統語的能格性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/31 00:02 UTC 版)
形態論だけでなく、統語論(文の作り方)にも、対格的なものと能格的なものがある。たとえば、文を等位接続詞でつなぐ場合に同じ名詞句を省略すること(等位構造縮約)はさまざまな言語で可能である。英語もその一つだが、省略する名詞句はSまたはAでなければならない。下の例 (5b) のように、Pは削除することができない。 (5) a. [ Father returned ] and [ ∅ saw Mother ]. S A P 「父は戻って来て母を見た」 (5) b. *[ Father returned ] and [ Mother saw ∅ ]. S A P 「父が戻って来て母が(父を)見た」 一方、ジルバル語でも同一名詞句削除が可能だが、削除できるのは、SとPだけで、Aは不可能である。 (6) a. [ ŋuma banaga-nyu ] [ ∅ yabu-ŋgu bura-n ]. 父.[ABS] 戻る-NFUT 母-ERG 見る-NFUT S P A 「父が戻って来て母が(父を)見た」 (6) b. *[ ŋuma banaga-nyu ] [ yabu ∅ bura-n ]. 父.[ABS] 戻る-NFUT 母.[ABS] 見る-NFUT S P A 「父は戻って来て母を見た」 形態的能格性を示す言語でも、統語論は対格的であることが多い。ジルバル語は主要な統語的操作(関係節・補文・等位接続)において自動詞の主語と他動詞の目的語を同じように扱う珍しい例である。 主語に普遍的ないくつかの特徴をのぞいて考えると、形態論も統語論も完璧に対格的である言語は存在するが、逆に完璧な能格言語は見つかっていない。
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