希求法とは? わかりやすく解説

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希求法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/08/24 03:06 UTC 版)

希求法(ききゅうほう、けぐほう[1])または願望法(がんぼうほう)(英語:optative mood)は文法的な法の一つで、話者の意志や希望を示すものである。勧奨法(en:cohortative mood)に似ており、接続法と密接な関係がある。

日本語で言えば、主語の心情または動作としての希望を表現する「…たい」「…たがる」「…てほしい」などの言い方(日本語文法でいう希望)ではなく、「…たらなあ」「…ように」など、話者の願望自体を述べる言い方に相当する。

希求法を持つ言語の例としては、インドヨーロッパ語族古代ギリシア語アルバニア語アルメニア語クルド語古プロシア語サンスクリットセルビア・クロアチア語、またグルジア語トルコ語ナバホ語などがある。

印欧語族

印欧祖語

希求法は印欧祖語に元々あった4つの法の1つである(他の3つは直説法、接続法、命令法)。しかし多くの印欧語は希求法を失うか、または希求法が接続法に変化した。

アルバニア語

アルバニア語では、希求法(mënyra dëshirore:「願望法」の意味)は願望を表現し、また呪いや誓いに用いられる。

  • 願望:U bëfsh 100 vjeç!(100歳まで生きられますように)
  • 呪い: Të marrtë djalli!(悪魔がおまえを連れてってしまえ)

古代ギリシア語

古代ギリシア語では希求法は、主節で願望または可能性を表現するのに用いられた。従属節(目的、時、条件、間接話法での引用を表す)では、希求法は過去時制の主動詞に伴う形で多く用いられる。願望を表す希求法は、それ自体で、または前に小辞εἴθε(eithe)をつけて用いられる。可能性を表す希求法は、主節では常に翻訳不能の小辞ἂνを伴い、従属節ではそれだけで用いられる。

  • Εἴθε βάλλοις (Eithe ballois)「あなたが投げてくれるかなあ」
  • Χαίροιμι ἂν, εἰ πορεύοισθε(Chairoimi an, ei poreuoisthe)「あなたが旅をできたら嬉しいのだが」

コイネーでは、希求法は接続法に取って代わられ始め、新約聖書では、主として慣用句に用いられた。

希求法の語尾は、ο/ε母音を持つ動詞(thematic verb)ではοιに、ο/ε母音を持たない動詞(athematic verb)ではιになる特徴がある。

ゲルマン語

接続法として知られることが多いゲルマン語の一部の動詞は、実際には印欧祖語の希求法に由来するものである。ゴート語の接続法現在形 nimai「(彼が)とるように」は、古代ギリシア語の希求法現在形φέροι「(彼が)運ぶように」と比較されるものである[2]

古い印欧語の希求法がゲルマン語では接続法に当たることは、ゴート語を見れば明らかである。ゴート語は、決まった願望あるいは意図を表していた、印欧語の古い「本当の」接続法を失ったのである。接続法の機能は希求法現在形(当初は可能性、非現実的な事柄、一般的な願望だけを表した)に受け継がれた。

ゲルマン語では、希求法過去形の形態と機能が新たに生み出され、これは過去および未来の非現実を表すものである。このことは、ゴート語、古高ドイツ語古英語古ノルド語の証拠により認められる。この(新しい)希求法過去時制を非現実に使う方法は、明らかに、ゲルマン祖語の過去時制(かつては完了時制だった)が印欧語のアオリストに取って代わった後に起こったものである(Euler 2009:184を参照)。

ラテン語

ラテン語でも同様に、印欧語の希求法に基づいて新たに接続法が作られた。ラテン語ではこの変化により、いくつかの古い接続法形態が未来形になった。従って、禁止法(否定願望と禁止)は、「*ne + 動詞の希求法現在形」という組み合わせで形作られた。

ルーマニア語

ルーマニア語では、条件法と希求法は同じ形を持ち、一般に希求条件法と呼ばれる。

サンスクリット

サンスクリットでは、希求法は動詞語幹に二次的語尾を付けて作られる。時により願望、要望、要求を表現する:

  • bhares「あなたが運ぶように」(能動態
  • bharethās「あなたが[自分のために]運ぶように」(中動態

また可能性(例えばkadācid goṣabdena budhyeta「彼は多分牛が啼いたから起きたのだろう」)[3]や、疑い、不確実性(例えばkatham vidyām Nalam「私はどうしたらナラを見つけられるというのか」)も表現する。希求法は条件法の代わりに使われることもある。

出典

  1. ^ たとえば 泉井久之助『ヨーロッパの言語』岩波新書、1968年、126頁。 
  2. ^ Joseph Wright. Grammar of the Gothic language. page 137, paragraph 288: derivation of present subjunctive.
  3. ^ Gonda, J., 1966. A concise elementary grammar of the Sanskrit language with exercises, reading selections, and a glossary. Leiden, E.J. Brill.

関連項目



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