政治の問題と解決
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/17 06:13 UTC 版)
公的領域では人間は活動を通じた共同性が成立しておりその自由性が強調できる。しかし同時に政治には多くの不自由さもあり、両義的なものとして考察することができる。そもそも活動とは言葉を通じた行為によって他者へ働きかけるが、この際に他者がどのようにこの言葉を受け取るのかということは不確実である。アーレントはこの不確実性を無制限性と不可逆性、不可予言性の概念で説明している。まず他者への言葉はその影響範囲が限定できないという無制限性、そしてその言葉の結果を予測できない不可予測性、最後にその結果を前の状態に戻すことができないという不可逆性、これら三つの不確実性が政治には認められるのである。政治のこのような不確実性は言語そのものが人間の意図から逸脱して展開しうる政治の性質を示している。 しかしこの不確実性を持つ政治を解決するのも政治である。つまり不確実性の一つの要素である予測の不能性を解決する活動として約束(promise)という行為がある。約束は不確実な未来に対してその確実性をもたらすための足場であり、また不可逆性を解決する活動として許し(forgiveness)がある。もしも暴力の応酬や復讐の連鎖のような事態になった場合に、これを収束できるのは許しという活動だけである。アーレントはこの約束と許しという活動を政治の問題を解決する優れた行為として意義付けている。 約束や許しのような優れた活動が向かうべき方向性についてアーレントは始まり(beginning)をもたらすことと述べている。これまでの伝統的または反復的な関係性にただ服従するのではなく、それを見直すことで新しい関係性を再構成する意志である。人間は生物的に必ず死ぬが、しかしながら人間が生まれたのは死ぬためではない。人間は始めるために生まれたのであり、これは活動が最も極大化した行為である。もしも活動に固有な能力によって始まりがなければ、それは人間的なものの滅亡に繋がるだろう。人間の活動によって構成される世界は放置すれば消滅するのであり、その時に公的領域は完全に崩壊する。これを救済するためには新しい始まりであり、人びとが新たに誕生したことによって可能となる活動なのである。
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