心理的リソースとは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > 心理的リソースの意味・解説 

心理的リソース

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/26 08:20 UTC 版)

心理的リソース(しんりてきリソース、英: Psychological Resource)とは、人間が思考・判断・感情制御などの精神的活動を行う際に消費される「心のエネルギー」を資源(リソース)として捉える概念である。 個人およびチームの生産性や健全性を左右する「見えない資源」として注目されている。[1]

定義

心理的リソースとは、「思考」「判断」「衝動抑制」「感情制御」など、心に負荷がかかる行動を実行する際に必要な心的エネルギーであり、人間の行動・意思決定・対人関係を支える内的な資源とされる。 このリソースは有限であり、使えばすり減り、休息や満足体験などによって回復する。心理的リソースが枯渇すると、思考の柔軟性や判断力が低下し、衝動的な行動が増えるとされる。[1]

ポジティブ心理学において提唱される「心理的資本(Psychological Capital)」と混同されやすいが、異なる概念である。心理的資本は、高い自己効力感、楽観性、希望、レジリエンスによって特徴づけられる、個人のポジティブな発達状態と定義される。対して心理的リソースは、個人の幸福度や組織成果を高めるために必要な有限な資源であり、常に増減し続けるものとして定義されている。心理的資本を持っている人は、豊かな心理的リソースを持ちやすいという関係があると考えられる。

背景

心理的リソースの概念は、心理学における意志力の有限性(Ego depletion)仮説[2]や、ダニエル・カーネマンによる「注意と努力の理論」[3]などに関連する。 櫻本はこれらの理論をマネジメントや組織行動の文脈に応用し、チームや組織における「見えない資源の使い方・循環」を重視する実践的アプローチとして体系化した。

心理的リソース・マネジメント

心理的リソース・マネジメント(Psychological Resource Management)は、チームメンバーがもつ心理的リソースを把握・節約・回復・増幅させることで、生産性と健全性を両立させるマネジメント手法である。 櫻本は、心理的リソースを経営資源の一種とみなし、「時間」「人員」「予算」と並ぶ“見えない資源”として扱うべきだと述べている。[1]

この手法では、リーダー自身やメンバーの消耗サイン(例:笑顔や雑談の減少、判断の先延ばし、感情的反応など)を早期に察知し、無駄なリソース消費を防ぐことを重視する。また、個人の心理的リソースが増減する背景には、その人が抱く「願い(内的動機)」があるとし、願いの実現可能感がエネルギー源になると論じている。

三つの領域

心理的リソースは、主に以下の三領域で消費・回復が起こるとされる。

  • アタマ(思考)領域:意思決定、情報処理、複雑な思考など
  • ココロ(感情)領域:不安、怒り、恐れなどの感情の制御
  • カラダ(身体)領域:睡眠不足や身体的疲労などによる影響

これらの領域は相互に影響し、一方の枯渇が他方を連鎖的に消耗させる。

脚注

  1. ^ a b c 櫻本 真理 なぜ、あなたのチームは疲れているのか? ダイヤモンド社
  2. ^ Baumeister, R. F. et al. “Ego depletion: Is the active self a limited resource?” Journal of Personality and Social Psychology, 74(5), 1252–1265 (1998).
  3. ^ Kahneman, D. Attention and Effort. Prentice-Hall, 1973.

関連概念

  • Ego depletion(自我枯渇)
  • 心理的安全性Psychological Safety
  • Job Demands–Resourcesモデル
  • セルフ・コンパッション(Self-compassion
  • サイパPsychological Resource Performance) — 心理的リソース効率を表す指標で、心理的リソース投下量に対する成果の比率を示す。

参考文献

  • 櫻本真理『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』(ダイヤモンド社、2025)
  • Baumeister, R. F., et al. “Ego depletion: Is the active self a limited resource?” Journal of Personality and Social Psychology (1998).
  • Kahneman, D. Attention and Effort. Prentice-Hall, 1973.
  • Hobfoll, S. E., & Ford, J. S. (2007). “Conservation of Resources Theory.” In G. Fink (Ed.), Encyclopedia of Stress (2nd ed., Vol. 1, pp. 562–567). Elsevier.
  • Fredrickson, B. L. (2004). “The broaden-and-build theory of positive emotions.” Philosophical Transactions of the Royal Society B, 359(1449), 1367–1378.

関連項目




英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  
  •  心理的リソースのページへのリンク

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「心理的リソース」の関連用語

1
10% |||||

心理的リソースのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



心理的リソースのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの心理的リソース (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS