アスペルガー症候群
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援助の方針
アスペルガー症候群は、特定の分野については驚異的なまでの集中力と知識を持ち、「空気を読む」行為が苦手、細かい部分にこだわる、感情表現が困難といった特徴を持つ。新聞のスポーツ欄にある野球選手の打率を毎日覚えてしまうなどの驚異的な記憶力を示すこともあるが[37]、「電話をかけながらメモが取れない」「券売機で切符が買えない」など一般人ができる普通の行為ができない障害を持つこともある。コミュニケーションの特異性(空気を読むことができない、会話が一方通行になりがち、あいまいな指示が理解できない、白黒はっきりつけたがる、一般人の持つ常識が備わっていない)、同時並行に複数の業務をこなすことができない、急な変更にうまく対応できない、細部に注意が集中し全体像把握が苦手等のためである。以上の性質からアスペルガー症候群を持つ成人は、接客やチームワークを必要とする仕事には元来向いていない。アメリカの大部分の調査結果によると、アスペルガー症候群の成人の75-80%はフルタイムの仕事に就いていない[38]。アスペルガー症候群を持つ成人に必要な職場での支援は、スケジュールや手順を明示する、指示代名詞を使わない、複数のことを同時に頼まない、ジョブコーチをつけるなどである。
アスペルガー症候群の人は、現代社会に対し、非常に適応しにくい困難さをかかえている。あちこちで衝突が起こり、引きこもりになっていることも少なくない。自分自身に強いコンプレックスを抱え、二次障害でうつ病を発病したり、自殺志願を持つ人も決して少なくない。そういうアスペルガー症候群の人に援助をする必要が急がれている。発達障害者支援センターなどをはじめ、少しでもアスペルガー症候群の人が社会で暮らしやすいよう、地域活動支援センターやデイケアなどの設備を整える必要が早急に問われている。最も必要なことがこの障害を理解し、受け入れる環境的素地を作り上げることである。
2019年現在、関連書籍が多数発売されたり、主にNHKでアスペルガー症候群についての番組や特集が組まれることが増え、社会認知はある程度は進んだと言える。しかしながら、身体障害やダウン症候群など、目に見える障害ではなく、またアスペルガー症候群の人と実際に話してみても、障害を持っている人間とはわからない場合も多く、外見もごくごく普通であることがほとんどなので、自らカミングアウトしない限り、「変わり者」程度の認識しか持たれないケースが多く、これが障害を抱える本人にとっての苦痛になっている。他人とのコミュニケーション能力の障害ゆえ、対人関係での衝突や確執が多く生まれることがあり、これもまた障害を持つ本人に苦痛を与える大きな要因となっている。相手が理解をしてくれない限り「変な奴」と見られ、いじめの対象になったり、周りから嫌われたり、仕事上の足手まといのような存在に思われることもあり、非常に難しい障害であると言える。また、場合によっては本人が、障害そのものに大変なコンプレックスを抱いていることもある。それゆえに定型発達者と同じように、無理矢理外に出ようとすることもある。 当然ながらこれは、自分自身を肉体的・精神的に追い詰めることでもあるため、場合によっては、それがうつ病などの二次障害を発症する原因になってしまう可能性もある。
大きな問題は、この障害に対する福祉制度がまだ未熟であることにある。2005年に発達障害者支援法が制定され、障害者自立支援法に発達障害も範疇に入ることが2010年代に入って決められた。また、アスペルガー症候群の人も精神障害者保健福祉手帳を持てることにはなっているが(自治体の裁量で持てない場合もある。発行基準は一元化されていない)、働くことや他人との関わりに困難を抱えている人は多い。ただ、行政の側でも発達障害を持つ人を雇った企業へ助成金を支給するなどの取り組みは行なわれている。しかし、働く意欲のあるアスペルガー症候群の人が、対人関係や精神衛生上の問題をクリアした上で就労できる時代にはまだなっていない。
アスペルガー症候群を持つ人に対する支援の成否は人によって異なる。例えば、「この人にはこう支援して人生がうまくいくようになった」というケースがあった場合でも、それが他のアスペルガーの人に当てはまるとは限らない。人によってどういったところにハンデがあるかは千差万別だからである[39]。「障害」だからと一律に皆を福祉で養おうとすると、働く意欲や、労働の中での他者との良好な人間関係や、収入など、実りある人生の可能性を奪ってしまう場合もあり得る。発達障害を抱えながらも、周囲のサポートを得て一般企業で働いている人たちは多い[40]。しかし、働きたいのに働けない人、またつまずくのが怖くて社会に出られない人も多くいる。その人その人に合ったきめ細やかな対応、社会の中での居場所の確保が求められている[41]。
アスペルガ-症候群が苦手とされる職業は、接客業、とっさの対応が大切な業務、様々な作業を担当する事務、コミュニケーションが大事な仕事、などの、人の心を理解し、器用で効率よく場の空気を読んで、想像力を働かせ、臨機応変な対応をする業務が苦手とされる[42]。
ICD-10 の F80 から F89, F90 から F98 に 当たる発達障害が精神障害の一部として制度上併記され、市町村の保健所などで、専門医による診断書を提出の上で、症状や他の発達障害・疾患との合併など総合的な状態を熟慮し精神保健福祉手帳が交付されるケースが近年増加してきたが、保健所で所定の書式による診断書の提出で、障害者サービス受給者証、もしくは自立支援医療受給者証の交付も行われており、これにより一般的な障害者福祉サービス(家事援助、行動援護など)を受けることができる。障害者福祉サービスには就労移行支援の利用も含まれ、就労移行支援訓練所を利用することにより原則2年間まで職業訓練を受けることができる。利用に当たっては、障害者サービス受給者証、自立支援医療受給者証、精神保健福祉手帳のいずれかが必要である。
また、金銭面の管理が極めて難しく、社会生活に支障をきたしている場合、判断能力が十分でない人が地域で自立した生活を送るための日常生活自立支援事業における、各地の社会福祉協議会が行う援助事業サービスに「権利擁護」があり、利用者はそれぞれ、以下の必要な援助を受けるための契約を協議会と結ぶ。福祉サービスの利用援助、苦情解決制度の利用援助、住宅改造、住居の貸借、日常生活上の消費契約や住民票の届出ほか行政手続に関する援助など、日常的なお金の管理(預金の払い戻し・解約・預け入れなど)金銭管理などの権利擁護の制度を使用するケースもある。これらの福祉サービスは、他の発達障害においても診断の上で関係機関に申請し、認定されれば利用できるのは同様である。
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