RTGSドルとは? わかりやすく解説

RTGSドル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/28 01:20 UTC 版)

RTGSドル
Real Time Gross Settlement dollar
(Zimbabwean dollar)
ISO 4217
コード
ZWL
中央銀行 ジンバブエ準備銀行
 ウェブサイト www.rbz.co.zw
使用開始日 2019年2月25日 (6年前) (2019-02-25)
 情報源 [1]
使用
国・地域
 ジンバブエ
インフレ率 55.34%
 情報源 RBZ, 2024年3月
 指数 CPI
補助単位
1100 セント
通貨記号 $
セント ¢
通称 Zimdollar, Zollar
硬貨
 流通は稀 1¢, 5¢, 10¢, 25¢, 50¢, $1, $2
紙幣
 広く流通 $10, $20, $50, $100
 流通は稀 $2, $5[2]
紙幣製造
硬貨鋳造 South African Mint
このinfoboxは、通貨が変更される直前の値を示している。

RTGSドル (RTGS dollar) は、2019年6月から2024年4月まで流通していたジンバブエ通貨である。2019年11月までは唯一の公式通貨であった。RTGSは即時グロス決済 (Real Time Gross Settlement) の略称である。ジンダラー (Zimdollar)[3]ゾラー (zollar)[4]とも呼ばれる。また日本の外務省ジンバブエ・ドルと紹介し、これまでの通貨との連続性を強調している[5]

2019年2月21日にジンバブエ準備銀行英語版総裁ジョン・マングディヤ英語版によって制定された金融政策の一環として導入された[6][7]。この通貨は債券硬貨、債券紙幣、RTGS残高で構成される[8]。当初の債券紙幣(ジンバブエ債券英語版)は、当時の米ドルの現金不足を緩和するために2016年に導入されたものである。2019年にはRTGSドルと改名され、2019年6月にはマルチカレンシー制度に代わってジンバブエで唯一の合法通貨となった[9]

RTGSドルのインフレ率が300%を超えた2019年10月29日、中央銀行は2019年11月中旬に導入される「新しい」通貨を発表した[10][11]。この「新しい」通貨は当初、RTGSドルと並んで取引され、同等の価値とされていたが、RTGSドルのような裏付けはなかった[11][12]

2024年4月6日、新通貨としてに裏付けされたジンバブエ・ゴールド(ZiG)が発表され、4月8日より導入されたことで通貨としての役目を終え[13][14]、4月29日限りで交換も停止され失効した。RGTSドルのインフレ率は2023年に3桁まで上昇した後、2024年3月時点では55%まで下がったものの、過去1年間で対米ドルで価値のほぼ100パーセントを失った。追跡業者のジム・プライス・チェックによると、新通貨発表時点の米ドルとの為替レートは公式では約3万ドル、闇市場では4万ドルと推定されていた[15]

目的

この通貨の目的は他の通貨と同様に、以下のようなものである。

  • 商品やサービスの価格設定英語版
  • 借金の計上
  • 会計
  • 国内取引の決済[16]

しかし、RTGSドルの中心的な目的は、ジンバブエが直面している経済的・金融的課題に対処することであり、特に政府が保有している外貨の相対的な不足に対処することであった[9]。公式には以下のものが含まれている。

  • 外貨市場の正常化
  • ディアスポラ送金の促進
  • 外国人投資家の保護
  • 輸出の促進
  • 外貨によってのみ行われる価格設定からの国民の保護

価値

公式には当初、1米ドル=2.50RTGSドル(1RTGSドル=0.40米ドル)とされていたが、オープン市場ではそうではなく、2019年上半期には 1米ドル=7RTGSドル から 1米ドル=13RTGSドル の間で変動した[17][18][19][20]。2020年3月までに、1米ドル=25RTGSドル でペッグする試みが行われたが[21]インフレーションは継続しており、この試みは断念された[22][23]

2020年7月期の年間インフレ率は、ジンバブエ国家統計局英語版(ZIMSTAT) の報告によれば837.53%だった[24]

為替レートは、RTGSドルの発表に伴いジンバブエ準備銀行が設置したオークション市場での需要と供給の力によって決定される。この市場は銀行間外貨両替市場と呼ばれ、銀行と外貨両替店で構成されている[25]

紙幣と硬貨

2014年、ジンバブエボンドコイン(債券硬貨)として1, 5, 10, 25, 50セント硬貨が発行された。2016年には1ドル硬貨が、2018年には2ドル硬貨が発行された。

これらの硬貨は、材質については、1セントがメッキ鋼鉄、5, 10セントが黄銅メッキ鋼鉄、25, 50セントがニッケルメッキ鋼鉄、1ドルが外周黄銅・内側ニッケルのメッキによる鋼鉄(外見上バイメタル貨)、2ドルが外周黄銅、内側アルミニウム青銅のメッキによる鋼鉄(同じく外見上バイメタル貨)となっていたが、インフレの進行に伴い次第に使用されなくなった。

2016年、ジンバブエボンドノート(債券硬貨)として2, 5ドル紙幣が発行され、これらは2019年にRTGSドル紙幣に置き換えられた。2020年にはRTGSドルとして10, 20, 50, 100ドル紙幣が発行された。

これらのジンバブエボンドノート及びRTGSドル紙幣については、表面にバランシング・ロックス(重なる3つの岩)がデザインされていたが、これもインフレの進行に伴い、2, 5ドル紙幣は使用されなくなっていった。

他の通貨

2019年2月にRTGSドルが導入された時点で、ジンバブエでは米ドル南アフリカランド中国人民元などの外貨が混在して使用されていた[26]。2019年6月には、新たな国家通貨の導入計画の一環として、現地取引における外貨の使用が禁止された[9]

しかし、インフレーションで現物紙幣の不足が生じ、2020年3月に再び米ドルの現地使用が認められた[27]。政府は、現地取引での米ドルの使用許可は一時的なものに過ぎないとしている[28]が、2020年6月にはすでにジンバブエの公務員の中には、ハイパーインフレーションの影響で、給料の支払いを米ドルで要求する者も出てきていた[22]。2021年にはインフレ率が350%を超えた[29]

脚注

  1. ^ Winning, Alexander (2019年2月25日). “Analysis: Zimbabwe struggles to convince doubters as it launches new currency”. Thomson Reuters Foundation. Reuters (London: Thomson Reuters). オリジナルの2019年5月2日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20190502040309/https://news.trust.org/item/20190224225459-jm22e 2022年12月12日閲覧。 
  2. ^ RBZ Announces Imminent Introduction Of $100 Banknote”. Pindula News. Pindula (2022年4月6日). 2022年4月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年12月10日閲覧。
  3. ^ Muronzi, Chris (2019年7月3日). “Hyperinflation trauma: Zimbabweans' uneasy new dollar”. Al Jazeera. https://www.aljazeera.com/ajimpact/hyperinflation-trauma-zimbabweans-uneasy-dollar-190702223340179.html 
  4. ^ “Zimbabwe struggles to keep its fledgling currency alive”. The Economist. (23 May 2019). https://www.economist.com/finance-and-economics/2019/05/23/zimbabwe-struggles-to-keep-its-fledgling-currency-alive. 
  5. ^ ジンバブエ共和国 > 経済”. 外務省 (2021年5月24日). 2022年2月21日閲覧。
  6. ^ Chaparadza, Alvine (2018年10月1日). “Banks Given Two Weeks To Separate Nostro US Dollar Accounts And Local RTGS/Bond Accounts”. Techzim. 2019年5月6日閲覧。
  7. ^ “Does Zimbabwe have a new currency?”. (2019年2月26日). https://www.bbc.com/news/world-africa-47361572 2019年5月6日閲覧。 
  8. ^ Reporter, Staff (2019年2月20日). “RBZ introduces "RTGS Dollars"”. The Zimbabwe Mail. 2019年5月6日閲覧。
  9. ^ a b c “Why Zimbabwe has banned foreign currencies”. BBC News. (2019年6月26日). https://www.bbc.com/news/world-africa-48757080 
  10. ^ Nyoka, Shingai (2019年10月29日). “Zimbabwe to roll out new bank notes”. BBC News. https://www.bbc.com/news/business-46985441 
  11. ^ a b Muronzi, Chris (2019年10月29日). “Zimbabwe is getting another 'new' currency”. Al Jazeera. オリジナルの2019年10月30日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20191030010135/https://www.aljazeera.com/ajimpact/zimbabwe-currency-191029204042086.html 
  12. ^ Is it a new currency or new notes? What does this mean?”. Zimbabwe: Market Watch (2019年11月1日). 2019年11月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年8月18日閲覧。
  13. ^ Zimbabwe launches new gold-backed currency - ZiG”. BBC (2024年4月6日). 2024年4月6日閲覧。
  14. ^ 新通貨ジンバブエ・ゴールド、波乱のスタート 旧通貨は無価値に”. AFP通信社 (2024年4月10日). 2024年4月22日閲覧。
  15. ^ Zimbabwe launches new gold-backed currency”. フランス24 (2024年4月5日). 2024年4月6日閲覧。
  16. ^ Monetary Policy Statement: Establishment of an Inter-bank Foreign Exchange Market to Restore Competitiveness”. Reserve Bank of Zimbabwe. 2019年5月6日閲覧。
  17. ^ Stoddard, Ed (2019年7月1日). “Zimbabwe takes a big gamble in its bid to dump the greenback”. Business Maverick. オリジナルの2019年7月3日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20190703195638/https://www.dailymaverick.co.za/article/2019-07-01-zimbabwe-takes-a-big-gamble-in-its-bid-to-dump-the-greenback/ 
  18. ^ Zwinoira, Tatira (2019年3月22日). “RTGS$ weakens 16% in first month”. 2019年3月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年8月18日閲覧。
  19. ^ “RTGS dollar plunges by 140%”. NewsDay (Zimbabwe). (2019年6月12日). オリジナルの2019年6月13日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20190613130130/https://www.newsday.co.zw/2019/06/rtgs-dollar-plunges-by-140/ 
  20. ^ Latham, Brian (2019年6月4日). “Zimbabwe's Quasi-Currency Continues on Its Precipitous Slide”. Bloomberg. オリジナルの2019年9月4日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20190904214450/https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-06-04/zimbabwe-s-quasi-currency-continues-on-its-precipitous-slide 
  21. ^ Stoddard, Ed (2020年3月30日). “Zimbabwe brings back US dollar peg for fictional currency”. The Daily Maverick. オリジナルの2020年3月31日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20200331114556/https://www.dailymaverick.co.za/article/2020-03-30-zimbabwe-brings-back-us-dollar-peg-for-fictional-currency/ 
  22. ^ a b Ndlovu, Ray (2020年7月14日). “Zimbabwe Steps Closer to Hyperinflation With 737.3% Annual Rate”. Bloomberg. オリジナルの2020年7月14日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20200714135155/https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-07-14/zimbabwe-continues-its-march-back-to-hyperinflation 
  23. ^ “Zimbabwe’s worst economic crisis in more than a decade”. The Economist. (11 July 2020). https://www.economist.com/middle-east-and-africa/2020/07/11/zimbabwes-worst-economic-crisis-in-more-than-a-decade. 
  24. ^ https://rbz.co.zw/
  25. ^ Zimbabwe’s RTGS dollars explained | IOL Business Report”. www.iol.co.za. 2019年5月6日閲覧。
  26. ^ Hungwe, Brian (2014年2月6日). “Zimbabwe's multi-currency confusion”. https://www.bbc.com/news/world-africa-26034078 2016年9月5日閲覧。 
  27. ^ Matiashe, Faral (2020年4月15日). “Zimbabwe is on lockdown, but money-changers are still busy”. Al Jazeera. オリジナルの2020年4月16日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20200416005945/https://www.aljazeera.com/ajimpact/zimbabwe-lockdown-money-changers-busy-200414215412998.html 
  28. ^ “Zimbabwe to start phasing out use of US dollars at the end of 2022”. Polity (Creamer Media). (2020年4月16日). オリジナルの2020年4月19日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20200419165401/https://www.polity.org.za/article/zimbabwe-to-start-phasing-out-use-of-us-dollars-at-the-end-of-2022-2020-04-16 
  29. ^ Volatile exchange rate big threat to economy”. www.theindependent.co.zw. www.theindependent.co.zw. 2021年12月2日閲覧。

関連項目

外部リンク

先代
ジンバブエ・ドル
理由:インフレーション
備考:2015年に廃止
ジンバブエの通貨
2019年 – 2024年
Note:2019年6月から2020年3月までは唯一の法定通貨
次代
ジンバブエ・ゴールド
理由:インフレーションの進行
先代
ジンバブエ債券英語版
備考:準貨幣
先代
米ドル
ユーロ
英ポンド
南アフリカ・ランド
ボツワナ・プラ
人民元
インド・ルピー
豪ドル
日本円

理由:外貨の使用禁止
次代
米ドル
南アフリカ・ランドなど

理由:2020年3月より流通再開

RTGSドル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/28 09:00 UTC 版)

ジンバブエの紙幣」の記事における「RTGSドル」の解説

2020年現在通貨である。

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