心理的リアクタンスとは? わかりやすく解説

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心理的リアクタンス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/29 19:25 UTC 版)

心理的リアクタンスとは、自分の行動や選択の自由が脅かされていると感じた時に生じる動機付けと感情的反応を指す概念である。例えば、「慌てるな」と言われると、かえってより慌てたくなる現象がこれに当たる[1]

心理的リアクタンス(しんりてきリアクタンス、英: psychological reactance)は、個人が自らの行動自由や選択の自由が脅かされたと知覚したときに生じる動機づけまたは情動的反応を指す概念である。リアクタンスは自由回復を目的とした認知的・情動的・行動的反応を引き起こし、しばしば提案や規制に対する反対意見や禁止された行為への魅力増大などの形で現れる[1]

「抵抗・反発」を意味するリアクタンスという語を心理学に適用した概念であり、「人が自由を制限(剥奪・侵害)された際に、それに抗おうとする性質」を指す[2][3]

心理的リアクタンスは「自由の脅威に対する反発」を説明する有力な理論枠組みであり、その基本仮定(怒り・否定的認知を含む)は支持されている。リアクタンスの核心的指標として怒りと反論を含む潜在因子モデルが支持され、リアクタンス概念の整合性に実証的根拠が示された[1]

1966年にアメリカの心理学者ジャック・ブレーム(Jack Brehm)によって提唱された[2][3]

定義

心理的リアクタンスは、自由(選択肢・行動の可能性)が脅かされることで生じ、個人がその自由を取り戻す方向に動機づけられる心理的状態として理解される。リアクタンスが単一の感情だけでなく、怒りと反駁的思考(およびそれらの相互作用)を含む「絡み合ったモデル」として最もよく記述されることを支持している[1]

実証的根拠

健康分野の説得メッセージ研究に関する大規模メタ分析は、自由を脅かす言語が受け手の「自由脅威の知覚」と「状態的リアクタンス」を有意に高めること、さらに怒りや否定的認知を増やすことを示している。ただし効果量や異質性にはばらつきがあり、説得結果への影響は条件依存的である[4]

新型コロナ(COVID-19)に関する規制とリアクタンスを対象とした系統的レビューは、規制や強制措置に対するリアクタンスが遵守低下や反発行動と関連する研究が複数あることを示しており、公衆衛生上のメッセージ設計における重要性を示唆している[5]。臨床応用についてのメタ分析では、高リアクタンスの患者は「非指示的/受容的」な治療アプローチに対して良好な反応を示す傾向があり、治療適合の観点からリアクタンスへの配慮が臨床的利益をもたらすことが示された[6]

応用領域

臨床心理学

患者のリアクタンス水準に応じた治療スタイル(指示的 vs. 非指示的)の適合は治療アウトカムに影響しうる。高リアクタンス患者には非指示的アプローチが有効であることを示す証拠がある[6]

保健コミュニケーション

強制的・命令的言語はリアクタンスを高め、ワクチン接種やマスク遵守などで逆効果をもたらすリスクがあることが報告されているため、メッセージ設計では選択肢の提示や説明、共感的表現などでリアクタンス低減を試みるべきである[5]

測定と方法論的課題

リアクタンス理論の中心的予測(自由脅威→怒り・反論→自由回復行動)を概ね支持する一方で、測定・操作の不統一性と研究間異質性が理論の境界条件や効果の強さを評価する上で大きな障害である[1]

したがって、理論の厳密化と、共通の操作・尺度による再検証が求められる[1]。研究の方法論的多様性は効果推定の不確実性を高めており、特に保健コミュニケーションや臨床応用に際しては、メッセージ設計や治療適合の観点から慎重な適用が推奨される[4]

操作化と測定の不一致

リアクタンスをどの指標で捉えるか(自報の怒り、否定的認知、行動指標等)に異同があり、尺度や指標の統一性が欠ける[1]

操作のばらつき

「自由を脅かす」条件の実験操作が研究間で大きく異なり、効果量の異質性が大きい[4]

時限性の議論

リアクタンス情動は短期的に強く現れるが速やかに減衰する場合がある一方で、自由回復を促す動機や行動的効果(例:不服従)はより持続する可能性があると示唆している。こうした動態については、統一的結論には至っておらず、さらなる縦断的・時間系列的研究が必要とされる[4]

出典

  1. ^ a b c d e f g Rains, Stephen A. (2013). “The Nature of Psychological Reactance Revisited: A Meta-Analytic Review” (英語). Human Communication Research 39 (1): 47–73. doi:10.1111/j.1468-2958.2012.01443.x. ISSN 1468-2958. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1468-2958.2012.01443.x. 
  2. ^ a b 深田博己「心理的リアクタンス理論(1)」『広島大学教育学部紀要 第一部 心理学』第45号、広島大学教育学部、1996年、35-44頁、doi:10.15027/29351ISSN 09198652NAID 110000557885 
  3. ^ a b 今城周造「説得への抵抗と心理的リアクタンス:――自由の文脈・決定・選択肢モデル――」『心理学評論』第48巻第1号、心理学評論刊行会、2005年、44-56頁、doi:10.24602/sjpr.48.1_44ISSN 0386-1058NAID 130007631378 
  4. ^ a b c d Ma, Rong; Ma, Zexin; Kalny, Callie S; Walter, Nathan (2025-03-27). “Words that trigger: a meta-analysis of threatening language, reactance, and persuasion in health” (英語). Journal of Communication. doi:10.1093/joc/jqaf004. ISSN 0021-9916. https://academic.oup.com/joc/advance-article/doi/10.1093/joc/jqaf004/8098161. 
  5. ^ a b Drążkowski, Dariusz (2023-12-17). “Reactance against Anti-COVID Regulations – a Systematic Review”. Przegląd Psychologiczny 66 (2): 129–158. doi:10.31648/przegldpsychologiczny.9806. ISSN 0048-5675. https://doi.org/10.31648/przegldpsychologiczny.9806. 
  6. ^ a b Beutler, Larry E.; Edwards, Christopher; Someah, Kathleen (2018-11). “Adapting psychotherapy to patient reactance level: A meta-analytic review”. Journal of Clinical Psychology 74 (11): 1952–1963. doi:10.1002/jclp.22682. ISSN 1097-4679. PMID 30334254. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30334254. 

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