件の触法行為が認められた13の症例について、18件の触法行為の内11件が医療機関の受診後になされていて、触法行為後に入院することになった5件の触法行為の後に4件で再犯が認められた[73]。精神科医の山崎晃資らによる研究報告書では、アスペルガー症候群(広汎性発達障害者)の触法行為は、アスペルガー症候群(広汎性発達障害)それ自体、あるいは知能の低さから触法行為が生じていると考えられ、薬物療法による改善は期待されにくいとされた[74]。
ASDの犯罪率は健常者と同等程度とする見解
藤川洋子は、未成年者の犯罪では広汎性発達障害やADHDを抱える児童の触法率がやや上回っているとしている[75]。
加藤進昌は、アスペルガー症候群の人物の触法は、対人コミュニケーションスキルの不足から当人が世の中の仕組みをよく理解できていないことによって軽微な犯罪が引き起こされてしまったケースがほとんどであると述べている[76]。
高橋智は、「発達障害が直接の原因になるわけではないものの、発達障害の無理解・誤解・放置・いじめ等の不適応な対応の結果として、非行・触法行為・犯罪行為につながっている可能性を十分に考慮する必要がある」と指摘している[77][78]。
守谷賢二(淑徳大学)は、触法に至る「真の危険因子は、発達障害ではなく発達障害を取り巻く社会の障壁であり、二次障害に至らせる配慮なき社会の在り方」としている[79]。
社会活動家で元衆議院議員の山本譲司は、自身が政治資金規正法違反で逮捕され服役していたころの体験をもとに、著書『累犯障害者』で社会福祉制度の不十分さによって精神障害者が刑務所で多数を占め、福祉の代替施設のようになっていることを報告した。山本は自著についてのインタビューで「知的障害者や発達障害のある受刑者のほとんどが、福祉や家族から見放され、挙げ句、何日も食事がとれないほどの困窮状態におちいり、窃盗や無銭飲食などに手を染めることになっている」「重い罪を犯した人の場合は、社会に蔓延する同調圧力に耐えられず、空気が読めないと虐げられ続けてきた辛さが、何らかの刺激によって犯罪に結びついている」「障害があるからといって、罪を犯しやすいというわけでは決してない」と述べた[80]。山本によれば、障害を抱えた受刑者の多くは実社会での差別から逃れるために刑務所に故意に入所したり留まったりすることを望む人物が多く[81]、裁判官も精神疾患を抱えた被告人に対する同情から、三食を提供される刑務所に入った方が本人のためだろうと考えて実刑判決を下すことが多いという[82]。山本は泉房穂らと共に精神疾患を抱えた出所者の福祉のあり方を問う研究委員会を発足させた。明石市長に就任した泉は精神疾患を抱えた出所者を支援する行政部署を設置し、また「明石市更生支援及び再犯防止等に関する条例」を制定した[83]。
世間の注目を集めた事件
アスペルガー症候群が初めに大きく取り上げられたのは、2000年(平成12年)の豊川市主婦殺人事件である。昭和大学教授の加藤進昌は「近年は調書漏洩事件を含め、アスペルガーの診断がやや安易に乱発されている。ただし、アスペルガー障害が犯罪に直結するというような理解は誤りであり、いくつかの動機が理解しがたい「突き抜けた」犯罪で、その障害特性との関連が注目されるという意味である。」と指摘している[84]。
以下が、加害者がアスペルガー症候群として報じられ、日本で大きな注目を集めた殺人事件である。
- 2003年7月1日 長崎男児誘拐殺人事件[85]
- 加害者の補導後、加害者がアスペルガー症候群との診断を受けたことから、西日本新聞は、「加害少年は自閉症」と1面トップで報道した。これに対し、日本自閉症協会は、「自閉症に対する偏見を助長しかねない」「自閉症と事件に因果関係はない」と抗議声明を発表。特に全国にあるアスペルガー症候群の子をもつ保護者の会の反発は強く、各報道機関に「アスペルガーという名称を使用しないでほしい」と要望する出来事まで起きた。一方、アスペルガー症候群への理解を深めるための本が出版されたり、「自分はアスペルガー症候群」と名乗る人が出たりして、社会的な関心が広まったという側面もある。
- 2004年6月1日 佐世保小6女児同級生殺害事件[86]
- 2011年7月25日 平野区市営住宅殺人事件[87]
- 平野区市営住宅殺人事件において姉を殺害したとして殺人罪で起訴された、アスペルガー症候群を持った男性被告について、2012年7月30日に大阪地裁の判決は、被告にはアスペルガー症候群が見られ、その影響下で起こされた事件であることは認めつつも、母親ら親族が被告との同居を断っており、出所しても社会に受け皿がないとして、「再犯の恐れがあり、許される限り内省を長期にわたり深めさせることが社会秩序のためになる」として、殺人罪の有期刑の上限であり求刑よりも重い懲役20年とした[88]。
- この判決に対し「共生社会を創る愛の基金」は、「アスペルガー症候群についての認識に重大な誤りがあり、発達障害者の矯正に結びつかない」、「『危険な障害者は閉じ込めておけ』との思想に基づいた判決で、隔離の論理に基づいている」と批判した[89]。この事件の法廷は裁判員裁判であり、発達障害(者)への差別・無理解・偏見といった「市民感覚」によって裁判の結果が左右され得る点についての疑義が呈された[90]。
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- 1 アスペルガー症候群とは
- 2 アスペルガー症候群の概要
- 3 定義
- 4 診断
- 5 援助の方針
- 6 疫学
- 7 アスペルガー症候群と触法行為との関係
- 8 著名人・関連作品
- 9 脚注
アスペルガー症候群と同じ種類の言葉
固有名詞の分類
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