正則ベクトル束
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/15 13:52 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動数学において,正則ベクトル束(せいそくベクトルそく,英: holomorphic vector bundle)とは,複素多様体 X 上の複素ベクトル束であって,全空間 E が複素多様体であり射影 π: E → X が正則であるようなものである.基本的な例は複素多様体の正則接束とその双対正則余接束である.正則直線束 (holomorphic line bundle) は階数が 1 の正則ベクトル束である.
セールの GAGA により,滑らかな複素射影多様体 X(複素多様体と見る)上の正則ベクトル束の圏は,X 上の代数ベクトル束(すなわち階数が有限の局所自由層)の圏と同値である.
自明化を通した定義
具体的には,局所自明化写像
が正則であると要求することと同値である.複素多様体の接束上の正則構造は,ベクトル値正則関数の(適切な意味での)微分がそれ自身正則であることに注意すると保証される.
正則切断の層
E を正則ベクトル束とする.局所切断 s: U → E|U が正則 (holomorphic) であるとは,それが U の各点の近傍においてある(同値だが任意の)自明化において正則であることをいう.
この条件は局所的である,つまり正則切断たちは X 上の層をなす.この層は と書かれることがある.そのような層は必ずベクトル束と同じ階数の局所自由である.E が自明な直線束 であるとき,この層は複素多様体 X の構造層 と一致する.
正則ベクトル束に値を持つ形式の層
で (p, q) 型の C∞ 微分形式の層を表すと,E に値を持つ (p, q) 型形式の層はテンソル積
として定義できる.
滑らかなベクトル束と正則ベクトル束の間の基本的な差異は,後者にはドルボー作用素と呼ばれる標準的な微分作用素
が存在することである.それは局所座標において反正則微分を取ることによって得られる.
正則ベクトル束のコホモロジー
E が正則ベクトル束であるとき,E のコホモロジーは の層係数コホモロジーと定義される.とくに,
E の大域正則切断の空間,となる.また, は E による X の自明直線束の拡大,つまり,正則ベクトル束の完全列 0 → E → F → X × C → 0, の群をパラメトライズする.群構造については,Baer 和や層の拡大も参照.
ピカール群
複素微分幾何の文脈では,複素多様体 X のピカール群 Pic(X) は,正則直線束の同型類の群であって,積はテンソル積,逆元は双対である.それは消えない正則関数の層の一次コホモロジー群 として定義することもできる.
正則ベクトル束上のエルミート計量
E を複素多様体 M 上の正則ベクトル束とし,E 上にエルミート計量が存在するとする,つまり,ファイバー Ex に滑らかに変化する内積 ⟨•, •⟩ が備わっているとする.すると複素構造と計量構造の両方と両立する E 上の接続 ∇ が一意的に存在する.つまり,∇ が次のような接続である:
- (1) E の任意の滑らかな切断 s に対して, ただし p は E 値 1 形式の (0, 1) 成分を取る.
- (2) E の任意の滑らかな切断 s, t と M 上のベクトル場 X に対し,
- ただし X による の contraction を と書いた.(これは ∇ による平行移動が計量 ⟨•, •⟩ を保存すると言っても同じである.)
実際,u = (e1, …, en) が正則枠であるとき, とし, ωu を等式 によって定義する.この等式をより単純に次のように書く:
u′ = ug を基底の正則な変換 g による別の枠とすると,
であり,したがって ω は確かに接続形式であって,∇s = ds + ω · s によって ∇ を生じる.今, であるから,
つまり,∇ は計量構造と両立する.最後に,ω は (1, 0) 形式であるから, の (0, 1) 成分は である.
を ∇ の曲率形式とする. は二乗して零になるから,Ω は (0, 2) 成分を持たず,Ω は歪エルミートであることが容易に示せるから[1],それはまた (2, 0) 成分ももたない.したがって,Ω は次で与えられる (1, 1) 形式である:
曲率 Ω は正則ベクトル束の高次コホモロジーの消滅定理,例えば小平の消滅定理や中野の消滅定理,において顕著に現れる.
脚注
参考文献
- Griffiths, Phillip; Harris, Joseph (1994), Principles of algebraic geometry, Wiley Classics Library, New York: John Wiley & Sons, ISBN 978-0-471-05059-9, MR1288523
- Hazewinkel, Michiel, ed. (2001), “Vector bundle, analytic”, Encyclopaedia of Mathematics, Springer, ISBN 978-1-55608-010-4
関連項目
- バーコフ・グロタンディークの定理
- キレン計量
- セール双対性
外部リンク
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