縄張り行動の裏側
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/14 22:43 UTC 版)
アユの場合、縄張りは餌の確保のために役立つと考えられる。実際に、縄張りを持つアユは、縄張りにあぶれたアユよりも大柄である場合が多い。ところが、鮎の遡上数が多い場合には、縄張りが形成されず、多数が群れを作って泳ぎ回る。理論的に考えれば、競争者が多いなら、縄張りの必要性は高まるはずである。これは、縄張りを張ると、侵入する個体が多いために、そのための防衛行動に時間を取られ、餌が取れなくなるためらしい。ところが、その場合にもアユの成長は悪くならない。これは、縄張りの面積が、餌の量から計算すれば本来必要とする面積の数倍に達するためである。縄張りがなくなったからと言って、群れを作ってみんなで平等に喰えば餌不足が生じるわけではないらしい。では、なぜこのような不合理な縄張り面積が生じたのかについては、明確な答えは出ていない。 最近の社会生物学、あるいは行動生態学的研究は、動物の行動をその種の特徴とは見なさず、個々の個体にとって有利な行動が進化するものと見なす。その結果、縄張り行動をする動物でも、すべてがそうするわけではなく、様々な裏側(代替戦略)があることがわかってきた。 たとえば、トノサマガエルの一種で、繁殖の時に縄張りを作るものがある。広くて浅い池に集まり、雄個体のそれぞれが鳴き声を上げるが、このとき互いの距離はほぼ一定になる。これは、近づきすぎるとけんかを始めるからで、けんかの結果、強い個体ほど集団の中央を占める。雌は鳴き声を頼りに集団の中央を目指すので、強い雄が雌と優先的に交接できる。 ところが、実はこの仕組みにのらない雄が一定数存在するという。たとえば、ある個体は、鳴き声を上げずに強い雄の近くに陣取る。鳴き声を上げないので攻撃を受けず、雌が近づくと急にそれと交接しようとするという戦術である。また、あちこち移動しながら、少し鳴いては攻撃を受ける前に逃げるという戦術をとる個体もいるという。
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