食料主権
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/13 21:48 UTC 版)
食料主権(しょくりょうしゅけん、英語: Food Sovereignty)は、食料の生産、分配、消費に関する権利を各国や地域の農民や市民が主体的に決定し、持続可能で公正な食料システムを構築する考え方である。グローバル化や多国籍企業による食料生産の支配に対抗し、地域の食文化や生態系を尊重する農業を重視する[1]。
歴史
食料主権の概念は、1996年に国際農民運動団体「ビア・カンペシーナ」(La Via Campesina)がローマで開催された世界食料サミットで提唱した[1]。グローバル化による食料生産の工業化や多国籍企業の影響力拡大が、小規模農家の生活や地域の食料システムを脅かしているとして、食料主権を対抗概念として提示した。2007年の「ニアクトリー宣言」では、食料主権の6つの柱が定義された[2]。
定義と原則
食料主権は、食料安全保障と区別されることもある。食料安全保障は、飢餓や栄養不良を解決するための概念やツールであり、主に供給面やアクセス面などを重視するのに対し、食料主権は、政治的な視点から、人々が自らの食料システムをコントロールする権利を重視する[1]。具体的には、以下のような考え方や活動を指す:
- 生産者の権利:小規模農家や伝統的な農業を支え、グローバルアグリビジネスの影響を減らすこと。
- 消費者の権利:自分たちが何を食べるかを決める権利。
- 地域の権利:地域に合った食料システムを構築する権利。
- 環境の権利:持続可能な農業を実践し、環境に負荷をかけないこと。
- 食料への権利:すべての人々が健康で文化的に適切な食料を手にできること[1]。
ビア・カンペシーナは、食料主権を「人々が自らの食料と農業システムを定義する権利」と定義し、土地、水、種子などの資源の地域管理や、不公平な貿易ルールの排除を強調する[1]。
日本における食料主権
日本では、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や経済連携協定(EPA)などの自由貿易協定の進展に伴い、食料主権の考え方が注目されている。農民運動や市民団体は、遺伝子組み換え食品の規制、種子の多様性保全、地域の食文化の維持を訴える[3]。北海道や東北地方では、地元農産物を使用した食文化や有機農業の推進が見られる。一方、農林水産省の政策では食料自給率の向上が議論されるが、地域住民の主体的参加が不足しているとの指摘もある[4]。
課題
食料主権の実現には、グローバルな貿易ルール、多国籍企業の影響力、国内の農業政策の枠組みが課題となる。日本では、都市化や高齢化による農村人口の減少、農地の縮小、気候変動の影響も障壁となっている[5]。一方で、地域支援型農業(CSA)やファーマーズマーケットの普及など、食料主権に基づく取り組みも広がっている。
関連項目
脚注
- ^ a b c d e “What is Food Sovereignty” (英語). La Via Campesina. 2025年6月14日閲覧。
- ^ “Nyéléni Declaration on Food Sovereignty”. Nyéléni. 2025年6月14日閲覧。
- ^ 日本農業学会, ed (2020). 日本の食と農の未来. 農林統計出版. ISBN 978-4-89732-456-2
- ^ “食料・農業・農村白書”. 農林水産省. 2025年6月14日閲覧。
- ^ “日本の農業と食料主権”. 農業と経済 (秀潤社) 85 (3): 45-52. (2019).
外部リンク
- ビア・カンペシーナ公式サイト(英語)
- 農林水産省
食料主権
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 02:44 UTC 版)
3つめのアプローチは食料主権として知られている。それはいくつかの点で食の正義と重なっているが、まったく同じというわけではない。それは多国籍企業の活動を新しい植民地主義としてとらえる。それは貧しくなった国、とりわけ熱帯の農業的資源を買収する財政的資源を有していると強く主張する。彼らはこれらの資源を熱帯以外の先進国に販売する商品作物を独占的に生産させる政治的影響力を有しており、その過程でより生産的な土地から貧しい者を追い出す。このような見地の下では持続可能な農業を営む農家には耕作可能な農地のみが残され、生産性という点ではわずかしかなく、多国籍企業にとっては何の興味もない。 それは商品作物の栽培を禁止し、そうすることによって地元の農家に持続可能な作物の栽培に専念させることを提唱している。また先進国が開発途上国に少ない補助金を与えることを許可することをいわゆる「輸入ダンピング」であるとして反対している。
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