遺伝子組み換え生物とは? わかりやすく解説

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いでんしくみかえ‐せいぶつ〔ヰデンシくみかへ‐〕【遺伝子組(み)換え生物】


遺伝子組換え生物

(遺伝子組み換え生物 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/11 06:19 UTC 版)

GFP遺伝子を導入された大腸菌

遺伝子組換え生物(いでんしくみかえせいぶつ、: Genetically modified organism, GMO)とは、遺伝子工学の技術を用いて遺伝子を操作された生物を指す。一般には組換えDNA 技術を用い、DNA 分子に別の種類の遺伝子を組み込み、新しい組み合わせのDNA 分子を作成する。このDNA 分子を目的の生物に遺伝子導入させ、本来その生物が持っていない別の種の遺伝子を導入させたまたはその生物の持っている遺伝子を改変させた生物を “遺伝子組換え生物” と呼ぶ。

カルタヘナ議定書において定義されたLMO (Living Modified Organism) の日本語訳として用いられている。

作成方法

遺伝子組換えはゲノム(染色体)内への遺伝子の導入または欠失を含む。違う種の遺伝子が導入された場合、遺伝子の水平伝播が行われた事になる。自然界では外来遺伝子が細胞内に取り込まれ起こる事があり、病原菌薬剤耐性に関わる場合もある。人工的に遺伝子組換えを行う場合には、生物学的、化学的、物理的な方法があり、詳しくは遺伝子導入形質導入形質転換トランスフェクションのページを参照のこと。遺伝子組換え法として、バクテリアでは電気穿孔法コンピテントセルにヒートショックをかける方法が広く行われており、動物ではリポフェクション法や電気穿孔法が広く行われており、植物ではパーティクル・ガン法アグロバクテリウムを利用した形質導入法や電気穿孔法が広く行われている。(諸説がある)

歴史

これまで数々の研究がなされてきたが、まだすべては解明されていない。

遺伝子組換えと遺伝子改変の違い

遺伝子改変(genetic modification)とは、生物の遺伝情報(DNAまたはRNA)を人為的に操作・変化させるすべての技術の総称である。これには、外来遺伝子を導入して新たな組み合わせを作る遺伝子組換え(genetic recombination)のほか、ゲノム編集技術(genome editing)など外来遺伝子を用いない手法も含まれる。

一方、遺伝子組換え(genetic recombination)は、他の生物や種から取得した外来遺伝子を導入し、既存の遺伝子構成を改変する特定の手法を指す。

したがって、遺伝子改変は遺伝子組換えを含む上位概念であり、両者は同義ではない。

遺伝子組換えとゲノム編集の違い

遺伝子組換え(genetic recombination / genetic modification)とは、他の生物種や同種個体から取得した外来遺伝子を導入して新たな遺伝的構成を作り出す技術である。導入された遺伝子(トランスジーン)は宿主のゲノムに組み込まれ、新しい性質(例:成長促進、病害耐性など)を発現させることができる。このようにして作出された生物は、遺伝子組換え生物(GMO: Genetically Modified Organism)と呼ばれ、カルタヘナ法などの国際的規制の対象となる。

一方、ゲノム編集(genome editing)は、CRISPR/Cas9やTALEN、ZFNなどの分子ツールを用いて、生物自身の遺伝子の特定部位を切断・欠失・修正する技術である。多くの場合、外来遺伝子を導入せずに既存のDNA配列を微細に改変する点が特徴であり、自然突然変異と区別がつかないこともある。

そのため、遺伝子組換えが“外来遺伝子を導入する改変”であるのに対し、ゲノム編集は“生物自身の遺伝子を精密に書き換える改変”と位置づけられる。法的にも、外来遺伝子を含まないゲノム編集生物は、GMO規制の対象外とされる場合がある。

使用例

遺伝子組換え生物は生物や医学の研究、医薬品の製造、遺伝子治療の臨床研究や作物の品種改良等に利用されている。また細胞や生物に外来遺伝子を一過的に遺伝子導入して、発現した遺伝子のタンパク質局在や機能を調べる様な一過的な遺伝子導入も広義には遺伝子組換え生物となる。

遺伝子組換え微生物

最初に研究で作られた遺伝子組換え生物であり、遺伝子工学の基礎になっている。遺伝子組換え微生物はインスリンなどのヒトのペプチドまたはタンパク質の生産などに応用されている。

遺伝子組換え動物

様々な動物で遺伝子組換えが研究で行われている。ノックアウトマウスは遺伝子の様々な機能を調べるため、研究で精力的に作成されている。羊、豚やラット等の遺伝子組換え動物がヒトのタンパク質の生産に応用されている。また哺乳類などの大型動物に比較し、生活環が短い、飼育が簡単等の有利な面があり、遺伝子組換えを行ったショウジョウバエが遺伝子改変や胚発生などの研究に利用されている。

昆虫においては、農研機構が主となってカイコ (Bombyx mori) の遺伝子組換え研究が行われている。2020年現在カルタヘナ法に基づく第一種使用が認められており、養蚕農家による3令以降の飼育・出荷が行われている[1]。詳しくは遺伝子組換えカイコの記事を参照。

2023年東京工業大学の元大学院生など男女5人が国の承認を受けずに赤く光る遺伝子組み換えメダカを育てたなどとして、全国で初めてカルタヘナ法違反が適用された[2]

遺伝子組換え植物

遺伝子組換え作物は農業に応用されている。詳しくは遺伝子組換え作物のページを参照。

遺伝子組換え魚

Genetically modified fish (GM fish)(遺伝子改変魚または遺伝子組換え魚)とは、遺伝子工学の手法を用いて遺伝的性質を改変した魚類の総称である。通常、特定の遺伝子を導入・削除・抑制することにより、成長速度の向上、病気への耐性強化、環境適応性の改善、または繁殖能力の制御などを目的として開発される。 代表的な例としては、カナダのAquaBounty Technologies社が開発したアクアドバンテージ・サーモンAquAdvantage salmon)があり、これはチヌークサーモンOncorhynchus tshawytscha)由来の成長ホルモン遺伝子をアトランティックサーモンSalmo salar)に導入したもので、成長速度が約2倍に向上している。 GM魚は、食品として利用する場合、米国食品医薬品局(FDA)や欧州食品安全機関(EFSA)、日本の食品安全委員会などによる厳格な審査を受け、安全性(アレルゲン性・毒性・栄養組成の変化など)が確認されたもののみが流通を許可される。 一方で、環境中への流出による生態系への影響が懸念されるため、繁殖能力を持たない不妊化個体として閉鎖系養殖施設で飼育するなど、環境安全管理が義務付けられている。

食と安全性

現行の科学的知見と安全管理のもとでは、人間が「遺伝子制圧技術」や「不妊化防除技術」によって作られた魚を食べても安全とされています。

遺伝子制圧技術(Genetic control)の魚の場合

  • 基本的な考え方
遺伝子改変魚(GMO fish)は、特定の遺伝子を削除・挿入・無効化することで繁殖能力や性分化などを制御します。
食品としての安全性は、改変された遺伝子がヒトの健康に影響を及ぼすかを科学的に評価して判断されます。
  • 実際の例
    • 米国やカナダでは、成長ホルモン遺伝子を組み込んだ**「アクア・アドバンテージ・サーモンAquaBounty salmon)」**が、世界初の商業用遺伝子組換え魚として承認・販売されています。
    • 厳格な審査(FDA, Health Canada)により、通常のサーモンと栄養的にも安全性にも差はないとされています。
  • 科学的根拠
遺伝子そのものやたんぱく質は消化過程で分解され、ヒトの遺伝子に影響を与えることはありません。
したがって、適切な審査・管理のもとでは食用として安全です。

不妊化防除技術(Sterile technique / SIT)の魚の場合

  • 基本的な考え方
不妊化防除は「遺伝子を改変しない」方法です。
多くの場合、高温・低温処理、放射線、薬剤、ホルモンなどによって卵や精子の形成を止めます。
  • 食品安全の観点
    • 放射線照射による不妊化では、魚体に放射能が残留することはありません(食品照射とは異なる)。
    • ホルモン処理の場合も、体内残留がゼロまたは極めて低くなる段階まで管理された個体のみが流通対象になります。
    • 多くの研究で、不妊化個体の摂取による健康リスクは確認されていません。

安全と規制の前提

  • 遺伝子改変魚(GMO)は、各国で厳格な食品安全審査(例:FDA, EFSA, 日本では食品安全委員会)を経てからでないと販売・流通できません。
  • 不妊化個体は、通常「放流専用」または「養殖管理用」として扱われ、食用流通する場合は追加審査や明確なラベル表示が求められます。

脚注

  1. ^ INC, SANKEI DIGITAL (2017年11月2日). “前橋の一般農家がGM蚕の緑色蛍光繭出荷 量産は世界初”. 産経ニュース. 2020年4月17日閲覧。
  2. ^ 【遺伝子組み換え】”赤く光る”メダカを不法育成か 1匹10万円で販売も…9人摘発「カルタヘナ法」で全国初(テレビ朝日系(ANN))”. Yahoo!ニュース. 2023年3月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月9日閲覧。

参考文献

関連項目

外部リンク



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