嗜癖における転写調節
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/31 15:53 UTC 版)
「遺伝子発現の調節」の記事における「嗜癖における転写調節」の解説
嗜癖 (addiction) の主要な特徴の1つはその持続性である。持続的な行動の変化は、脳の特定の領域におけるエピジェネティックな変化に起因する、長期的な変化によるものであると考えられている。薬物の乱用は脳に3つのエピジェネティックな変化を引き起こす。(1) ヒストンのアセチル化とメチル化、(2) DNAのCpG部位のメチル化、(3) miRNAのエピジェネティックな発現上昇や発現抑制、の3つである。(Epigenetics of cocaine addiction を参照) マウスでは、慢性的なニコチンの摂取は、ヒストンのアセチル化によって遺伝子発現のエピジェネティックな制御が変化する。この変化によって、嗜癖に重要な FosB タンパク質の脳での発現が上昇する。タバコへの依存については、非喫煙者、喫煙者、30年以下の禁煙期間の人を含め、16,000人を対象とした研究がなされている。喫煙者の血球細胞では、解析されたゲノム中の450,000のCpG部位のうち、18,000以上のCpG部位において、メチル化が高頻度で変化していた。これらのCpG部位は7,000以上の遺伝子にわたって位置しており、これはヒトの既知の遺伝子の約1/3を占める。CpG部位のメチル化の変化の大部分は、5年の禁煙期間によって非喫煙者のレベルに戻っていた。しかしながら、942遺伝子、2,568ヶ所のCpG部位に関しては、喫煙経験者と非喫煙者とでメチル化の差が存在したままであった。このような持続的なエピジェネティックな変化は、遺伝子発現に影響を与える "moleular scars"として見ることができる。 コカイン、メタンフェタミン、アルコール、タバコの喫煙産物を含め、乱用薬物はすべて、齧歯類モデルで脳のDNA損傷を引き起こす。DNA損傷の修復の際に、損傷部位のDNAのメチル化やヒストンのアセチル化/メチル化パターンが変化し、これによってクロマチンにエピジェネティックな傷が残される。このようなエピジェネティックな傷が、嗜癖でみられる持続的なエピジェネティックな変化に寄与していると考えられる。
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