AMD Am2900とは? わかりやすく解説

AMD Am2900

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/02 00:14 UTC 版)

Am2900 は、AMDが1975年に発売した集積回路(ICチップ)のファミリである[1]。これらのICは、機能的にはビットスライス方式でプロセッサのセットを構成するものであり、プロセステクノロジはバイポーラトランジスタである。それぞれがコンピュータ制御装置 (CCU) の異なる側面を表すモジュラーコンポーネントとして使用できるように設計された。Am2900ファミリは、ビットスライス方式であるため、データ/アドレス/命令を4ビットの任意の倍数になるようにCCUを実装することができた。このモジュール方式の大きな欠点は、単一のCPU ICでできることを実装するために、より多くのICを必要とすることであった。Am2901チップは、演算論理ユニット(ALU)であり、シリーズのコアである。4ビットでカウントし、バイナリ操作やさまざまなビットシフト演算を実装していた。また、Am2909は一つのチップで4-bit分のアドレスを生成するマイクロシーケンサであり n 個用いることで 4n-bit分のアドレスを生成することが可能で、内部にはマイクロプログラムカウンタを4ネストレベルまで格納するスタック及びスタックポインタを有する[2]

2901とファミリの他のいくつかのチップは、1975年のモトローラレイセオンを皮切りに、サイプレス・セミコンダクターナショナル セミコンダクター、NEC、トムソン(現: STマイクロエレクトロニクス)、およびSigneticsなど、非常に多くの他のメーカーからセカンド・ソースとして供給された。ソビエト連邦とその後のロシアでは、Am2900ファミリーは1804シリーズとして製造されていた (例: Am2901はKR1804VS1と指定 (英語版/ロシア語: КР1804ВС1) が[3][4]、2016年現在も生産されている[5]

採用例

例えばALUのみ使用、というものもあれば、システム全体として本系列を採用しているものもある。以下では特に識別はしていない

  • アタリアーケードマシン
  • AT&T 3B20D : 通信制御用の多重化された高可用性プロセッサで、4個のAMD 2901を用いた[8]
  • アポロ・コンピュータ Tern ファミリー: DN460, DN660, DSP160. すべて同じシステムボードを使用しておりMC68010命令セットをエミュレートする[9]
  • 木星探査機ガリレオの姿勢制御コンピュータやNASA製航空機で使われた Itek Advanced Technology Airborne Computer (ATAC)。Am2900ファミリを使った16ビットで16本のレジスタを持つコンピュータである。ガリレオに搭載されたATACには4つの特殊な命令が追加され、2901の放射線耐性を強化したバージョンも使われた[10]
  • データゼネラル Nova 4: Am2901 ALUを並列に構成して16ビットワードを扱えるようにしていた。基板には15個の Am2901 ALU が搭載されたものもある[11]
  • DEC
    • PDP-10 の KS10 モデル[12]
    • PDP-11の機種 PDP-11/23、PDP-11/34、PDP-11/44 の浮動小数点オプション(それぞれ FPF11、FP11-A、FP11-F)[13][14]
      • SM-1420 - ソ連のPDP-11クローン[15]。他のクローンでも使われていたと見られている[16]
    • VAX 11/730: CPUにAM2901を8個使用した[17]
  • Eventide H949 Harmonizer: 4つのAm2901チップ(といくつかのマイクロコードPROM)がアドレス生成とDACシステムの基準電圧の生成に使用された。オーディオは2901 ALUセクションでは処理されなかった。
  • フェランティ Argus 700 (700F、700G): AM2901デバイスが使用され、A700の周辺チャネルコントローラの一部ではハードドライブやフロッピードライブなどに使用された。
  • Geac Computer Corporation 2000, 6000, 8000, 9000はすべて4個のAM2901チップをベースとした。2000は薬局で、その他のモデルは図書館、銀行、保険の自動化に使用された。
  • High Level Hardware Limited Orion: Unixが動作するユーザ・マイクロコード可能なミニコンピュータ。書き込み可能なマイクロコードで、命令セットを再定義してカスタマイズできた[18]
  • ヒューレット・パッカード (現在はキーサイト・テクノロジー) HP 1000 A-series model A600: 16ビットプロセッサに4つのAM2901 ALUを使用した[19]
  • ゼロックス Dandelion: Xerox StarLISPマシン Xerox 1108 で使われた[20]
  • イギリスの GEC 4000シリーズミニコンピュータ: 4060/4150/4160(いずれもAm2901を使った16ビット構成)と 4090/418x/419x(Am2901を18個使って、32ビット整数ALUと64ビット倍精度FPUを構成)[21]
  • MAI Basic Four の一部マシン[22]
  • Metheus / Barco Omega 400および500シリーズのグラフィックシステム: 1982年のディスプレイプロセッサで、4つのAm2901チップ(および8個のマイクロコードPROM)が使用された。
  • NCRの Joel McCormack が設計した UCSD Pascal P-machine プロセッサ
  • Lilith - ニクラウス・ヴィルトチューリッヒ工科大学
  • テクトロニクス4052英語版 グラフィックスコンピュータ
  • ピクサー・イメージ・コンピュータ: それぞれ4つのAm2900を搭載した4つのチャネルプロセッサ
  • 多くのSiemens TelepermとS5 PLCは、産業用制御で使用され、2900シリーズを使用して構築された。
  • Simulation Excel (Sim-X), Oslo, Norway: 文字書体ワークステーション/タイプセッター。4つのプロセッサのうちの1つは、4つの2901スライスと1つの2910アドレスシーケンサから構築された16ビットマイクロコード化された計算・変換エンジンであった。Sim-Xマシンは、16ビットの整数乗算器を使用してグラフィカル変換を最適化した[23]

ファミリ

Am2900 Family Data Book に掲載されているものは以下の通り[24]

Am2901 4ビットスライスALU(1975年)
Am2902 ルックアヘッド・キャリー生成器
Am2903 4ビットスライスALU、乗算器付き
Am2904 ステータス/シフト制御装置
Am2905 バス・トランシーバー
Am2906 パリティビット付きバス・トランシーバー
Am2907
Am2908
Am2909 4ビットスライス・アドレスシーケンサ
Am2910 12ビットアドレスシーケンサ
Am2911 4ビットスライス・アドレスシーケンサ
Am2912 バス・トランシーバー
Am2913 優先度付き割り込みエキスパンダー
Am2914 優先度付き割り込みコントローラ
Am2915 4ビット 3状態バス・トランシーバー
Am2916
Am2917
Am2918 命令レジスタ, 4ビット D レジスタ
Am2919 命令レジスタ, 4ビット レジスタ
Am2920 8ビット D型フリップフロップ
Am2921 1-to-8 デコーダ
Am2922 8-入力 マルチプレクサ (MUX)
Am2923
Am2924 3-ラインから 8-ラインのデコーダ
Am2925 システムクロック・ジェネレータおよびドライバ
Am2926 ショットキー 4ビット3状態バスドライバ
Am2927 4ビット3状態バス・トランシーバ
Am2928
Am2929 ショットキー 4ビット3状態バスドライバ
Am2930 主記憶プログラム制御
Am2932
Am2940 DMAジェネレータ
Am2942 プログラマブル・タイマー/カウンタ/DMAジェネレータ
Am2946 8ビット 3状態 双方向バス・トランシーバー
Am2947
Am2948
Am2949
Am2950 8ビット 双方向 I/Oポート
Am2951
Am2954 8ビット・レジスタ
Am2955
Am2956 8ビット・ラッチ
Am2957
Am2958 8ビット・バッファ/ラインドライバ/ラインレシーバー
Am2959
Am2960 カスケード接続可能な16ビット・エラー検出/訂正装置
Am2961 4ビット エラー訂正・複数バス・バッファ
Am2962
Am2964 ダイナミックメモリ・コントローラ
Am2965 8ビット・ダイナミックメモリ・ドライバ
Am2966
  • 74F2960 / Am2960 のように7400シリーズの名称も持つチップも多い。

脚注

  1. ^ AMD 2901 bit-slice processor family”. cpu-world.com. 2014年8月26日閲覧。
  2. ^ P.HAYES 1978, p. 301-302.
  3. ^ Soviet microprocessors, microcontrollers, FPU chips and their western analogs”. CPU-world. 2016年3月24日閲覧。
  4. ^ Козак, Виктор Романович (2014年5月24日). “Номенклатура отечественных микросхем” [Nomenclature of domestic integrated circuits] (Russian). 2016年3月24日閲覧。
  5. ^ Каталог изделий” [Product catalog] (Russian). OAO "VZPP-S". p. 20. 2016年5月30日閲覧。
  6. ^ Mark J. P. Wolf (2012). Encyclopedia of Video Games: M-Z. ISBN 9780313379369. https://books.google.com/books?id=deBFx7QAwsQC&lpg=PA307&dq=first%20commercial%20game%20featuring%20filled%20polygons&pg=PA307#q=first%20commercial%20game%20featuring%20filled%20polygon 
  7. ^ Dan Boris. “I-Robot Tech Page”. 2020年8月4日閲覧。
  8. ^ Rolund, M. W.; Beckett, J. T.; Harms, D. A. (January 1983). “3B20D Central Processing Unit”. The Bell System Technical Journal. 1.1.2 Data manipulation unit 62 (1): 193. doi:10.1002/j.1538-7305.1983.tb04390.x. http://www.alcatel-lucent.com/bstj/vol62-1983/articles/bstj62-1-191.pdf. 
  9. ^ apollo :: brochures :: DN440 460 Brochure 1983”. 2020年8月4日閲覧。
  10. ^ "Computers in Spaceflight: The NASA Experience" - Chapter Six - - Distributed Computing On Board Voyager and Galileo -
  11. ^ Data General NOVA4/X recovered from Bakersfield” (2005年1月17日). 2011年7月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年7月11日閲覧。
  12. ^ Klaus Michael Indlekofer (2002年11月11日). “Computer Architectures”. K.M.I. - the site. 2011年7月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年7月11日閲覧。
  13. ^ Photo of DEC11-34”. CPU museum web site. 2011年7月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年7月11日閲覧。
  14. ^ John Holden. “Production PDP-11 Models”. University of Sydney School of Psychology. 2011年7月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年7月11日閲覧。
  15. ^ (Russian) Справочник по электронной вычислительной технике. (1993). p. 124. ISBN 5-217-02090-3 
  16. ^ Part VII: Advanced Micro Devices Am2901, a few bits at a time”. Great Microprocessors of the Past and Present. Russian Supercomputer Software Department (1998年). 2009年6月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年7月11日閲覧。
  17. ^ VAX-11/730 Central Processing Unit Technical Description. Digital Equipment Corporation. (1982). p. 1-4. EK-KA730-TO-001. http://bitsavers.org/pdf/dec/vax/730/EK-KA730-TD-001_VAX-11_730_CPU_Technical_Description_May82.pdf 
  18. ^ http://hlhco.info/OrionBrochure.pdf
  19. ^ “A New Series of High-Performance Real-Time Computers”. Hewlett-Packard Journal: 3-6. (February 1984). http://www.hpl.hp.com/hpjournal/pdfs/IssuePDFs/1984-02.pdf. 
  20. ^ Nathan Lineback. “Xerox Star”. Nathan's Toasty Technology page. 2011年7月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年7月11日閲覧。
  21. ^ Andrew Gabriel (1997年). “GEC 4000 series processors”. 2011年7月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年7月11日閲覧。
  22. ^ Field Information Bulletin 113” (1988年3月28日). 2011年7月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年7月11日閲覧。
  23. ^ Kari Johnson (1983). “An IEEE Floating Point Arithmetic Implementation”. IEEE Symposium on Computer Arithmetic: 130–135. doi:10.1109/ARITH.1983.6158083. ISBN 0-8186-0034-9. http://www.acsel-lab.com/arithmetic/arith6/papers/ARITH6_Johnsen.pdf. 
  24. ^ The Am2900 Family Data Book with Related Support Circuits”. AM-PUB003. Advanced Micro Devices (1979年). 2011年7月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年7月11日閲覧。

参考文献

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