アクアドバンテージ・サーモン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/12 21:43 UTC 版)
アクアドバンテージ・サーモン(英語:AquAdvantage salmon)は、アクアバウンティ・テクノロジーズ (AquaBounty Technologies) 社が開発した遺伝子組み替えされたアトランティックサーモンである。オーシャンパウトからプロモーター、キングサーモンから成長ホルモンの遺伝子が、アトランティックサーモンの遺伝子に付け加えられた。これらの遺伝子によって、春と夏の間だけではなく通年での成長を可能とした。これらの組み替えの目的は、個体の差によらず成長するスピードと、成長後の大きさを最大にすることを目的としている。これまでの品種改良種では3年かかっていた成長が、より早くなり16か月から18か月で市場に出荷できるサイズとなる[1][2]。
経緯
2013年11月25日、カナダ環境省はサケ卵の商業生産を許可した。しかしこれは食用としての許可ではなく、それはまた別の許可が必要となる[3][4]。
2015年11月19日、アメリカ食品医薬品局(FDA)は遺伝子組み換え動物食品として初の食用認可を行った[5]。FDA動物用医薬品センターのバーナデット・ダナム所長は「このサケを原料とした食品も食用として安全であり、承認に必要な規制要件は満たされている」と述べている[6]。遺伝子組み換えについてのラベル表示は義務づけられなかった[7]。
2017年、カナダで遺伝子組み換えであることを表示せずに流通していることが確認され、環境保護団体が販売を中止する要請を出すなどの動きがあった[8]。2019年には輸入制限が解除されカナダから受精卵をアメリカに輸入することが可能になり、アメリカでの養殖が可能になった[9]。2021年5月、アメリカでの販売も開始された[10]。
2023年2月、アクアバウンティ社のCEOは、カナダのプリンスエドワード島での遺伝子組み換えアトランティックサーモンの生産を中止し、遺伝子組み換えではないサケ卵の生産に転換することを発表した[11]。
遺伝子構成
AquAdvantageサーモンに導入された外来遺伝子は、チヌークサーモン(Oncorhynchus tshawytscha)由来の成長ホルモン遺伝子(GH)と、オーシャンポウト(Macrozoarces americanus)由来のアンチフリーズタンパク質遺伝子プロモーター(AFP promoter)から構成されている。この遺伝子構成は「opAFP-GHc2 construct」と呼ばれ、寒冷海域に生息するオーシャンポウトのAFPプロモーターを利用することで、環境要因である水温や日照の影響を受けずに、成長ホルモン遺伝子を一年中発現させる仕組みを実現している。
学名上の扱い
アクアドバンテージサーモンの基盤となる種はアトランティックサーモン(Salmo salar Linnaeus, 1758)であり、新種としては分類されない。 このため、アクアドバンテージサーモンはアトランティックサーモンの遺伝子改変系統(genetically modified strain)として扱われる。
学術文献では以下のような表記が一般的である。
Salmo salar (AquAdvantage® transgenic line) または Genetically modified Salmo salar (AquAdvantage strain)
国際動物命名規約(ICZN)においては、学名は自然に存在する生物種に対してのみ付与されるため、アクアドバンテージサーモンは分類学上の新種とは認められず、既存種の人工改変系統(engineered line)として位置づけられている。
脚注
- ^ Blumenthal, Les (2010年8月2日). “Company says FDA is nearing decision on genetically engineered Atlantic salmon”. The Washington Post 2010年8月2日閲覧。
{{cite news}}: CS1メンテナンス: ref=harv (カテゴリ) - ^ “Salmobreed challenges GMO Salmon” (PDF) (Press release). Salmobreed. November 2011. 2013年1月18日閲覧.
- ^ 遺伝子組換えサケが開発されていると聞いていますが、どのような状況ですか。(国立研究開発法人農業生物資源研究所 遺伝子組換え研究センター 遺伝子組換え研究推進室 )[リンク切れ]
- ^ “AQUABOUNTY CLEARED TO PRODUCE SALMON EGGS IN CANADA FOR COMMERCIAL PURPOSES”. 2014年4月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年11月23日閲覧。
- ^ “成長速度2倍!遺伝子組み換えサケが食卓に”. 東洋経済ONLINE (2015年12月9日). 2023年10月23日閲覧。
- ^ “米、遺伝子組み換えサケに食用認可”. AFPBB News (2015年11月20日). 2023年10月23日閲覧。
- ^ “米当局、遺伝子組み換えサケを初認可 表示義務なし”. CNN.co.jp (2015年11月20日). 2023年10月23日閲覧。
- ^ “遺伝子組み換えサケを非表示で販売、環境団体が中止要請 カナダ”. AFPBB News (2017年8月8日). 2023年10月23日閲覧。
- ^ 柳川晶子 (2019年4月6日). “アメリカで遺伝子組み換えサーモン養殖が解禁 スーパーに並ぶ日も近いが・・・”. FNNプライムオンライン. 2023年10月23日閲覧。
- ^ CASEY SMITH (2021年5月28日). “Genetically modified salmon head to US dinner plates” (英語). AP News. 2023年10月23日閲覧。
- ^ Chris Chase (2023年2月3日). “AquaBounty sees opportunity in egg sales, pulling back on China plans” (英語). SeafoodSource. 2023年10月23日閲覧。
関連項目
外部リンク
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