千里より一里が遠き春の闇
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季 語 |
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季 節 |
春 |
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前 書 |
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評 言 |
「昭和から平成にかけて俳壇の重心のようだった」(鷹羽狩行)。 去る2月25日、他界された飯田龍太氏。風土、人間、歳月・・森羅万象を丹念に見つめ、そして慈しむ飯田氏の諸作品。中でも掲句は、僕が俳句を始めた頃出会って、「こんな俳句もあるのか・・」と感銘を受けた作品。 この句、一読、まずは「千里より一里が遠き」という措辞の不可思議さと「春の闇」のまろやかさ、その配合がもたらすファンタジー性に惹かれる。しかし読み込んでいくうちに、上五中七から滲み出てくる作者の人生観・・「千里」などという野放図な幻を描くよりも、眼前の「一里」の厳しさをしっかりと肝に銘じたい、という意志に気づく。 「戦後の俳句が多様化を進める中で社会性俳句などのムーブメントには一切かかわらず、正統的な現代俳句の道を守り抜き、その俳句観は終生、微動だにしなかった」(酒井佐忠)。 春の闇の深遠は、何か「俳句」そのものに繋がるような、そんな感触もある。まさに僕にとって戒めであり、励ましでもあるこの一句。俳句のことで思い悩む時、僕はこの句を心の中で唱える。 享年86。告別式の祭壇には、愛してやまなかった地元・笛吹市境川の野山の花が飾られたという。 |
評 者 |
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備 考 |
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